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夏の遊戯  作者: あお
18/21

17

 ○某日 小袖村交番にて 束本翔と駐在員の会話


 「束本翔君、小袖中学校二年生ね……。それじゃあその、昨日起こった出来事について

話してもらおうかな」


 「はい……あの、あの時は動転しちゃってて記憶が曖昧な部分もありますが、その辺は

勘弁してください」


 「君が気にすることはない。覚えている限りを伝えてくれれば、それでいいよ」


 「はい、わかりました……。昨日の……多分午後三時くらい思います。目を覚ました時、

僕は見知らぬ部屋にいました。何故自分がそこにいたのか、その場所が何処なのかは、目

覚める直前の記憶が無いのでわかりません」


 「ん、その記憶が無いというのは、記憶喪失って事なのかな?」


 「……そうだと思います。朝起きてから正午にかけての記憶はあるんですが、どうもそ

の後の記憶が無いんです。昼から誰かと会う約束をしてたのは覚えてるんですけど、それ

が誰なのか、実際に会ったのかは覚えていません。……とにかく、気づいたら僕は、見知

らぬ部屋にいたんです。どうして自分がそこにいるのかもわからないまま……」


 「ふむ……。もし記憶喪失なら、記憶を失う直前に頭部へ何らかの強い衝撃を受けてい

る可能性があるね。念のため、近いうちに病院で検査してもらったほうがいいだろう。と

りあえず今は、話を続けてくれるかな」


 「はい。目覚めた時、周囲はほとんど真っ暗な状態でした。辺りを見渡してみると、青

い光のようなものがそこらじゅうに点々とあって、それで微かに視界が開かれている状態

でした。僕はその青い光がなんなのか確かめる為に、そこへ歩み寄りました。そしたら…

…」


 「ん、どうしたんだい? 気分でも悪いのかな」


 「……いえ、大丈夫です。少し思い出したもので……話を続けますね。ええと、その青

い光に歩み寄ってみると、それが透明な容器の中身を照らしていることがわかりました。

そしてその容器の中身ですが、……自分が見る限り、人間の脳みそのようなものでした。

その青い光は部屋の至る所にあって、確実に百以上はありました。僕、その脳みそを見て

ひどくビックリしてしまって。自分は夢でも見ているのかと思いました。でも時間が経つ

につれて、これが現実だとわかりました。それから僕は、とにかくこの場所から離れたい

と思いました……」


 「脳みそね……にわかには信じられない話だ。作り物ではないのかな?」


 「正直あれが本物かどうかは、今となってはわかりません。まじまじと観察したわけで

もないですし……。しかしあの時に僕が見た限りでは、あれは本物だと思いました」


 「……そうかい。まあそのことについて今議論しても仕方ないし、次に進もうか。それ

じゃあ、脳みそを見た後について」


 「はい。それから僕は、出口を探すことにしました。とにかくその気持ちの悪い部屋か

ら出たかったんです。行動に出ようとした時、自分が手に懐中電灯を持っていることに気

づきました。そして背にはリュックサックを背負っていることも。勿論何故そんなものを

自分が持っていたかは、直前の記憶が無い為わかりませんでした。ちなみに、リュックは

自分の私物でした。リュックの中身は、軍手、ビニール紐、折り畳みナイフ、方位磁針、

ペットボトルのジュース、折り畳みナイフ、お菓子類などでした」


 「何でこんなものを持ち歩いていたんだろうね」


 「それもわからないんです。まるで探検にでも出掛けそうな持ち物ですよね。探検なん

て、小さい頃に遊びでしたきりなのに……」


 「ははは。そんな趣味も無いのに、おかしなもんだね。ごめん話がそれた。続けよう」


 「はい。僕は手に持っていた懐中電灯で、自分の周囲を照らしました。その時、足元に

何かが落ちている事に気づきました。落ちていた物は、シャベル、リュック、懐中電灯で

した。シャベルの用途はわかりません。懐中電灯はおそらく視界確保用だと思います。リ

ュックの中身は、中まで確認していないのわかりません」


 「ふむ、シャベル以外は君の装備と一緒だね、そこから推測すると、落ちていたリュッ

クの中身も、君のリュックと同じようなものが入っていたと考えられる。あくまでも推測

だけどね」


 「はい。その後僕は、落ちている物を放置し、出口を探して歩き出しました。まず壁に

突き当たるまで真っ直ぐに歩き、壁に突き当たると、そこから壁伝いに出口を探しました。

するとすぐに出口らしき扉を見つけました。扉を開けると、真っ暗な長い直線の通路が、

奥の方へ延びていました。僕はその通路を進んでいきました。その通路は一本道で、他の

部屋に通じる扉などは見当たりませんでした。通路の突き当りまで行くと、今度は上りの

