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夢見人  作者: 深水晶
5/12

第5話 祖母

自信を持って何かをした事なんて一度もない

迷いながら

悩みながら

考えながら

実行する


何かを決断するのは苦手だ

いつも不安だ

恐いと思う


だから

最後の決断は

いつも誰かがしてくれると良いと思ってる


それは責任を取りたくないというよりは

自分に自信がないから



(執筆者 笠置博明)



「博明」

 声をかけられ振り向くと、祖母が立っていた。

「随分バタバタしているみたいだけど、いったい何があったんだね。まさか刃物か爆発物を持った強盗が暴れたんじゃないだろうね」

「ばあちゃん」

 助かった、と息を吐く。重かった気分が少し回復する。

 過呼吸を起こした女性は回復しつつあり、側に店員が付き添っている。

「ちょっと、こっち来て」

 他の人達から離れてから、向き直る。

「来てくれて有り難う。ごめん、ばあちゃん」

「なんだい、博明。改まって」

 祖母が苦笑しながら頷いた。

「あ、いや、その……数日前から、嫌な感じがしてて、どうしても確かめたくて……」

 そこまで話してから、何と説明すべきか悩んだ。正直に変な幻覚・幻聴を聞いたから等と言ったら、即座に精神科の診察を受けさせられても仕方ない。自分ですら納得していなければ、消化しきれていないモヤモヤを、どう説明すれば良いのか判らない。

「……嫌な予感がしたんだ」

 迷いながら言葉を紡ぐ。

「タイムセールの商品に、人の肉が混入してるんじゃないかって」

 博明の言葉に、祖母は微かに眉をひそめた。

「だから、そう言ったんだ。そしたら、こんな……」

「……確証はあったのかい?」

 聞かれて首を横に振る。

「じゃあ、何故そんな事を言ったんだい? それに、どうしてそんな事を考えたんだい」

「……それは……」

 博明が言い淀むと、祖母はにっこり笑った。

「思えば、お前は昔からそうだったね」

「……え?」

「失せ物を探し出すのが上手かったり、人の感情や状況の変化に聡かったり。私はお前は実は、見えない何かを見たり聞いたりしているんじゃないかと思った事もあったよ」

「……ばあちゃん」

 博明は目を見開き、祖母を凝視した。

「我が家の家系にはね、時折そういう血が出るんだ」

「え?」

「私の妹がそうだったよ。残念ながら、今はもう死んでしまったけど。お前も何かを見たんだろう?」

「……ばあちゃん」

 声がかすれた。冷たい汗が吹き出してくるのを自覚する。

「別にお前を責めたり、いじめたりしないよ、博明。お前は不器用だが優しい子だ。残酷な事や酷い事に、我慢できなかったんだろう。黙っていられなかった。そうだね?」

「……ごめん、ばあちゃん」

 博明は泣き出しそうだった。

「こんな事になるとは思わなかったんだ。軽率だった。皆に迷惑かけて混乱に陥れただけだった」

 博明がか細い声で言うと、祖母は苦笑した。

「まぁ、人肉入りの食肉なんて非常識以前の問題だしね。お前が思わず感情的になるのも、それで気分悪くなるのも判らないじゃないし。大方の人間の神経を逆撫でした上嫌悪感を煽るのに、これ以上のものはないからね」

「…………」

 博明は無言でうつ向いた。

「お前がこの状況で、正義漢ぶっていたり、調子に乗ったり、反省していないようなら、説教の一つでもしてやるところだけど、十分そうなくらい反省しているみたいだしね。あぁ、さっき警察に通報しておいたよ」

「え! 何で!?」

「駐車場で接触事故やトラブルが幾つか発生してたからね。これはもう個人の力だけじゃ解決しないよ」

「あ……っ、ご、ごめ……っ」

「それはともかく、誰と話をすれば良いのかね。一応お前の保護者として、挨拶しとかなきゃならないし」

「あ……店長はあまり当てにならないと思う。それよりはあの沢田さんって人の方が頼りになりそうだ」

「じゃあ、その沢田さんと店長さんに挨拶しておこうか。なるべく二人一緒にね」

「え、何で?」

 博明はきょとんとした。

「社会、大人の世界じゃ人の役に立つかどうかよりも、階級・役職が結構重要なんだよ。特に交渉事には、形式や礼節も重要だよ。無視されて気分の良い人間はめったにいないからね」

「……自分で責任取りたくない人でも?」

「なら、尚更だね。そういう輩は自分可愛さに何をするか判らない。言い逃れさせたり、付け入られる隙を作ったりしちゃ、かえって危険だ。しっかり話をつけておかなくちゃね」

 祖母の言葉に、博明は息をついた。

「ばあちゃんはすごいね」

「孫にそう言って貰える内が華だね。まぁ、こういう時が、保護者の醍醐味さ。そのために普段孫をこき使って叱ってるようなものだよ」

「え……そうなの?」

 真に受けた博明に、祖母は苦笑する。

「勿論、冗談さ。安心しなさい、博明」

「そうか、冗談なのか。良かった」

 心底ほっとしたように博明が言った。

「ばあちゃんが来てくれて本当に助かったよ。ものすごく不安だったし、恐かったから」

 祖母は苦笑を噛み殺しながら言った。

「でも、帰宅したら、説教タイムだからね。覚悟をおし」

「え……っ?」

 博明は顔を引きつらせ固まった。祖母はニンマリと笑った。

「当たり前だろ。無罪放免だなんて、お前の都合の良い事になると思ったら、大間違いだよ」

 祖母は嬉しそうに言った。

(あぁ)

 博明は情けない顔で、心の中で呟く。

(たまきちゃんのSの本流はここにあったんだ)

 ガックリと肩を落とした。


――To be continued. Next 6th story is "Messagies".


これで一応一区切りです。

次話は続編ですが、新たなエピソードになります。

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