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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第4章 苺パフェの謎
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-3-

 フランさんたちとフレンド登録し合ったあと。

 向こうのパーティーも、オープンカフェの隣のテーブルに着いた。

 せっかくだし、もう少しお喋りしようか、ということになったのだ。


 僕としてはもちろん、早くどっかに行けよ! という気持ちでいっぱいだったのだけど。

 そうはいっても、僕たちのパーティーだって、いつもどおり冒険を楽しむような気分ではないのは明らかだった。

 ここは会話を弾ませて穏やかな雰囲気にし、不穏な噂を完全に振り払ったほうが、心から楽しい時間が過ごせていいだろう。


 と、そこで。

 一心不乱にパフェを食べていたいちごが、新たな不安要素を提示した。


「なんか……パフェの味がおかしいぞ?」

「えっ?」


 さっきまで、そんなことはひと言も口にしていなかったのに。

 不安に包まれていたせいで、ちびちびと食べ進めていたから気づかなかったのだろうか。


 僕たちも、それにフランさんたちも、目の前にある自分用のパフェをスプーンですくい、確認してみる。

 いちごを除く8名が、寸分のたがいもなくピッタリ合わせたタイミングで、スプーンを口にくわえる。

 考えてみると、ちょっとおかしな光景だったかもしれない。


「……いつもの味……」


 真っ先につぶやいたのは、天使ちゃんだった。


「うむ。そうだな!」

「ええ、そうですわね~。なにもおかしな感じはしませんでしたが」


 ミソシルとクララも、同様に答える。


「う~ん、そうだね。私もいつもどおりだと思うよ」


 フランさんの言葉に、他のパーティーメンバー3人も頷く。


「そんなはずはない! 兄者はどうだった!?」


 全員から否定され、顔を真っ赤にしたいちごが、必死に問いかけてくる。

 できれば僕だけは味方になってあげたいところだけど。

 残念ながら、嘘はつけない。


「いや、僕もいつもどおりとしか……」

「兄者のバカっ!」


 どうしてバカ呼ばわりされなくてはならないのやら。


「はっはっは! だがそうすると、いちごちゃんのパフェだけおかしい、ってことになるのか?」

「うふふ、そうかもしれませんわね~」

「……なるほど……」


 みんなの視線が、いちごのパフェに集中する。


「ふむ、そうかも。だったら、ほら! 誰か食べてみろよ!」


 いちごは一瞬の迷いもなく、スプーンでパフェをすくい、僕たちに向かって差し出してくる。

 間接キスになる、という考えになんて、まるで至っていないようだ。


 さて、こういった場合……。


「ま、食べるのはレモンだな!」

「うふふ、そうですわね~」

「……異論はない……」


 僕たちの中では当然、冷やかしまじりにこんな流れとなる。

 それを見たフランさんがどんな反応をするか。

 ここで「私がいただくよ」とでも言い出そうものなら、徹底抗戦する構えだったのだけど。

 その心配は無用だったようだ。


「うん、そうだね、それがいいよ」


 意外にも、あっさり認めてくれた。


 ぱくっ。


 僕は身を乗り出し、いちごの差し出したスプーンをくわえる。


 普段のいちごなら、僕が食べると決まった瞬間、自分から立ち上がってでも口の中に押し込んできそうなものなのに。

 そんな違和感を覚えなくもなかったけど、よくよく考えてみれば、今は膝の上でチビが寝ている状態だ。

 起こしたら悪いと考えて、激しい動きは控えているのだろう。


 それはともかく、いちごとの間接キス……。

 などと喜んでいる場合ではないため、しっかりとパフェの風味を味わう。


「ん~~~~~……」


 すべての視線が僕に注がれる。

 でも……。


