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「ぱ~ふぇぱ~ふぇ、苺ぱふぇ~!」


 いちごが上機嫌でオープンカフェへと入っていく。

 もちろん僕たちメンバーも続く。

 真っ先に席に着くいちご。僕はその正面に座ろうとしたのだけど。


「こら、兄者はここだ!」


 いちごが隣の椅子をパンパンと叩いて示す。


「はっはっは! やっぱ夫婦は、並んで座らないとな!」

「そうですわね~!」

「……それで、『はい、あ~ん!』と言って食べさせてあげる……」

「あははは。うんうん、そうあるべきかもね」


 みんなして、からかいの意味を多分に込めた言葉をかけてくる。


「う……うん、そうだね」


 遠慮がちに、示された席に座る。

 いちごの隣に座ること自体は、これまでにもよくあったけど。

 心持ちが違うだけで、こんなにも気分が変わってくるなんて。


 そうか。僕はいちごと、夫婦になったんだ。

 改めて実感する。

 さすがに、天使ちゃんが言っていたみたいな、「あ~ん」なんてことは、してもらえないだろうけど。

 と考えていたら。


「ほ……ほら、兄者! 口を開けやがれ!」


 いちごが微かに頬を染めて、パフェをすくったスプーンを僕の目の前に差し出してくる。

 言い方が少々乱暴な感じだったのは、実にいちごらしい。


 それにしても……ほんとにやるのか。

 嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな。みんなも見てるし。

 そう思いながらも、スプーンを口に含む。


「どうだ? 美味いか?」

「うん、おいちい!」

「そ……そうかそうか! ほれ、もっと食え! たらふく食え! 目いっぱい食え!」

「もぐもぐもぐ。お返しに、僕も食べさせてあげるよ」

「うっ……。ん、そうだな、わかった。あ~ん」

「はい、どうぞ」

「ぱくっ。むぐむぐ。……うん、美味い!」

「美味い、じゃなくて、おいちい、だろ?」

「お……おいちい……ぞ」

「よくできました!」


 こんな光景を前に、仲間たちは呆れ顔。


「うわ……おいちい、だとよ!」

「ノリノリですわね~」

「……これじゃあ、仲のいい夫婦というより、完全にバカップル……」

「ま……まぁ、いいんじゃないかな?」


 みんな、さっきまで温かくて微笑ましい感じの目で見てくれていたのに、今では完全に生温かい目……どころか、冷えきった目に変わってしまっていた。

 でもその程度では、今の僕のラブラブ気分が冷めたりはしない。


 いちごは言っていた。

 こっちの世界ではラブラブしよう、と。

 少し恥じらっている様子はあるものの、いちごは僕の妻としての生活を楽しもうとしてくれている。

 だったら僕もその気持ちに応えて、思いっきりラブラブするべきだ。


 僕はそのあとも、いちごと思う存分いちゃいちゃし続けていた。

 すると不意に、クララがため息まじりの言葉を吐き出す。


「レモンさんといちごちゃん、ゲームの中だけとはいえ夫婦になって、確実に進展しましたわね~」


 僕たちではなく、なぜかミソシルのほうに顔を向けながら。


「そ……そうだな! はっはっは!」


 ミソシルはいつもどおりの豪快な笑い声を響かせる。

 だけど、その顔はなんとなく引きつっているようにも思えた。


 はて、どうしてだろう?


