♯001:登と藍〜出会い編〜①
(ナレ:作)
登と藍が初めて出会ったのは、五歳の時で、病院で出会った。当時の登は泣き虫で誰とでも接する事を拒んでいた。登の父親が病院の医院長と話をするため、退屈しのぎに登が病院内のちょっとした遊戯スペースで遊んでいた時である。
(藍)「ねぇ、ねぇ。一緒に遊ばない?」
この時、登に話かけたのが、藍である。当時の藍は男勝りで髪型もショートヘアー。服装も裕福ではなかったため、母親の古くなったチャイナドレスを腰辺りで切り落としたやつとくるぶしの上で絞ってあるズボンを履いていた。一見すると男の子である。下町育ちでいつも男の子と遊んだり喧嘩したりしていたせいか、傷も絶えなかった。
一方、登はそんな誘いに見向きもせず、ただ黙々と絵を描いていた。
(藍)「返事ぐらいしてよ。」
(登)「・・・・・・。」
藍が顔を覗き込めば、すかさず背を向ける登であった。
しびれを切らした藍はその絵を取り上げるという実力行使に出る。
(藍)「へへん。これ何の絵?」
(登)「返せよ。」
(藍)「答えてくれなきゃやだ。」
(登)「・・・・・・家族。」
この時すでに登の母親は死んでいた。登が生まれる時に死んだのだ。そして、この時の登は自分が生まれる時に自分の母親が死んだ事を知っていた。当時の家政婦が教え込んだのだ。登は自分が母親を殺したと解釈し、それ以降誰とも話さなくなった。
そんな登にも唯一自分が家族と一緒に過ごした気になれた事があった。それが、自分の家族の絵を描く事だった。
藍にとっては絵を描く事はつまらない事。
(藍)「こんな事より鬼ごっこしよう。」
(登)「嫌。」
口数も少なかった登は嫌の一点張り。藍も負けじと登の左手を引っ張りながら応戦していた。
するとそこへ、近所の悪ガキがやって来たのだ。当時のこの病院は子供の遊び場として解放していた。
(ガ)「おい、おまえ。俺の遊び場でなに勝手に遊んでいるんだ?」
悪ガキは登を睨み付ける。登はそれを見るだけで、泣き出しそうだった。
(登)「うっ・・・・・・うっぐ・・・・・・。」
すると、そこへ割り込んだのが藍だった。
(藍)「弱い者いじめは私が許さない。」
半泣き状態の登の前に登をかばうようにして藍は立つ。
(ガ)「生意気だぞ!」
そう言って拳を振り上げる。
「ゴン・・・・・・。」
悪ガキの拳は藍の頭に当たった。この時すでに、気道を父親より教わっていたのだが、「先に手を出したら負け」という父親の言葉より相手の一撃を受けたのだ。
(藍)「痛い。けど、守らなくっちゃ。」
今にもこぼれそうな涙をこらえていた。
(藍)「ふぅ。」
藍は拳を構えて、狙いを定める。悪ガキは何をしているのか、理解出来ていなかった。
(藍)「はぁっ!」
藍が突き出した拳は悪ガキのみぞおちをとらえた。
(ガ)「うぐッ。」
悪ガキは悶えながら逃げていった。
藍は後ろを振り向き登を見る。
(登)「うっ・・・うっぐ・・・。」
(藍)「もういなくなったよ。」
藍は優しく登を撫でる。だが、登は限界だった。
(登)「・・・・・・うわぁーん。」
とうとう登は泣き出した。すると、藍は優しく登を抱きしめた。
(藍)「大丈夫。私がついている。」
「ぎゅうっ。」
登も藍に答えるように抱きしめ返す。今までの登なら抱きしめられても抱きしめ返す事はなかった。だが、藍の優しさに触れた事により人を受け入れ始めたのだ。
(藍)「もう怖くない?」(登)「・・・・・・うん。」
この後、お互い名前を聞かないまま、別れてしまう。
これが登と藍が初めてあった日だが。本人達は覚えていない。
彼らが記憶として覚えているのはそれから四年後の時である。