表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第1章 苺ぱるふぇ・オンライン
2/68

-2-

「ふぅ~……」


 僕はヘッドホンを外して、ひと息つく。


 正確に言えば、これは普通のヘッドホンではない。『ブレイン・インパルス』のシステムを使用するためのヘッドホン型の装置だ。

 僕たちの遊んでいる『苺ぱるふぇ・オンライン』などのVR系ゲームは、この装置をパソコンに接続することによってゲーム世界の中へと入ることができる。


 あたかもプレイヤー本人がゲーム世界に入り込んだかのように、風や匂いや振動など、ありとあらゆる五感の刺激を体験することが可能。

 それがブレイン・インパルス技術を使ったオンラインゲームの一番大きな特徴と言える。


 今から10年以上前にスタートした第1弾の『ファンタジアーツ』、大ヒットを記録した第2弾の『ドリーミンオンライン』を経て、株式会社アンチテーゼのVRゲームは一般に広まっていった。

 さらにアンチテーゼは、ライセンス契約を結ぶことで、他社にもブレイン・インパルスのシステムを提供する戦略を計る。

 それにより、今では複数の開発会社がVR系のゲームを運営するようになっている。


 初期の頃のゲームは、物々しいヘルメット状のヘッドセットをかぶる必要があったみたいだけど、今ではヘッドホンサイズにまで縮小化が進んでいる。

 基本的に上位互換性があるため、古いヘッドセットタイプの装置を使っていたゲームを遊ぶ場合、この新型のヘッドホンタイプで代用が利くようになっている。

 ちなみに逆はダメで、ヘッドセットタイプの装置では新しいシステムを使ったゲームは遊べないらしい。


 技術は日々進歩しているわけだから、ある程度切り捨てられるのは仕方がない。

 とはいえ、僕たちが使っているヘッドホンタイプの装置だって、そのうち使えなくなってしまう日が来るのだろう。

 そう考えると、切ない気持ちになってくる。

 なぜなら僕たちにとって、苺ぱるふぇ・オンラインでの生活が、現実世界での生活と同じくらいのウェイトを占めているからだ。


 まだスタートして間もない僕たちではあるけど、すでにどっぷりとハマっている状態だったりする。

 いちご――妹の苺香(いちか)も、今までに食べたどんな苺パフェより、苺ぱるふぇ・オンラインの苺パフェが好きだと豪語していて、毎日何時間も遊んでいる。

 ゲームを遊ぶ一番の目的が食べることだなんて、それでいいのかという気もするけど。


 もちろん学校の宿題なんかもあるから、ゲームばかりやっているわけにはいかない。お母さんにも怒られちゃうし。

 だけど可能な限りオンして、苺ぱるふぇの世界での冒険を楽しむのが、今では僕たちの日常となっている。




 ブレイン・インパルス技術を使ったVRゲームは、ほとんどがMMOタイプのRPGとなっているのだけど、タイトル数としてはそれほど多くない。

 というのも、アンチテーゼ側でチェックする体制を整えているからだ。

 現在運営中のゲームは、アンチテーゼ製のゲーム5つの他、ライセンス契約を交わした会社の開発したゲームが10種類程度でしかない。


 企画の段階でアンチテーゼに資料を提出し、開発の初期段階からアンチテーゼ側の用意したテストプレイヤーを参加させる必要がある。

 かなり厳しいチェックを通過しないと運営までこぎつけられないらしく、なんでもかんでもブレイン・インパルスを使ってリアルな体験ができるゲームにする、というわけにはいかないようだ。


 そういった体制になっているのは、第1弾だった『ファンタジアーツ』の問題が尾を引いているのだろう。

 リアルさを追求するあまり、女性を襲ったりするようなプレイヤーが出てしまったという話は、僕も耳にしたことがあった。

 アンチテーゼ側でのシステム的な対策もあったし、悪質プレイヤーのアカウント停止などの対処もしてはいたみたいだけど。

 それでも、ニュース番組などで大きく報じられてしまったこともあって世間的に問題視され、ファンタジアーツは一年足らずで運営終了となり、ブレイン・インパルス技術自体がいきなり窮地に追い込まれた。


 その後、ブレイン・インパルス技術の将来性を見越した企業が投資を申し出るなど、多くの幸運が重なった結果、安全面を充分に考慮した第2弾『ドリーミンオンライン』が発売され、一大ブームを巻き起こすに至る。

 一番盛り上がっていたのは、今から5~6年くらい前、ということになるだろうか。

 それ以降、同じシステムを使った他のゲームも開発されたことで徐々にユーザー数は減っていったものの、現在でもドリーミンオンラインの運営は続いている。


 ブレイン・インパルス技術を使った株式会社アンチテーゼ製のゲームは、数としてはドリーミンオンラインの他に4本しかないけど、どれもそれなりにヒットしている。

 といっても、ドリーミンオンラインほどの大ヒットにはつながっていないのが現状だ。

 しかも他社開発のゲームに関しては、かなりの開発費がかかる上に、アンチテーゼ側の厳しいチェックを通過したにもかかわらず、ひとつとしてアンチテーゼ製のゲームを超える人気になったものはない。


 僕たちの遊んでいる『苺ぱるふぇ・オンライン』も、そんな他社開発のゲームのひとつだ。

 ただ、運営開始から半年が経った今、低難易度と女性ユーザー層の獲得にもある程度成功していることで、ドリーミンオンライン以来のヒットが期待できるとまで言われ始めているゲームだったりする。

 開発したのは、ドリームジェネレーションという会社だっただろうか。


 ともかく、そうやって大きな話題になっていなかったら、僕だってこのゲームのことを知らないままだっただろう。

 実際には、僕はブレイン・インパルスを使ったゲームには興味があって、無料のメールマガジンも購読していたため、新たなVR系ゲームが開始される、といった情報は得ていたのだけど。

 その頃は、やけに苺ぱるふぇ・オンラインへと誘うようなメールが多かった。

 それだけ開発会社としても力を入れて知名度を上げようとしていたのだろう。


 なんにしても、今ではこのゲームに出会えた幸運に感謝している。

 なにせそのおかげで、大好きな苺香と一緒に遊べる時間がぐ~んと増えたのだから。




「今日のクエストも、なかなか楽しかったな。苺香の無茶には困ったものだけど。難易度の高いゲームだったら、一瞬で死んでるだろうな」


 ぼやきながらも、ゲーム内でいちごが剣を構えてゴブリンたちに突っ込む姿を思い浮かべると、やっぱり笑顔になってしまう。


「無茶して突っ込むくせに、持ち前のドジスキルを発動させて、いきなりコケたりするし」


 一応解説しておくと、苺ぱるふぇのゲーム内にそんなスキルが用意されているわけじゃない。

 苺香自身が持っている特性だ。


 実際のところ、現実世界でも苺香は転ぶことが多い。

 かさぶたになっているヒザは痛々しいし、笑いごとではないと思うけど、それでもついつい笑みがこぼれる。

 どうしてなにもない場所で転ぶことができるんだか。


「さて……そろそろ来るだろうな」


 僕はニヤニヤしながら、すぐに飛び込んでくるであろう訪問者を心待ちにするのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