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-5-

 自分の部屋を飛び出し、苺香の部屋の前へ。


「苺香、いるか?」


 ドアをノックしながら、声をかけてみる。

 返事はない。


 苺香からは、勝手に部屋に入るなとしつこく言われている。

 とはいえ、鍵がかけられるような構造にはなっていない。


「開けるぞ!」


 素早く言って、ドアを引き開ける。

 苺香の姿はない。


 普段、苺ぱるふぇ・オンラインで遊ぶときにはベッドに寝っ転がっている。

 僕と苺香だけでなく、おそらく他の人たちも、ほとんどがベッドや布団に横になっていると思う。


 苺香のベッドは、もぬけの殻だった。

 ただ、薄手のかけ布団が乱れ、半分床に落ちている。

 シーツにシワができていることから考えて、そこに苺香いたのはまず間違いないだろう。


 そっと触れてみる。

 温もりはない。

 それは当たり前だ。

 僕たちは苺ぱるふぇ・オンラインの中で、一時間以上待っていたのだから。


 ベッドの脇、ちょうど枕のすぐ横になる位置に、移動式のキャビネットが置かれている。

 その上に、ノートパソコンが開かれた状態で存在していた。

 パソコンは起動中。苺ぱるふぇ・オンラインのシステムも起動したままだ。


 そこでちょっとした違和感を覚える。

 なにかが足りない。


 ……そうか、ブレイン・インパルスのヘッドホンがないんだ!


 他になにか、おかしな場所がないか。

 僕は部屋を見回してみた。


 ゲームが終わったら食べようと思っていたのか、テーブルの上にはお菓子が置いてある。

 それは食いしん坊な苺香だから、ごくごく自然なことと言える。


 ハンガーにかけて吊るしてある制服が、今にも落ちそうなほど斜めにずれている。

 それも苺香がゲームやりたさに急いでかけただけだと考えられるので、なんの問題もない。


 カーテンは閉まっている。

 窓を確認してみると、しっかりと鍵がかけられていた。


 苺香がいた形跡はある。なのに、本人の姿はない。

 ブレイン・インパルスのヘッドホンとともに、忽然と消えてしまった――。

 そういうことになるのだろうか?


 ……いやいや、そんなわけない。

 急な尿意を感じ、慌ててトイレに行ったとか。

 あまりに慌てていて、ヘッドホンをつけたままで……。


 それはありえないか。

 VR系のゲーム中、尿意や便意は感じないし、漏らしたりもしないように制御されているらしいのだから。

 どういう仕組みになっているのかは、僕にはよくわからないけど。


 あっ、でも、ログアウトしたあとなら、可能性があるか。トイレでも、お風呂でも。

 そんなの、見に行って見ればすぐにわかる。

 足早に階段を駆け下り、ドアを開け放ってみるも、トイレにもお風呂にも苺香の姿はなかった。


 考えてみれば、いきなりトイレのドアを開けたりして、本当に苺香が入っていたら、僕はどうするつもりだったんだか。

 すぐさま謝罪したとしても、絶対にボコボコにされてしまっていただろうな。


 さて、困った。

 トイレにもいない。お風呂にもいない。

 あとは、どこを探せばいい?


 キッチンからは、いい匂いが漂ってくる。

 一階にはお母さんがいて、キッチンで夕飯の準備をしていた。

 そうだ。お母さんが、なにか知ってるかも。


 僕はキッチンに駆け込み、お母さんに苺香が来なかったか聞いてみた。

 結果は、否。見ていないという。


「苺香ちゃん、どうかしたの?」


 逆にお母さんからの問いかけが来る。

 どう答えていいものやら。


「ちょっと、見当たらないんだ。どこかに出かけたのかな~?」


 そんなふうに軽く答えておく。

 まだ本当に失踪してしまったのかわからないのだから、余計な心配をかけるべきではない。


「学校から帰ってきて、すぐに部屋にこもったはずだけど。いつもみたいに、ゲームをやってるんじゃなかったの?」

「あ……うん、やってたんだけどね。今日はもう終わったから」

「あら、そう。でも、もう夕飯の時間だから、すぐに帰ってくるんじゃない? レモンと違って、苺香は食いしん坊だし」

「……そうだよね」


 僕だって、そう思いたい。

 だけど――。

 不安を悟られないよう、足早にキッチンを出る。


 そのまま僕は玄関へ。

 もし苺香がどこかに出かけたのだとしたら、靴も一緒になくなっているはずだ。


 靴は……あった。

 苺香がいつも学校に行くときに履いている靴が、玄関にはちゃんと揃えて置かれてあった。

 苺香のことだから、脱いだ瞬間はそこら辺に転がされていたと思うけど。

 おそらくお母さんが揃え直したのだろう。


 苺香の靴は、それ一足だけではない。

 下駄箱のドアを開け放ち、隅々まで目を通してみる。

 苺香の靴が全部で何足あるか、完全に把握してはいないものの、空いている場所がないのだから、なくなった靴はないと考えられる。


 苺香の部屋の窓には、内側から鍵がかかっていた。

 玄関から外には出た様子もない。

 苺香は……家の中にいる……?


