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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第6章 迫りくる闇の気配
29/68

-3-

 翌日。


 苺ぱるふぇ・オンラインの世界に来てみると、早速フランさんから連絡が入った

 昨日、あのあと知り合いに話を聞いて、失踪する直前にファルシオンさんが行っていた場所がわかったのだという。

 すぐにオープンカフェに集合、話し合いを開始する。


 ファルシオンさんが向かった先は、幻想の湖と呼ばれるラズベリー湖だった。

 フレンド登録している人を片っ端から当たって、複数人からその話を聞いたようなので、まず間違いないだろう。

 フランさんはそのときオンしていなかったし、レイピアさんとクリスさんは買い物に夢中だったから気がつかなかったみたいだけど。

 イメージすれば居場所がわかるシステムとなっていることを考えれば、その情報が比較的簡単に得られたのも頷ける。


 とはいえ、ファルシオンさんはラズベリー湖とその周辺のどこかにいた、としかわからない。

 その後の足取りについてはサッパリだ。

 ならば、手がかりを得るため、現場に向かうしかあるまい。


 そこはよく知らない場所ではあるけど、僕たちよりレベルが上とはいえファルシオンさんがソロで到達できたのだから、行程としてはなんの問題もないはずだ。

 なにせ僕たちは5人パーティーで、今日はフランさんも同行するのだから。

 と、そこまで考えて、改めて気づく。


「というか、フランさんも僕たちのパーティーに入ってください」


 以前に説明したとおり、パーティーの最大人数は6人と決められている。


 僕たちは5人。

 レイピアさんたちもいた場合には、パーティーメンバーに加えられないけど、フランさんひとりだけなら、ひとつのパーティーにまとまっておいたほうがいいに決まっている。


 個人的には、僕たちの中に部外者が入ってくる、というのはあまり好ましくないのだけど。

 フランさんはもう部外者ではない。

 協力して失踪事件を調査する仲間なのだ!


「え? いいの?」


 フランさんは遠慮がちに訊いてくる。

 僕たち5人がいつも一緒の固定パーティーだと知っているため、邪魔しては悪いという思いがあったのだろう。


「いいに決まってるだろ! さあ、あたしたちのパーティーへ! 歓迎するぜ!」


 パーティーへの加入は、声に出して呼びかけ、それに応えることで簡単に行える。

 一時的な即席パーティーで冒険に向かう人だって多いのだから、そんなに構えることじゃない。


「うん、ありがとう。よろしくね」


 まだ若干戸惑い気味ながらも、フランさんが素直に頷くと、システムメッセージが頭の中に流れてくる。

 フランベルジュさんがパーティーに加わりました。

 文字で見えるわけではないものの、だいたいそんな感じのイメージだ。

 パーティーメンバー追加の効果音も鳴っている。


 そこまではよかったのだけど。


「よろしくな、フランケン!」


 にひひひと笑顔を振りまき、いちごがフランさんの腕を取って自分のほうへと引き寄せる。


「うわっ……と。ふふっ、よろしくね、いちごちゃん」


 ちょっとびっくりしてはいたけど、フランさんも笑顔になる。

 当然ながら、反対に僕は不満顔。


 いちごにベタベタくっつくなよ!


 ……まぁ、くっついていったのは、いちごのほうではあるけど。

 そんなことは問題ではない!

 この人はライバルだったのだ!


 僕が睨みつけるような視線をぶつけると、フランさんは不思議そうに首をかしげていた。


「きゅう~~~ん!」


 そこへ、可愛らしい鳴き声が響く。

 いつもどおりテーブルの下――いちごの膝の上に乗っかって隠れていたチビが、勢いよく飛び出してきたのだ。


「あれ? それって、ミニドラゴン?」

「あっ、はい、そうです」

「うわ~、初めて見たよ! ここにいるってことは、ペットなんだよね? 噂には聞いていたけど、ほんとに存在するんだね、ペット取得のイベント!」


 フランさんが本気で驚いた顔をしている。

 そうか。

 フランさんたちとは何度も会っているけど、チビは毎回テーブルの下に入ったりして身を隠していた。

 そのため、チビがいることに、まったく気づいていなかったのだ。


「……パーティーメンバー以外から隠れるのは、ペットの基本行動になっているのかも……。ペットが取得できるのはかなりレアなイベントだし、妬まれてトラブルに巻き込まれるのを防ぐためとか……」

「なるほど」


 天使ちゃんの推測に納得する。


 このゲームはほのぼのした雰囲気で、プレイヤー同士で攻撃し合ったりできないシステムではあるけど、妬みの念から嫌がらせをしてくるような人が出てこないとは限らない。

 レアものの武器や防具だって、町の中では基本的に隠しておくのが普通だとも聞くし。

 もっとも、町の中を重武装で歩くほうが、よっぽどおかしいような気もするけど。


「きゅう~~~ん!」


 チビがいちごにすり寄っていく。


「おっ、チビ! いきなり元気になったな!」


 いちごもそれに応えて、チビを胸に抱く。

 言うまでもなく、フランさんに絡めていた腕は、自然と離れることになる。


 よし! チビ、グッジョブだ!


