第1話 出会い
第1話では事件らしき事件は全く起こりません。
世界が一本の樹だとしたら
僕は一枚の葉
枝から離れ
地面に落ちるまでが
誕生から死
世界にとって
人の生死は
うたかたの夢の如き
瞬き一つの間の出来事
(執筆者 笠置博明)
「笠置ってお前?」
知らない男子生徒にそう声を掛けられた。
博明は教室で頬杖ついて、ぼんやり外を眺めていた。
「……そうだけど」
博明はおっとりのんびりした口調で、そう答えた。
「あのさ、俺、文芸部の高松義典」
名前に聞き覚えはなかった。
だから、博明は半分寝ぼけているような目つきで、億劫そうに見上げた。
「で、早速本題なんだけど、笠置はどの部にも入ってないし、委員にもなってないだろ? だから、文芸部に入らないか?」
だから、という文脈がおかしい。
「どうして僕に?」
「これ、笠置の書いた詩だろ?」
それは中学の時の文集だった。
夏休みの宿題で書かされた詩だ。
優秀作の一つに選ばれ、卒業文集に掲載された。
博明は首を傾げた。
「君は同じ中学じゃなかったよね」
博明が卒業した中学校は、2クラスしかなかった。
だから、同じ学年にいた生徒の顔と名は記憶していた。
それどころか、ほぼ全員の家族構成も知っている。
小学校からの付き合いで、町内会の集まりにはほぼ全員が参加し、活動も熱心だった。
だから博明は、同じ町内、同じ学区の、同じ学年には、絶対に目の前にいる少年はいなかったと断言できる。
おそらく誰かから借りたのだろう。
博明は小さくため息をついた。
「僕は部活動はしないよ」
「そんなに難しく考える必要はないんだ」
少年は熱心な顔で言った。
「3ヶ月に1度、思いついた事を書いてくれれば良い」
「駄目だよ」
博明は言った。
「ばあちゃんと二人暮らしなんだ」
「え?」
「だから、買い物してすぐ帰らなくちゃ。重い物は持てないから。だから僕は部活も委員もしない。……中学からの知り合いなら全員それを知ってると思うけど」
「……理由は聞かなかった。悪い」
そう言って少年は頭を下げる。
「なら、暇な時に書いて渡してくれれば良いから」
博明はきょとんとした。
何を言われたか、判らなかった。
「え?」
「できるだけ負担かけさせないからさ」
(もしかして、諦めてない? )
博明は相手をマジマジと見た。
「最悪、一度だけ書いて、その後は籍を置くだけでも良いから。頼む! 部員が足りなくて廃部になりそうなんだ!!」
正直博明は呆れた。
「誰でも良いなら、僕じゃない方が……」
「誰でも良くない!」 博明の言葉を遮るように叫ぶ。
「俺は笠置に入って欲しいんだ」
「それは無理。気の毒だとは思うけど」
「どうしても?」
博明は頷く。
「絶対無理」
そう言うと、
「判った」
そう言ったから一瞬安心した。
「笠置の気が変わるのを待つ」
絶句した。
「…………」
それから真顔で。
「首を縦に振るまで、つきまとうから」
それじゃストーカーだと博明は思った。
「いや、無理だから」
博明は言ったが、聞く耳持たない。
それが、高松義典と、笠置博明の最初の出会いだった。
――To be continued. Next 2nd story is "Friends".
この物語はmixi公開小説を多少修正してUPしていきます。
第3話から、じわじわ淡々と、ホラー要素が現れてきますが、グロくならないようサッパリめに描いて行きます。
なおグロい話は前書きに注意書きを表記します。