 そうとばかりは言えないか。

 靴も履かずに急いで飛び出していったとか……。

 いや、そんな可能性、ほとんどゼロに等しい。


 ほとんどゼロ。イコール、ゼロではない。

 万にひとつの可能性に賭け、僕は玄関のドアを開けてみた。

 と、そこには、見知った顔があった。


 苺香がいた、というわけでない。

 玄関前に立っていたのは、世知と剣之助だった。

 ふたりとも、激しく息を切らしている。心配して駆けつけてきてくれたのだろう。


「はぁ……はぁ……。苺香ちゃん、いた?」


 僕は首を左右に振る。


「そう……なのね。もう随分と暗くなってるのに……」


 とりあえず、ふたりを家の中に招き入れ、苺香の部屋まで案内する。

 もう一度、よく確認してみよう、と考えたのだ。

 僕以外の目線で見れば、なにか手がかりがつかめるかもしれない。

 でも結局、世知も剣之助も、苺香の居場所のついて推測することすらできなかった。


 しばらく沈黙の時間が続いたところで、インターホンのチャイムが鳴り響く。


「苺香が帰ってきた!?」


 僕の顔に一瞬、喜びが溢れた。

 苺香が自分の家のインターホンを鳴らすはずがないというのに……。


 一階まで下りてみると、すでにお母さんが玄関のドアを開けていた。

 訪ねてきたのは、えんじゅ先輩だった。

 先輩もまた、世知たちと同じように、心配して来てくれたのだ。

 電車も使って30分くらいかかる場所にある家から、わざわざここまで。


 世知と剣之助、さらにはえんじゅ先輩まで集まってきている現状。

 その様子に、さすがのお母さんも不安げな顔を見せる。


 詳しく話しておくべきだろうか?

 ……いや、まだ早い。

 昔のように、どこかで眠りこけているだけなのかもしれないし。

 余計な心配をかけさせるわけにはいかない。


「苺香、どこかに出かけたみたいだから、ちょっと探してくる!」


 僕はそれだけ言って、玄関から飛び出した。

 みんなもあとに続く。


 辺りはもう、すっかり暗くなっていた。

 そんな中、なんのあてもなく闇雲に探す。

 見つかるはずもない。


 公園、川原、中学校付近。

 必死に走り回ってはみたけど。

 結果は無駄足。手がかりすら得られなかった。


「これって……話題になってる、あの失踪事件……なのかな?」


 世知がつぶやく。


「そんなわけない! 苺香は、帰ってくる! 僕の大切な妻なんだから!」

「それはゲームの中だけだろ~?」


 剣之助が茶化してくる。

 そんなことが言える雰囲気ではなかった。にもかかわらず、あえて口にした。

 少しでも明るい雰囲気にしよう、という剣之助の意図は充分に伝わってきた。


「そうだけど、苺香が大切ってのは変わらないよ」

「うん、そうだよね。わかってるよ」


 世知は沈んだ表情のままだった。

 苺香を心配する度合いは僕が一番強いはずだけど、世知だって剣之助だってえんじゅ先輩だって、仲間として同じ思いを抱いてくれている。

 とはいっても、すでにかなり遅い時間となっている。

 これ以上拘束しては、みんなの親御さんにまで心配をかけることになってしまう。


 みんなを説得し、今日のところは、と帰ってもらうことにした。

 僕も家に帰り、お母さんに苺香が見つからないことを話す。


「友達の家に遊びに行ったとかじゃなくて?」

「うん、たぶん」


 お母さんは、慌てて苺香の友達の家に電話をかけ始めたけど、案の定、見つからなかった。


 苺香はどこにもいない。

 いつになっても戻ってこない。

 僕は寝ずに帰りを待った。

 お母さんも、仕事から帰ってきたお父さんも、眠れなかったことだろう。


 気づけば、いつしか朝になっていた。

 苺香は帰ってこなかった。


 それからすぐ、警察に捜索願を出した。

 警察官が来て、いろいろと事情を聞かれた。

 苺ぱるふぇ・オンラインで遊んでいたことも話した。


 苺香の部屋も、警察によって調べられた。

 それでも、手がかりはなにも得られなかったようだ。


 今、

 僕のそばに苺香はいない。

 大好きな苺香がいない。

 大切な苺香が、いない――。


 僕は学校を休み、自分の部屋に引きこもった。


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