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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第5章 世知(せしる)を救え!
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「世知、剣之助、おはよう!」

「おはよう、レモン!」

「おは~!」


 僕が教室に入って元気よく声を響かせると、すかさず世知と剣之助から挨拶が返ってきた。

 言うまでもなく、世知は挨拶の言葉だけでなく、自分自身すらも飛ばしてくる。

 大きな胸を押しつけながら抱きついてくるその行動にも、すでに慣れている僕は大して反応しない。


「いや、充分に反応してると思うぞ? とくに下半身が」

「僕の心の中を読むなよ、剣之助!」


 朝っぱらから、いつもどおりの僕たちだった。


「というか、レモン。今日はいつにも増して上機嫌じゃないか?」

「そうそう。それがさ、聞いてよ!」


 僕は昨日の出来事をふたりに話して聞かせた。

 昨日の出来事というのはもちろん、苺香が口の中に大量のお菓子を頬張った状態でオンしていたため、味覚が混ざって苺パフェの味をおかしく感じていた、あの話だ。


 早く話したくて仕方がなかったのだけど、ケータイで話すのは我慢し、学校に着くまで待つことにした。

 それは、ふたりの反応も目で見て楽しみたかったからに他ならない。


「にはははは! さすが苺香ちゃん! 驚かせてくれるね!」

「だろ~? さらにコケでジュースまでぶちまけちゃってさ、大変だったんだよ!」

「そしてレモンは、掃除するのをしっかり手伝わされた、って感じかな?」

「うっ! なぜバレた!?」

「そんなの、当たり前だよ! ねぇ、世知?」

「うんうん、丸わかり~♪ 当たり前すぎて、胸が大きくなっちゃうよ!」

「どういう構造になってるんだよ、お前の胸!」


 僕自身がからかわれる対象となっている気もするけど、それはいつもどおりだし、構わず昨日の件について事細かに語って聞かせる。

 その話を、うんうん頷き、たまに思わず吹き出したりしながら聞いていた世知と剣之助。

 苺香のおもしろ行動を、存分に堪能してくれたようだ。


 ……と、僕は思っていたのだけど。


「なるほどね~」


 剣之助がニヤニヤ顔を向けてくる。


「で?」

「ん?」


 なにを言わんとしているのか、よくわからない。

 これくらい察してくれよ、と言いたげな顔で、剣之助はこんな言葉をぶつけてきた。


「苺香ちゃんの口から吐き出されたお菓子類を、掃除するフリして拾って、ぱくっと自分の口の中へ……って感じじゃなかったのか?」

「そ……そんなことしてないよ!」

「ほんとか~?」

「ほ……ほんとだって!」


 実はちょっとだけ、ほどよく湿っているお菓子のカケラをいくつか食べてみたりはしたけど、素直に答えてなんてやるものか。


「でもさ~、普段は入っちゃいけないって言われてる苺香ちゃんの部屋に入ったんでしょ~? なにか怪しげなこととかしちゃってないの~?」


 世知までそんなことを言い出す。

 抱きつかれている状態のままだから、耳もとに息が吹きかかって、なんだかとてもこちょばゆい。


「怪しげなことなんて、するわけないっての!」

「ほんとに~?」

「ほ……ほんとだって!」


 実はちょっとだけ、マクラの匂いを嗅いだりはしたけど、素直に答えてなんてやるものか。


「にひひひ、レモンってほんと、わかりやすいよな!」

「ほんとよね~♪」

「ななななな、なんだよ!?」

「口では否定してても、顔に全部出てるもんね~!」

「そうそう。僕が全部やりました、って!」

「僕を犯人に仕立て上げるな!」

「でも充分、犯罪ちっくだと思うけどね!」

「うんうん、そうだよね~♪ マクラの匂いを嗅いだりなんて!」

「言ってないことまで、完全に読まれてる!?」


 まぁ、僕たちは今日も今日とて、いつもどおりだった。


「それはそれとして、苺香ちゃん自身が原因だったんだね」

「失踪事件と関連なんて、なかったのね~。当然といえば当然だけど」


 ふたりはそう言いながらも、若干残念そうな表情をしているように見えた。


 失踪事件が起こって不安ではあっても、自分たちからは遠い世界の話、としか思えない。

 せっかくだから探偵気分で原因究明するのを楽しもうと考えていた、といったところか。

 苺香の推理が正しければ、真相へと一気に近づける場面だっただろうし、そうならなくて残念がっているのだ。


 とはいえ。


「確かにあの推理は、突拍子もなかったよね」


 いちごは自分から、電波を受信した、みたいなことまで言っていた。

 我が妹ながら、なんともズレた発想をしている。

 当然、そんなところも可愛かったけど!


「そんないちごちゃんの様子を見ながら、微笑ましそうにしていたのは、どこの誰だい?」

「なんのことやら!」


 どうやら僕の本音は、剣之助にはやっぱり筒抜けのようだった。


「くふっ♪ さすが、電波兄妹よね~!」

「電波兄妹言うな!」


 反論しつつも、いちごとふたり一緒にまとめて表現されている、と考えれば悪い気もしなかったりして。

 電波だろうとなんだろうと、僕といちごはふたりでひとつ! みたいな?