 甘酸っぱくて、アイスの冷たさも苺の食感も心地よくて、いつもどおりのパフェの味。

 正直、味に関しては、それ以外の感想はなかった。


「いつもとなにも変わらないぞ?」

「そ、そんなはずはない! もっと食え!」


 いちごは僕の口の中に、何度も繰り返しパフェを突っ込んできたけど、やっぱり変わった味なんて一切しなかった。


「むぅ~。絶対おかしいってのに……」


 ぶつぶつとつぶやきながら、いちごは自分でも食べ続ける。

 僕がくわえたスプーンだとか、そんなのは気にしている素振りもない。

 ちょっとくらいは恥らってくれたっていいのに。


 それはこの際、置いておくとして。


 いちごはパフェの味がおかしいと言っている。

 人一倍、苺パフェが大好きで、とくにこの世界のパフェが最高だと口癖のように語っている。

 僕たちの中で、一番多くこのパフェを口にしているのも、間違いなくいちごだ。


 そのいちごがこう言っている以上、僕たちには感じられない微妙な味の違いはあると思ったほうがいいのではないだろうか?


 愛する妹の主張だから、というわけではなく、総合的に考えた末の結論として、僕は意見を述べてみた。


「はっはっは! さすがレモン! いちごちゃんには甘いな!」

「うふふ、そうですわね~」

「……ほんと、甘い。相手がいちごちゃんだけに……」

「うん、そうだね。いやぁ、いちごちゃん、ほんとにお兄さんに愛されてるんだね」


 総合的に考えた末の結論だとは、誰も認めてくれなかったけど。


「そうだよ! あたしが言うんだから間違いない! これはおかしい! おかしすぎる! きっと、噂になってる失踪事件と、なにか関係があるんだ!」


 僕が味方したことで、いちごは気をよくしたのか、そんな突拍子もないことまで言い出した。


「いやいや、それはいくらなんでも、飛躍しすぎじゃないか?」

「そんなことはない! 女の勘だ! ビビビッと来たんだ! 電波が!」

「電波かよ!」


 いちご……自分でもなにを言っているのか、よくわかっていないんじゃないか?

 電波を受信するいちごも、やっぱり可愛いけど!


「はっはっは! 兄貴は兄貴で、バカっぽい顔をさらしてるしな!」

「うふふ、いちごちゃんは可愛いとか、そんなことを考えていたような顔でしたわね~」

「……電波兄妹……」

「その言い方は断固拒否する!」


 僕は電波ではない。いちごと違って。


「あたしだって、嫌だっての! 兄者なんかと一緒にするな!」


 いちごのほうからも、反論が飛んでくる。

 といった僕たち兄妹の反応を見て、フランさんは実に爽やかな笑顔をこぼしていた。


「仲よし兄妹なんだね」

「はっはっは! 異常なほどにな!」


 ミソシルが余計なツッコミを入れてくる。


「仲がいいのは否定しないけど、異常ではないよ!」

「うむ、異常じゃない! あたしは! 兄者は異常だけどな!」

「なんだと~!?」


 続けざまの僕たち兄妹の言葉は、さらなるツッコミを生む結果にしかならなかった。


「あははは、本当に仲よし兄妹だ。見ていて飽きないね」

「はっはっは! そのとおりだ!」

「ええ、すごく楽しいですわ」

「……からかいがいもあって、最高……」


 僕といちごは、不満で頬を膨らませている状態だったけど。

 僕たちのテーブルの周囲は、絶え間なく笑い声が響く、明るい雰囲気となっていた。


 これなら、冒険に出ても楽しめそうだな。

 そんな思いに至ったのだろう、フランさんたちのパーティーを含めたお喋りタイムはここで終了となった。


 最後にフランさんは、


「一応、私たちも調査してみるよ。パフェの味がおかしい件についてもね」


 真面目な顔でそれだけ言い残すと、オープンカフェから出ていった。


「よし! 気を取り直して、今日の冒険に出発だ!」

「お~~~~~っ!」


 そして僕たちも意気揚々と席を立ち、クエストを求めてギルドへと赴くことにした。


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