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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第6章 迫りくる闇の気配
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-1-

 苺ぱるふぇ・オンライン上のいつものオープンカフェに、僕たちはいつものように集まっていた。


「それにしても、ミソくんが戻ってきてくれて、ホントよかったぜ!」


 機嫌がよければ口もよく動く。

 いちごはずっと喋りっぱなしだ。

 苺パフェだってずっと食べ続けているのに、同時に喋り続けられるとは。


 もっとも、口いっぱいに苺パフェを頬張りながら喋っているため、たびたび飛び散る物体が見えていたりする。

 あ~あ、テーブルにも盛大にこぼしてるし……。


 現実世界ではお母さんに怒られるという意識が働くのか、喋りながら食べていても吹きこぼしたりはしないのだけど。

 ここでは僕たちだけだから遠慮がないせいで、こんな状態になっているに違いない。


「はっはっは! このオレがいなくなるわけないじゃないか!」


 ミソシルは豪快に笑っている。

 いちごの言ったとおり、戻ってきてくれて本当によかった。

 オンライン上で見る限りでは、悩みがあったような顔にも見えない。


「ふふっ。こちらの世界にいるときは、こんなにも豪快な性格ですのに」

「……実際には部屋にこもって悩みまくってた……」


 クララと天使ちゃんが、不満のまじった言葉を返す。

 といっても、無論、怒っているわけではない。

 安堵から来るちょっとした軽口だ。


「はっはっは、そう言うなって!」


 対するミソシルはいつもどおり。

 現実世界の世知の内心もいつもどおりなのかは、僕にはわからないけど。

 今こうして笑顔で僕たちの目の前にいるのだから、余計なツッコミなんて入れる必要はないだろう。


「僕も、ミソシルが戻ってきてくれて、嬉しいよ」


 みんなの会話に合わせて、素直な気持ちを連ねておく。


「はっはっは! そうだろうそうだろう! こうやって抱きつかれるのも、さぞや嬉しかろう!」

「いや、それはあまりよくないんだけど……」


 苦笑しつつ反論する。

 ミソシルはさっきから、僕に抱きつきっぱなしだ。

 体格のしっかりしたごつい男に抱きつかれているのは、やっぱり微妙な感覚としか言いようがない。


「ふふっ。男同士の友情を、肌と肌で感じ合っているなんて、とてもいい光景じゃないですか~」

「クララ! お前のそのBL設定は、そろそろやめてくれよ! リアルでは気色悪く思ってるんだろ!?」

「……でも、実際には男女の絡み合い……」

「あら、本来の姿で想像すると、そうなってしまいますわね~」

「想像するな! 天使ちゃんも、絡み合いとか言わないでよ!」


 まぁ、世知は現実世界でも、普通に僕に抱きついてきたりするやつではあるけど。


「きゅう~~~ん!」

「おっ、チビ! お前もパフェ食べたいのか? よし、食わせてやる!」


 今日はチビも元気そうだ。

 小さな羽をパタパタと忙しなく動かし、可愛らしい鳴き声を響かせている。

 チビが元気なことも、いちごの笑顔率が倍増している要因となっているのだろう。

 そういった意味では、チビはペットというよりも、僕たちパーティーの一員と呼ぶべきなのかもしれない。


「スプーンじゃ、食べづらいか? だったら、ほら! 口移しだ!」

「きゅう~~~ん!」


 …………。

 こういった意味では、チビはペットというよりも、恨めしく邪魔な存在と言うべきなのかもしれない。

 チビ、許すまじ!


 ……いや、待てよ。

 ペットとのつながりが強まれば、意識の共有もできるって話だったよな。

 それなら今のだって、あたかも僕自身がいちごと口移ししたかのように感じてもいいのでは!?


 しまった!

 あの瞬間、僕はちょうど自分の苺パフェを口に含んでいたところだったじゃないか!

 なんてもったいないことをしてしまったんだ!


 後悔先に立たず。

 せっかくのいちごとの口移しを、僕は自らフイにしてしまったというのか~~~!

 悔しい! 悔しすぎる!