「うわっ、レモンがまた、おかしなことを考えてるぞ!」

「きゃあ~! えんがちょ~!」

「えんがちょって、いつの時代の人間だよ、世知! しかも、そう言っておきながら、僕に思いっきり抱きついたままだし!」

「だって、離れちゃったら寂しいでしょ~? 下半身的に!」

「なにをおっしゃるウサギさん!」

「にはははは、お前こそなに言ってんだよ、レモン!」


 友人同士で喋っていたら、騒がしくなるのは世の常というもの。

 若干、周囲から白い目が向けられているような気がしなくもないけど、今さら言い繕ったところで効果など得られないだろう。

 僕たちが毎日飽きもせずにバカ話していることなんて、クラスメイトたちには周知の事実なのだから。


 ただここで、そんなバカ話には一瞬にして終止符が打たれることとなる。

 急に真面目な顔になって、剣之助がこう言ったからだ。


「また脱線しちゃったけど、今の話、フランさんにも報告しないとね!」


 おっと、そうだった。すっかり忘れていた。

 フランさんはいちごの話を聞いて、苺パフェの味がおかしかった件に関しても調べてみると言っていたんだっけ。

 もし調査しているようなら、いちごのせいで無駄なことをさせてしまう結果になる。


「あと、えんじゅ先輩にも伝えないとだね~!」

「えんじゅ先輩もオンするだろうし、あとでフランさんもまじえて一緒に話せばいいんじゃないかな?」


 えんじゅ先輩は二年生で、教室のある階も違う。わざわざ話しに行くというのは、なんだか気が引ける。

 周囲の目だってあるし、後輩の僕たちからの用事ってことで注目されるのは、えんじゅ先輩としても恥ずかしいに違いない。

 なにせ、もともとおとなしい雰囲気の先輩だから。


 ……先輩、クラスにちゃんと溶け込めてるのかな?

 つい余計なおせっかいとも言うべき心配まで湧き上がってしまう。


「えんじゅ先輩なら大丈夫だよ」


 剣之助が自信満々につぶやく。

 僕は口に出したつもりはなかったのだけど、表情から読んだのか、僕が無意識に声にしていただけなのか。

 そんなことは、この際どうでもいい。

 問題は、なぜそうも自信満々に言えるのかだ。


「なんでお前にわかるんだよ?」

「だって、メールで聞いたから! 先輩、随分おとなしいですけど、クラスで孤立してませんか? って!」

「直球だな! 相手は先輩なのに!」


 剣之助……なんともすごい奴だ。

 こう見えて意外と人見知りで、最初に話したときには僕の陰に隠れるくらいの勢いだったくせに。

 メールアドレスを交換したあとは、僕より頻繁に連絡を取り合っていたのか。

 ……いや、まぁ、僕が連絡しなさすぎなのかもしれないけど。


「ちゃんとクラスに友達もいるし、他にも親戚のお兄さんとは仲よしだし、問題はないってさ!」

「そうなんだ」

「もっとも、友達が多いわけじゃないのは確かみたいだけどね。俺たちと一緒に遊ぶようになって、友達が倍増してよかった、なんて書いてきてたし!」

「ふむ」


 えんじゅ先輩のことは、考えてみたらほとんど知らない。

 でも、知らないのは僕が訊かないからなんだな、と改めて思った。

 いつも前髪で目が隠れていて、しかもおとなしい性格っぽいから、なんとなく遠慮してしまっていたけど。

 これからは気にせずに、いろいろと訊いてみることにしようかな。


 そんなおぼろげな決意を胸にしたところで、朝のホームルーム開始を告げるチャイムの音が鳴り響いた。




 放課後となり、学校から帰った僕たちは、いつものように苺ぱるふぇ・オンラインの世界へと入った。

 そこで、昨日あった出来事を、えんじゅ先輩……いや、天使ちゃんに話した。


「……ふふっ、いちごちゃんらしい……」


 控えめに笑うところが、実に天使ちゃんらしい。

 いちご本人も、「いやぁ~、まさかあんなオチだったとはな!」と笑っていた。

 自分のしでかしたことで迷惑をかけたのに、まったくいちごってやつは……。

 ま、そんないちごも可愛いけど!


 さて一方、フランさんとは直接会えなかったため、ボイスメール機能を使って伝えることになった。

 ボイスメールというのは、フレンド登録してある人限定にはなるけど、離れていても声を届けて会話することが可能なシステムだ。


 フランさんは、僕たちがオンした時点で、すでに冒険に出ていた。

 いつも固定で遊んでいるという4人で冒険中だったフランさんに遠慮して、あとで話します、と言ったのだけど、大丈夫だからと促され、昨日の出来事を語った。

 フランさんの反応としては、天使ちゃんと似たような感じだった。


「それは、なんというか……いちごちゃんらしいよね」


 似たような感じ、というか、ほぼ同じだったと言っていいかもしれない。

 だけど、そっと付け足されたひと言によって、僕のこめかみは一瞬ピクッと震える。


「ほんと、可愛いな」


 僕はなにも答えられなかった。


 この人も、いちごのことを……苺香のことを、可愛いと思ってるんだ。


 またしても、勝手にライバル認定した僕。

 そんな僕には、


「それじゃあ、これで」


 と、ぶっきらぼうに言い捨て、さっさとボイスメールを終了させることしかできなかった。


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