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夏の遊戯  作者: あお
3/21

2

 「お邪魔しまーす」

 帰宅後、二階の自室で待機していた武の元へ、聞きなれたはつらつとした声が届いた。

階段を登る足音の後、武の部屋の扉が軽く叩かれる。

 「奈緒か。入っていいぞ」

 「お待たせ。どんな感じですか?」

 「まだ何もやってねーよ。じゃあ早速作戦会議だ。適当に座ってくれ」

 部屋の中央に置かれているテーブルの前に奈緒が着座すると、武がそのテーブルの上に

真新しいA5サイズのノートを一冊広げた。

 「お、ノートにまとめるとか本格的だねえ。それじゃあまずこの作戦の作戦名から考え

ないと」

 「作戦名か……。じゃあ、『コンクリート小屋 潜入作戦』とかは?」

 「えー普通すぎるでしょ」

「じゃあどんな名前がいいんだよ」

 「えっとね……外国っぽく、『Operation Concrete house』なんてどう?」

 「英語にしただけじゃん……。まぁそれに決定して、次に進もう。とりあえず、どうや

ってあの小屋に忍び込むかだな。奈緒はなにかいい案ある?」

 「そうだねー、周りを囲ってるフェンスは、前みたいに穴を掘れば潜り込めるでしょ。

問題は、小屋の扉の鍵をどうするかだね」

 過去に一度コンクリート小屋に訪れた際、二人はフェンスと地面との間に穴を掘り、そ

の穴をくぐって中へ侵入した。初めはフェンスをよじ登って越えようと考えたが、フェン

ス上部が有刺鉄線になっており、やむなく前述の手段へと変更したのだ。

 「俺、ピッキングなんてできねーしな。かといって、鍵をぶっ壊すってのもまずいよな

ぁ……」

 

 ――しばしの黙考の後、奈緒が口を開いた。

 「ねえ、こうしてても時間が過ぎて砕けなんだからさ、今から二人でコンクリート小屋

行ってみない? 下見も兼ねてさ。まだ明るいから、直ぐ行って戻ってくれば大丈夫だ

よ」

 それは確かに良い提案だった。百聞は一見にしかずといったところだろう。少し考えて

から武は答えた。

 「そうだな。実際に見たほうが、いい考えが浮かぶかもしれないし。そうと決まれば、

早速行ってみよう」

 かくして、二人の意見はこれからコンクリート小屋へ向うことにまとまった。下見だけ

ということで、二人は特に荷物などは持たずに家を出た。



 例のコンクリート小屋は、近所に広がる林の少し奥まったところに存在していた。まず

武宅から5分ほどの距離にある一軒の民家を目指す。民家の裏手には林への入り口がある

ので、そこから林へと進入する。そして林に入って獣道を10分程歩けば、目的地である

コンクリート小屋が見えてくるはずだった。

 二人は幼少期の記憶を頼りに目的地を目指した。初めは迷うことなく辿り付けるか心配

だった二人だが、山に入って10分、無事にコンクリート小屋を発見することができた。

 「あ、あったよ武! あそこ」

 「はぁ……はぁ……。やっと着いた……。俺たち、昔もこんなに歩いたっけ?」

 「武、運動不足じゃない? やっぱ部活入りなよ。……そんなことより小屋だった。ほ

ら、行くよ」

 コンクリート小屋は前回訪れた時同様、周囲をフェンスで囲われていた。フェンスは高

さ3メートル程で、上部には有刺鉄線が張り巡らされていた。

 「昔のままだね。私達が昔掘った穴はどうなってるだろう?」

 二人は、前にフェンス内へ侵入する際に掘った穴を確認するため、小屋の裏側へと回っ

た。

 「あちゃー穴なくなってるよー。絶対にこの辺だったはずなのに。……仕方ない。面倒

だけど、また掘るしかないね」

 誰かが埋めなおしたのか、あるいは雨風により自然に埋もれてしまったのか、過去に掘

った穴は跡形もなく消えていた。穴はもう一度掘りなおすことに決め、二人は次に小屋の

への進入方法を考えることにした。

 「フェンス越しだからわからないけど、やっぱり鍵掛かってるんだろうな」

 「だろうね。前の時も掛かってたし。うーん、何かいい方法ないかな」

 二人は互いに、小屋への進入方法を思いつくままに提案してみた。しかしどちらの思い

つく方法も何かしらの不備が有り、実践するには至らないものだった。考えが行き詰まり、

二人は辺りをうろつき始める。すると、小屋の周りをぐるぐると巡っていた武が叫んだ。

 「おい奈緒。あれ、窓じゃないか?」

 奈緒は武が指し示す方を見遣った。すると、コンクリート小屋側面の上部に、幅60セ

ンチ、高さ30センチ程の窓のようなものが見て取れた。

 「ほんとだ、換気用かな。でもうまくすれば、あそこからは入れるかも」

 「でも結構高い位置にあるぞ。それにあの窓、外側からじゃ鍵掛かってて開けられない

と思う」

 「大丈夫。クレセント錠なら、窓に小さな穴を開けるだけで開錠できるよ。問題はあの

高さだなぁ」

 「……お前そんなこと良く知ってるな。でもあの高さだと、踏み台か何かを使わないと

届かないぞ。しかもフェンスがあるから、あそこまで踏み台を持ち込むの難しいと思う。

どうすんだ?」

 奈緒は目をつぶり、しばらくの間黙考した。そして何事かを閃いたのか、唐突に声を上

げた。

 「そっか! 武が踏み台になればいいんだよ。なんでこんな簡単なことに気付かなかっ

たんだろう」

 「おいおいまじかよ……。でもそれじゃあお前しか中に入れないし、戻る時同じ方法は

使えないぞ」

 「武は外で待機してくれてればいいよ。帰りはそうだな…………縄梯子。縄梯子を使え

ばいい。縄梯子なら、フェンスに掘った穴でも通せるでしょ」

 「縄梯子ねえ。まぁできなくはないか……。でも一人で入って大丈夫か?」

 「平気平気。いざとなったら大声出すし。もし私の叫び声が聞こえたら、武が助けを呼

んでね。それじゃあ中へ入る流れをまとめるよ。まずフェンスの下に人の通れる大きさの

穴を掘る。穴を掘り終えたらそこから中に入り、窓に穴を開けて鍵を開錠する。そこで武

が踏み台になって、私が小屋の中に侵入する。それで戻るときは縄梯子を使って戻る。よ

し、完璧」

 「ふむ、とりあえずほかに良案が出ない限りは、それでいくことにしよう。方法も決ま

ったことだし、暗くなる前に帰ろうぜ」

 「そだね。細かいことは明日学校で話そう」

 気付けば既に、辺りには夕闇が迫っていた。しんと静まり返った森に、不気味に鳥の鳴

き声が響き渡る。二人は目でお互いを確認すると、帰路を急ぐようにして歩き出した――。

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