表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第3章 爽やかお兄さんとペットな兄者
11/68

-2-

「う~ん……」


 僕のうなり声が鉱山の中にこだまする。


「迷った」

「やっぱり兄者は頼りない!」


 いちごに文句を言われるのも仕方がない。

 甘んじて受け取っておく。

 バシバシと頭に加えられる平手打ちは、少々やりすぎだと思わなくもないけど。


 もっとも、普段から行き当たりばったりな僕たちだから、当然の結果だったとも言える。

 なにせ、こんなにも複雑に入り組んだ鉱山だというのに、マッピングしようなんて発想すらなかったのだから。


 低難易度が売りの苺ぱるふぇ・オンラインに、ここまで迷うほどのダンジョンがあるなんて。

 まだレベルの低い僕たちが挑戦できる程度のこんな場所で……。


 このゲームの場合、どこにいたとしても、一瞬にして拠点となる町までワープして戻れるシステムになっている。

 だからこそ運営側も、ある程度複雑なマップになっていても問題ない、と判断しているのだろう。

 高レベル用のマップだとワープできない場所もあるとか、そんな話も聞くけど、今の僕たちには関係ない。


「はっはっは! しょうがない、戻るか!」


 諦めの早いミソシルが提案し、


「うふふ、それがよさそうですわね~」


 クララも賛同の意を示す。

 時間も時間だし、クエストに再び挑戦するのも無理がある。

 まだもう少し遊べなくもないけど、今日はここまでにしておくしかないか。


 天使ちゃんも黙って頷き、全員が合意。

 ……したかと思ったのだけど、そうではなかった。


 いちごがまだ残っていた。


「ちょっと待てよ! それだと、クエストはどうなるんだ!?」

「もちろん失敗になるね」

「そうなったら、報酬はどうなるんだ!?」

「そりゃあ、あるわけないよ。失敗なんだから」

「だったら次回、苺パフェは……」

「うん、食べられないかな。パーティー共有財産の余裕も全然ないし」


 このやり取りを経て、いちごがはたしてどんな反応を返してくるか。

 僕じゃなくても予測できるというものだろう。


「そんなのダメだ! ふざけんな!」

「いや、そう言われても……」

「だいたいみんなも、どうしてそう簡単に諦めちまうんだ!? もっとあがいて、頑張るべきだろ!?」


 いちごのその主張は立派だと思わなくもないけど、理由が「苺パフェが食べられなくなるから」では、説得力があるはずもない。

 とはいえ、ご立腹のいちごに対抗できる人間なんて、僕たちグループの中には誰ひとりとしていなかった。


「はっはっは! いちご姫がそう言うなら、従うしかないよな! レモンの頭の中を代弁してみた!」


 ミソシルが相変わらず豪快な笑い声を響かせながら言う。

 そのとおりではあるけど、いつから姫になったのやら。

 いちごは確かにわがままだから、そういう素質は充分にあるかもしれないけど。


「……もうちょっと、頑張ってみましょう……」

「おおっ、さすが天使ちゃん、話がわかる! 持つべきものは仲間だな!」


 出かける前には、天使ちゃんは敵だとか散々ほざいていたくせに。

 いちごの手のひら返し能力は今日も健在のようだ。


 でも、そうだな。

 確かに、こんなに簡単に諦めてしまうというのも、なんだか味気ない。

 どうせ一瞬で戻れるのだから、せっかくだしギリギリの時間まで探索し続けてみてもいいか。


 ……などと考えた僕がバカだった。

 まさかその判断によって、自らを窮地に追い込むことになろうとは。


 いや、正確に言えば、状況的には改善した。

 助かった、とも言える。

 だけど、僕にとっては悪い方向へと進んでしまったことになる。


「あっ、こんな場所で人に会うなんて。キミたち、クエスト中?」


 不意にひとりの男性が話しかけてきたのだ。

 長髪が似合いすぎるほど似合っていて、笑顔も爽やかな細身の男性だった。


 その人はフランベルジュという名前で、クラスはソードマスター。レベルは僕たちよりも上。

 ソードマスターはファイターの上級クラスだから、レベルが上なのは当たり前だ。


 一応解説しておくと、このゲームでは一定のレベルにまで到達すると、上級クラスが選択可能となる。

 上級クラスにチェンジした場合でも、レベルはそのまま継続される。

 ただし、選択できるのは基本的に最初だけで、あとから切り替えることはできない。


 実際には、特殊なアイテムがあれば可能みたいだけど。

 そう簡単に手に入るものでもないらしい。


 苺ぱるふぇ・オンラインは、かなり広い世界を有している。

 冒険できるマップもかなりの数がある。

 それでも、クエストに出たら、同じように挑戦しているパーティーに出くわすことが多い。


 にもかかわらず、今日は誰とも会うことはなかった。

 それは、このクエストが……というかこのマップが複雑で面倒だから、挑戦する人が少ないせいなのだとか。


 フランベルジュさんから話を聞いて初めて知った。

 クエストの数も多いから、そこまで気にしていなかったな。

 行き当たりばったりの僕たちらしいとも言えるけど。


 ともかく、僕たちは今、絶賛迷子中だと恥を忍んで伝えたところ、


「だったら私が道案内しようか?」


 と申し出てくれた。


 フランベルジュさんは、この鉱山には採掘目的で来ていた。

 上級クラスになっている、僕たちより高レベルの人ではあるけど、ひとりだけで行動するのは厳しい。

 マップが複雑な上、ここはモンスターの出現率も高いからだ。