「お前はほんとに可愛いな! 食べちゃいたいくらいだぜ!」


 いちごも満面の笑みを浮かべているし。


「ほんとに食べるなよ?」


 とりあえず、僕はツッコミ属性を発揮させておく。


「食べないっての!」

「苺味だったとしても?」

「……じゅるっ。尻尾だけならいいよな……?」

「よくないよ!」


 いちご、お前ってやつは……。

 そんなところも可愛いけどっ!


「きゅ……きゅう~~~~ん……」


 チビは本気で怖がっているようだ。

 器用にいちごの腕をすり抜け、ちょっと距離を取った辺りでホバリングしている。

 まぁ、それも仕方がないだろう。

 なにせさっきのいちごは、ヨダレをしたたらせた上、目が血走ってる状態だったのだから。


「はっはっは、そんな姿でも可愛いと思ったレモンも、たいがいな変人だけどな!」

「うふふ、まったくもって、そのとおりですわね~」

「……変人兄妹……」

「僕たちのふたつ名がまた増えた!?」


 仲間たちのツッコミも、いつもどおりだった。

 一方、いちごはチビの恐怖心を取り除くのに必死だ。


「さっきのは単なる冗談だって!」

「きゅう~~~ん……」


 チビはまだ怖がっている。


「ほら、チビ! あたしは怖くなんかないぞ!」

「きゅきゅう~~~ん……」


 チビはまだまだ怖がっている。


「あたしはチビが大好きだぞ? チビだってあたしが大好きだろ!?」

「きゅう~~~ん……」


 チビ……これ以上拒むと、いちごが悲しむぞ?

 そろそろ許してやれよ。


「頷いたな! だったら、来い! 受け止めてやる!」


 いちごが両手を大きく広げる。

 そうだ、行け、チビ!


「きゅううう~~~~ん!」


 ドカッ!

 と音がするくらいの勢いで、チビはいちごの胸にダイブした。


「うぐっ!」


 うめき声を発しつつも、いちごはチビをぎゅうっと抱きしめる。

 その瞬間、甘酸っぱい香りとほのかな温もりが感じられた。


 あ……これは、いちごの匂いと温もり……?

 僕とチビとのつながりが強まってることの証なのかも……?


 ……にへ。


「はっはっは、変人レモンがまたしても妙な妄想してるみたいだぞ!?」

「うふふ、まったくもって、変人さんですわね~」

「……スーパー変人兄妹……」

「パワーアップした!?」


 仲間たちのツッコミも、パワーアップしているようだ。


「あはは……。このパーティーは、こんなときでも楽しいね!」


 こんなときでも……。

 すっかり忘れていた。

 フランさんは仲間が失踪してしまった状態だったんだ。


 それなのに、僕たちだけでこんなに盛り上がって……。

 一瞬、後ろめたい気持ちに包まれてしまったけど。


「うん、そうだよね! 私も、そういう気分でいないとダメだよね!」


 フランさんは明るく笑みをこぼしている。

 だから、結果オーライだろう。

 と思ったのも束の間。


「可愛くて微笑ましい光景も見られたし!」


 フランさんはいちごとチビのほうに視線を向けて、そんなことを言い放った。

 いちごが可愛くて微笑ましいだって!?

 やっぱりこの人は紛れもなく僕の敵だ!


「そりゃあ、いちごは可愛いですけど……!」


 僕は思わず、不機嫌さをいっぱいに含んだ声を返す。


「えっ?」


 フランさんはなぜか、きょとんとした表情。


「ああ、いちごちゃんも可愛いけど、チビが可愛いな~って」

「あ……そういう意味だったんですか」


 ほっと胸を撫で下ろす。


「私もなにか飼いたいんだけど、レアイベントになってるからね。現実世界ではペット不可なアパートに住んでるし」


 フランさんはそう言って微笑んだ。

 僕に向かって。

 そのすぐあと。


「でも……いちごちゃんも可愛いよね。好きになっちゃいそう」

「な……っ!?」


 ぼそっと耳打ちしてきた言葉は、僕の心にクリティカルヒット。

 安心させておいてからの不意打ちとは!

 敵ながられあっぱれだ、なんて言ってる場合じゃない!


 焦りまくる僕に、再びフランさんが微笑む。


「なんてね、冗談だよ」


 とウィンクする。

 くっ……!

 この人は、なんなんだよ、いったい!?


 そんな僕とフランさんのやり取りを見て、ミソシル、クララ、天使ちゃんの3人も薄ら笑いしていた。


 なお、いちご本人はどんな反応だったのかといえば、チビを可愛がるのに夢中で、僕たちのことなんてまったくこれっぽっちも眼中にない様子だった。

 少しくらい気にしてくれたっていいんじゃないだろうか……。


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