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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第4章 苺パフェの謎
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-4-

 クエストを受けるため、ギルドのカウンターを訪れた僕たちだったのだけど。

 いちごが不意に、こんなことを言い出した。


「あれ? 苺の里のクエストが全部消えてないか?」


 確認してみると、確かにいちごの言うとおりだった。

 苺の里を舞台にしたいくつかのクエストだけが、綺麗さっぱりなくなっている。


 クエストは一定数のパーティーがクリアした段階で消え、しばらくしたらまた復活する、という感じになっている。

 たまたま苺の里のクエストだけそのタイミングが重なってしまい、今は一時的に受注できない状態なのだろう。

 そんな僕の意見とは対照的に、いちごは眉間にシワを寄せる。


「これは怪しい……」


 眉間にシワが寄っていても、いちごは相変わらずラブリーだなぁ~。

 などとバカなことを考えている僕には、ミソシル、クララ、天使ちゃんから白い視線が送られる。


「はっはっは、相変わらずだな、レモンは!」

「うふふ、まったくもって、そのとおりですわ~」

「……怪しいのはむしろ、レモンくんのほう……」


 天使ちゃんのツッコミは、なんだか心にグサッと刺さってくる気がする。

 といった僕たちのやり取りなど意に介さず、いちごは自らの思考に集中していた。


「苺パフェの味がおかしかったのと、なにか関係があるかもしれないよな……。だとすると……」


 いちごの頭の中では、凄まじい勢いで自分なりの推理が組み立てられているようだ。

 そして凄まじい勢いで、おかしな方向に突っ走っていくに違いない。

 僕の予感は見事に的中する。


「苺の里になにかが起こっているのは確かだ! これは行くしかないぜ! 苺パフェの謎! 緊急クエストの発生だ!」


 瞳をキラキラ輝かせながら、いちごが宣言した。


「なに勝手なことを言ってるんだか……」


 ため息まじりのぼやき声をこぼしながらも、僕に勢いづいたいちごが止められるはずもなく。

 残った3人に至っては、止める素振りすら見せず。

 僕たちは緊急クエスト『苺パフェの謎』をスタートすることになるのだった。


 ……言うまでもなく、そんなクエストなんて存在しないのだけど。




 ここで少しだけ解説しておこう。


 苺の里は、その名前が示すとおりの苺の名産地で、苺パフェに使われる苺はすべてその里で作られている、という設定になっている。

 とはいえ、あくまでも設定上でそうなっているだけのこと。

 実際にこの里で栽培された苺が運搬され、洗浄されたのちカットされ、パフェの製造工程に回されている、といった流れにはなっていないだろう。


 それなのに、苺はなにか手がかりくらいはあるはずだと、控えめな胸を張って自信満々に断言する。

 ただ、


「あたし、苺の里には一度行ってみたいと思ってたんだ!」


 続けて添えられた言葉、こちらのほうが本音だというのは、どう考えても疑いようがない。


「ま、そうだろうな……」


 本名もキャラクター名も苺がらみだし、わからなくもないけど。

 僕としても、いちごが行きたいというなら、べつに構わないと思ってはいるけど。

 それでも、問題がないわけじゃない。


 いちごがいるというのに、僕たちがこれまで一度も苺の里に行った経験がなかったことのほうが、逆に不思議に思われるのではないだろうか。

 でもそれは、仕方がなかった。

 なぜなら、僕たちのレベルが低すぎて、クエスト受注の条件を満たしていなかったからだ。


 クエストではなく、自由な冒険で行く分には制限なんかない。

 だから行こうと思えば、基本的にどこへだって行けなくはないのだけど。


 できれば、楽しく遊べることを優先したい。

 そんな理由で、僕がギルドでクエストを受注する際は、推奨レベルをしっかりと確認してから行く先を決めるようにしていた。

 いちごからは不満が出ることもあったけど、そういう場合は苺パフェを多めに与えて対処した。


 ともあれ、僕たちだって成長しているし、レベルもちらほらと上がってきている。