 それで、なるべく隠れてモンスターをやり過ごしつつ、採掘ポイントを巡ってアイテムを集めていたのだという。


「クエストだと、一番奥の湖まで行くんだよね? 途中で採掘ポイントに寄っていいなら、同行させてもらうけど」


 そうまで言ってくれたフランベルジュさんに、いちごが一も二もなく飛びついた。


「マジ!? だったら、是非お願いするぜ! よろしくな、フランケン!」

「いや、フランケンじゃないけど……。フランでいいよ。こちらこそ、よろしく」


 いきなりのフランケン呼ばわりに少々たじろぎながらも、フランベルジュさん……いや、フランさんが僕たちのパーティーに臨時で参加することになった。


 クエストは受けていないから、フランさんは報酬をもらえないことになるけど、それで構わないとも言ってくれた。

 目的はあくまでも採掘にあるからだろう。


 僕たちにとっては、迷子状態からも脱出できるし、なんの問題もない……はずだった。

 でも……。


 最初から嫌な予感はしていたんだ。

 僕たちのグループに他人が入るのを極端に嫌ういちごが、あっさりと初対面の相手を引き入れていたから。


 なんというか……。

 いちごがフランさんにべったりなのだ。


 当然ながら、文字どおりにべったりとつっくいている、というスキンシップ的な意味じゃない。

 もしそうなっていたら、僕はとっくに発狂している。


 鉱山内を歩いているあいだ、いちごはずっとフランさんと会話し続けていた。

 僕たちなんていないかのように。

 まるでふたりきりで歩いているかのように。

 デートでも楽しんでいるかのように。


 フランさん、あんたは敵だ!


 そんなことを言うのは、いちごの専売特許かと思っていたけど。

 僕の頭の中は苛立ちで支配されていた。

 間違いない。僕といちごは、血のつながった兄妹だ。


 いちごは心から満足そうに会話を楽しんでいる。

 フランさんも笑いながら喋っている。


「はっはっは、なにジェラシってるんだよ、レモン」

「うふふ。いちごちゃん、取られちゃいましたわね~?」

「……レモンくん、暗殺を目論む忍者の目をしてる……」


 3人がそれぞれに声をかけてくる。


「な……なに言ってんだか。僕はべつに……」


 否定するも、勢いは弱まるばかり。

 小声ではあったけど、ひそひそ話というほどではなかった。

 とはいえ、前を行く2人が気づく気配はない。

 それだけ会話に集中しているということだろう。恨めしい。


「ですが、いい人そうじゃないですか」


 なにを言い出すんだ、クララ! 殴り倒されたいのか!?

 といった思いは、どうにか押さえる。


「いちごちゃんだって、年頃の女の子なんですから。いい相手を見つけていい感じになっていいおつき合いをする。それも悪くないんじゃないかしら~?」

「悪いに決まってるよ!」

「どうしてですの~?」

「はっはっは、どうしてなんだ?」

「……どうしてなの……?」

「うぐっ……!」


 ニタニタと笑いながら問いかけてくる3人。

 こいつら、わかってて言ってるな!?


 それにしても、天使ちゃんまで一緒になって、僕をからかってくるなんて。

 僕のいちごに対する想いは、天使ちゃんには話したことがないはずだけど。

 わざわざ言うまでもなく、一目瞭然なのかもしれない。


 僕は答えることもできず、黙り込んでしまった。

 視線は前方。

 いちごとフランさんが微笑み合っている様子を、がっくりと肩を落として見つめる。


「なんてな! なに、たまたま冒険中に一緒になっただけの相手だ。気にすることでもないだろ!」


 ここでミソシルがフォローを入れてくれた。


「うふふ、そうですわね。大丈夫ですよ。いちごちゃんとレモンくんの絆は、こんなことで途切れたりはしませんわ~」


 クララも。


「……ええ。きっと大丈夫……」


 天使ちゃんも。

 ただ、


「……根拠はないけど……」


 天使ちゃんは正直だった。


 まぁ、それもそうだよな。

 僕といちごは……というか苺香は、これまでずっと一緒に暮らしてきた仲だ。

 簡単に割って入られるような関係じゃない。


 地底湖に着いて、そこに咲く綺麗な花を手に入れたとき、


「この花、いちごちゃんに似合いそうだね」


 とかんなんとかキザったらしいことを言いながら、そっといちごの髪の毛に挿したりして、しかも対するいちごのほうまで、


「わっ、ありがとう!」


 とか言いつつ頬を染めたりしていた気がするけど。

 大丈夫だ。絶対。おそらく。たぶん。きっと。




 僕たちはその後、無事にクエストの目的を達成し、フランさんも採掘を終え、町まで戻ってきた。


「今日はありがとな、フランケン!」

「いや、だから……ま、いいか。こっちこそ、ありがとね」


 いちごだけじゃなく、僕たち残りのメンバーもお礼を述べたあと、


「それじゃあ、また機会があれば」


 フランさんはそう言って、軽く手を振りながら去っていった。

 いちごにフレンド登録を迫ってくるとか、そんな素振りもなく。

 やけにあっさりとした引き際だった。

 ……と思うのは、僕が勝手に敵視しているせいだろうか。


「な? 大丈夫だっただろ?」


 ミソシルが僕にウィンクする。

 筋肉隆々の大男にウィンクされるなんて微妙ではあったけど。

 僕としては、正直ほっとしていた。


 それが偽りの安心感だったと気づくのは、それからしばらく経ったあとのことになる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