 ミソシルに目を向けて首をかしげていると、その隣に座っているフランさんも自然と視界に入ってくる。

 なにやらフランさんも、笑ってはいても、どことなく寂しそうに見えた。


 あ……そうだった。フランさんは、仲間であるファルシオンさんが失踪した身だったんだ。

 僕たちを祝福してくれているのは確かだと思うけど、心から笑うことまではできないのだろう。


 失踪事件に関して、手がかりはなにもつかめていない。

 現実世界のほうでは、警察の捜査に進展があったという噂もちらほらと聞くようになってはいるけど、今のところニュース番組などで報道されたりはしていない。

 ただ、失踪者の数は徐々に増えているらしい。もっとも、それも噂の域を出ていないのが現状だけど。


 僕たちばっかり浮かれていて、フランさんには申し訳ないな。

 そんな考えが頭の中に渦巻き、僕の顔は無意識に曇ってしまう。

 それを見咎めたいちごが、これ以上ないほどの明るい笑顔を向けてきた。


「どうした兄者! 暗い顔すんなよ! あたしの旦那なんだから、一緒に笑ってようぜ!」


 フランさんに対する後ろめたさはある。

 それでも、いちごの前では笑っていないと。

 ゲームの中だけではあるけど、大切な人生の伴侶となったのだから。


「うん、そうだね!」

「うむ! 笑顔が一番だ! 笑顔法とか、法律でも作ればいいのにな!」

「笑顔法って……怒ったりしたら、即逮捕?」

「当然だ! みんな笑っていないとダメなんだ!」

「もしそんな法律があったら、いちごは真っ先に逮捕されるだろ……」

「なんだとぉ~~~!?」

「ほら、もう怒ってる」

「うぐあっ!」


 和気あいあいと会話が続く。

 僕たちはこれからも、ずっと一緒にいて、笑い合っていられる。

 そう信じて疑わなかった。


「兄者ってほんと、頼りなくてダメダメな男だよな!」

「それはあれですわよね? 『あたしがいないと、ほんとダメなのよね、この人は』という、のろけを含んだ……」

「そ……そんなんじゃない!」

「はっはっは! 絶対に離れられない仲と言いたいんだな、いちごちゃん!」

「あ……あたしはべつにいいんだけどさ! 兄者が妹離れできてないから! 鬱陶しい限りだぜ、まったく! だいたい心配しすぎだっての!」

「それじゃあ、僕は今後、いちごの回復はしなくていいってことかな?」

「なぬっ!? それは職務放棄だ! 兄者はあたしの専属プリーストみたいなもんなんだから!」

「だとすると、レモンくんはそばにいてくれないと困る、ってことになるよね?」

「うむ、そのとおりだ、フランケン! いなきゃ困る!」

「……いちごちゃんだって、兄離れできてない……」

「そもそも思いっきり頼りにしてますわよね~?」

「そそそそ、そんなことない! 兄者は頼りないんだ! それは確定だ! 全宇宙の真理だ!」

「はいはい、わかったよ。ま、ちゃんと回復するから、安心して」

「なんだよ兄者! あたしをバカにしてるな!?」

「そんなことないから。だってほら、大切な奥さんだからね、いちごは」

「う……うむ、そうだ! あたしは大切なんだ! これからも存分に可愛がるがよいぞ!」

「はいはい」

「その、『はいはい』って軽い言い方がムカつくんだ! このバカ兄者! ウキーーーーーッ!」


 騒がしいのが僕たちのデフォルト仕様。

 オンする人が減り、随分と寂れてしまった感のある拠点の町ではあっても、僕たちはなにも変わらない。

 これからも、ずっと。

 そう考えていた。


「それにしても、結婚したのに兄者って、それでいいのか?」

「うふふ。せっかくですから、『ダーリン』『ハニー』と呼び合ったほうがいいのではありませんか~?」


 不意に、ミソシルとクララがそんなことを言い出す。


 呼び方か……。

 完全に失念していたけど、それはそれでいい!

 甘い新婚生活のイメージにピッタリだ!


 実際には、そんなふうに呼び合っている夫婦なんて、そうそういるとは思えないけど。

 とりあえず、僕としては大歓迎だ。

 場の空気としても、ダーリン、ハニーと呼び合う流れになっていた。


 だけどいちごは、顔を真っ赤にして反撃してくる。しかも、かなり激しい口調で。


「ふざけんな! んな呼び方は絶対にしない! いつもどおりでいい! それ以外は却下だ!」


 どうやら、そこだけは譲れないらしい。


 兄者という呼び方をすることで、一線を越えないようにしている。

 もしかしらた、そんな意図があるのかもしれない。

 ……というのは考えすぎだろうか?


「なにせ、兄者は兄者だからな! あたしのペットなんだから、そんな呼び方をして調子に乗らせちゃダメだろ!」


 ……うん、完璧に考えすぎだったようだ。


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