「おい、兄者、なにやってんだよ? 気持ちわりぃな」


 気づけば、思わず頭を抱えていた僕に、いちごが白い目を向けていた。


「あ、いや、その……」

「はっはっは! レモンはまたしても、妄想の世界にトリップしてたんだな!」

「ふふっ、相変わらずですわ。妄想の内容は、やっぱりいちごちゃん関連ですわよね~?」

「……あらゆる意味で、キモい……」


 焦りまくる僕を尻目に、仲間たちは容赦ない発言をぶつけてくる。


「きゅう~~~ん……」


 邪気のない可愛らしい瞳のはずのチビでさえ、

 フッ……バカな奴だ。お前は俺にはなれないんだぜ?

 とでも言いたげな顔で嘲笑しているように見えてしまう。


 こいつ!

 いつか焼き鳥にしてやる!

 ドラゴンだから、焼き竜か!


 だけど、そんなことしたら、いちごが悲しむよな。

 悲しむどころか、僕を超大型台風並みの勢いで批難してくるのは間違いない。

 そ……そんなの嫌だ!


「いちご! 僕が悪かった! だから怒らないでくれ!」

「はぁ~? よくわからんが、まぁ、わかった」


 妄想していたせいで混乱し、おかしなことを言ってしまったと、僕はすぐに気づいていた。

 でも僕の妄言に、なぜか納得するいちご。

 と思ったら。


「こら、兄者! ふざけんな!」

「ええっ!?」


 思いっきり怒鳴りつけられてしまった。


「ど……どうしたんだよ、いちご!?」

「さっきのは、怒ってくれ、って振りだろ? 押すな押すなの芸人と一緒だ!」

「んなわけあるか!」


 いちごの思考回路は、やっぱり常人とは激しくズレている。

 自分のことは完全に棚上げして、そんなふうに考える僕だった。


「似た者兄妹だ!」

「似た者兄妹ですわね~」

「……似た者兄妹ね……」

「きゅう~~~ん!」


 チビまで含めて、全員に呆れ果てたような顔をされてしまったけど。




 内容はともかく。

 苺パフェを食べながら、楽しく会話していた僕たち。


 このゲーム内で失踪事件が起きているらしく、警察沙汰にまでなっている。

 詳細はわかっていないし、ニュースでも追加情報などは出ていない。

 そうであっても、遊んでいる人が少なくなっているのは、目に見えて明らかだった。


 だから、不安がないわけじゃない。

 それでも、今の僕たちの周りには暗い雰囲気なんてなかった。


 とはいえ、それもここまでとなる。


 不意に。

 チビがテーブルの下に飛び込んだ。

 定位置となりつつある、いちごの膝の上へと移動したのだろう。


 ……うらやましい。

 などと言っている場合ではない。

 僕たちのほうへ、音もなく近づいてくる影があったからだ。


 といっても、それは見知った顔だった。


「やぁ、キミたち」


 長髪の似合う、お兄さん的存在の人。

 フランさんだ。

 ただ、いつもの爽やかな雰囲気は完全に鳴りを潜めている。


 チビがテーブルの下に隠れたのは、近づいてくる気配を察知したからだと考えられる。

 ミニドラゴンっていうのは、意外と人見知りなものなのかな?


 それにしても、フランさんの様子は心配だ。

 なんだか完全に沈みきった表情をしているし。


「フランケン、どうしたんだ?」

「うん、あのね……」


 いちごが問いかけると、微かに震えた小さな声で、フランさんは語り始めた。


 それにしても、フランケンという呼び方を、フランさんはすっかり受け入れてしまっているようだ。

 フランベルジュというのが本当の名前なのに。

 僕たちもフランさんと略して呼ぶから、知らない人が会話を聞いたら、もともとフランケンって名前だと思われそうな気がする。


 おっと、そんなことはどうでもいい。

 それよりも、フランさんの話に耳を傾けておかないと。


 僕たちが見つめる中、フランさんが最初に口にしたのは、こんな衝撃的な発言だった。


「私の仲間が……ファルシオンがいなくなった……。失踪してしまったんだ……!」


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