 加えて、ゲーム自体にも慣れてきている上、危険だったら瞬時に戻れるシステムだってある。

 もしなにかトラブルが発生したとしても、きっとどうにかなるだろう。


 それ以前に、低難易度を売りとしているゲームなのだから、危険な状況に陥ることなんてほとんどありえない。

 僕はそう自分に言い聞かせて、鼻歌まじりで飛び跳ねるように先を歩くいちごを追いかけていった。




 道中、モンスターが何度も襲いかかってきた。

 僕たちのレベルでは、まだ安全な域にまでは達していないようで、それなりに苦戦した。

 といっても、このゲームでの話だから、必死になって戦わないと負けるほどの緊迫したものではなかった。


 一生懸命体を動かし、ダンスを踊るようにしてそれぞれの役割を果たす。

 一番役に立ったのは、天使ちゃんの呼び出す精霊たちだろうか。

 どうして筋肉マッチョな見た目なのかは、やっぱり謎だけど。


 もちろん、いちごもファイターとして、真っ向からモンスターへと突撃をかけ、頑張っていた。

 いちごの場合、頑張りすぎると足をもつれさせる可能性も高まるため、プリーストである僕は気が気ではない。

 愛しのいちごがモンスターにめっためったにやられる姿なんて、絶対に見たくはないし。


 相変わらず、ミソシルは大きな斧を豪快に投げつけ、クララは悪の魔女のように業火を操り周囲を燃やし尽くす。

 斧がいちごに当たるんじゃないのか!?

 炎がいちごまで燃やしたりしないか!?

 味方の行動にすら、ヒヤヒヤさせられてしまう。


 そんな、ある意味激しい戦いを乗り越え、僕たちは苺の里へと到着した。


「あれだけのモンスターの妨害があったんだ! 絶対になにかある! 秘密に近づく者を排除する目的があったに違いない!」


 自らの推理の正しさを主張すべく、いちごは大声を張る。

 だけど、風景は至ってのどかだった。


 いや、僕たちの眼前には通常ではありえない光景が広がっている。

 木々が立ち並ぶ代わりに、大きな苺が立ち並んでいるのだから。

 イメージ的には、実際に木の代わりとなっているのだろう。

 ヘタの部分を下にして、尖った部分を空に向ける感じで存在しているいくつもの巨大な苺の実は、確かに木のような形に見えなくもない。


 もっとも、それはここではごく正常な風景でしかない。

 ネット上の文章で見ただけではあるけど、そんな景色だという記述は何度も見かけたことがあった。


 風に乗って漂ってくる、ほのかな苺の匂いも独特な雰囲気をかもし出してはいるけど。

 それだって、この苺の里を象徴する部分だという話だ。


「それにしても、美味そうだよな、この木……というか、巨大苺……じゅるっ」

「かじりつくなよ? いくら苺の匂いがしても、木のはずなんだから」

「わ……わかってるっての! あたしはそこまで、食い意地張ってないぜ!」


 いやいや、止めなかったら、確実にかぶりついてただろ……。

 といった文句は飲み込み、僕たちは苺の里を歩き回り、調べてみたのだけど。

 結局、怪しい部分など、なにひとつとして見つけることができなかった。


「むぅ~、おかしいな。絶対になにかあると思ったんだが」


 いちごがそこまで自信満々だったことのほうこそ、おかしいと言わざるを得ない。

 本当にそれを口にしたりはしないけど。いちごにこれ以上ヘソを曲げられても困るし。


 いちごは不満たらたら、未練たらたらで、諦めきれない様子ではあった。

 あまりにも躍起になって走り回ったせいで、汗もだらだら流れ、呼吸も荒くなっている。

 ここで止めなかったら、無理しすぎで倒れてしまいかねない。


 僕はいちごを優しく諭し、もう時間も遅いから町に戻ろう、と提案する。

 いちごが素直に従うわけがない。

 案の定、


「嫌だ! まだ調査を続ける!」


 とのワガママが返ってきた。

 そこで魔法の言葉を発動。


「苺パフェ、2つ食べていいから」

「よし、帰ろう!」


 即答だった。

 いちご……単純すぎだろ……。

 そんなところも、可愛くて大好きだけど!


 ミソシル、クララ、天使ちゃんが、黙って僕に視線を向けていた。

 その視線に含まれる呆れ度がMAXにまで高まっていたのは言うまでもない。


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