階段が現れました。やはりその階段も一本道で、上っていくと、小屋のような建物の中に

出ました」


 「ううむ。つまりさっきまで君のいた部屋は、小屋から通じる地下に存在したというこ

とか……。それじゃあ今度は、その小屋について教えてくれるかな。小屋の中の様子とか、

周囲の状況、その他覚えている事などを」


 「はい。小屋は内も外もむき出しのコンクリートでできていました。大きさは……学校

の体育用具室を少し広くした感じですかね。僕は階段で小屋の地面から室内に出ました。

小屋には外へ通じる扉が一つだけありました。でも外から鍵がかかっていて、そこから外

へ出ることはできませんでした。仕方ないので、他に外へ出る方法を探そうと室内を見渡

しました。室内はまるで空き家のような感じで、物などが一切ありませんでした。扉から

見て左の壁の上部に窓がついていて、そこから縄梯子のようなものが垂れ下がっていまし

た。僕はその縄梯子を使って外に出ました。縄梯子は、小屋の室内から伸びて、外のフェ

ンスに結び付けられていました。フェンスは小屋の周囲をぐるっと囲っていて、上の方は

有刺鉄線になっていました」


 「有刺鉄線のフェンスとは、ずいぶん厳重な小屋だね。盗むものなんて何も無さそうな

のに」


 「僕もそう思いました。でもフェンスで囲われていたのは本当です」


 「そうか。恐らく、地下にある不気味な施設への立ち入りを封じるためだと考えるのが

妥当だろう。続きを」


 「はい。外に出て気づいたのですが、窓の外のすぐ下の地面に、シャベルが突き刺さっ

ていました。何に使ったかは……わかりません。僕は、フェンスの外に出ようと出入り口

を探しました。少ししてフェンスの出入り口を見つけたんですが、ここも小屋の出入り口

同様、施錠されていました。なので別の方法を探すためにフェンス沿いを歩きまわりまし

た。すると程なくして、フェンスの地面に穴が掘られており、そこから潜り抜けられる箇

所を発見しました。僕はその穴を潜って、フェンスの外へ脱出しました」


 「またシャベルか。普通に考えれば、そのシャベルはフェンス下の穴を掘るために使用

したものだろう。……ちなみに、目覚めてからここまで、どれくらいの時間が経過してい

たのかな?」


 「恐らく三十分くらいだと思います。自宅についたのが四時少し過ぎで、自宅から小屋

までが約十五分くらいですから、計算すると、地下の部屋で目覚めたのは三時半くらいで

すかね」


 「なるほど。それで話を戻すけど、小屋から自宅へはどうやって帰ったのかな?」


 「はい。小屋はどこかの林の中に存在していたんですが、僕はその場所に見覚えがなく、

自宅のある方向がまるでわかりませんでした。仕方なく周囲を歩き回っていると、木にビ

ニール紐が巻きつけてあるのを発見しました。更に、その場所から紐の巻きつけられた木

が一定の間隔で奥へと続いているのが見えました。他に寄る辺もないので、その印のつい

た木を頼りに林を進んでいきました。十分ほど歩いた時、林の出口が見えました。林を出

ると見慣れた景色が飛び込んできて、その時初めて、実は小屋のあった場所が、僕の知り

合いの家の裏の林の中であることがわかりました。そこからは先は何度も通ってよく知っ

ている道なので、迷わず帰宅しました」


 「その知り合いというのは、誰だい?」


 「瀬山仁平さん。漁協の組合長をしている人です。家には何度か上がったことがあるん

ですが、おじさんに裏の林には危ないから入るなと言われていたので、林に入ったことは

ありませんでした。なので林の奥にあんな小屋が存在するなんてことも知りませんでし

た」


 「あぁ瀬山さんね、わかりました。……よし、話は以上かな?」


 「はい……。今話した内容を家族にも話したのですが、小屋のことなんて誰もしらない

し、地下で見たことも、冗談だと思って真剣に取り合ってくれませんでした。でも僕、昨

日あそこで見た物が恐ろしくて……誰かに知らせなきゃと思って……それで駐在さんに話

そうと思ったんです。駐在さんなら、僕の入ってることを信じてくれると思ったから…

…」


 「うん、わかりました。君の話を信じるよ。この件については、この後私のほうで調べ

ておきます。それとこちらから連絡があるまで、君が昨日見たことは他の人には秘密にす

るように。下手に周りに知られると、騒ぎになる可能性があるからね。いいかな?」


 「……はい。あの、何か進展があれば、教えてください」


 「わかった。その時は必ず連絡するよ。それと、君は頭を強く打っている可能性がある

ので、念のため後で病院に行くように。それがわかれば今日は帰ってよし」


 「はい。今日は話を聞いてくれてありがとうございました。失礼します」



 束本翔平はそう言って頭を下げ、交番を後にした。駐在は交番の外に出て、蝉時雨の中

をふらふらと歩いて行く翔平の後姿を見送った。翔平の姿が見えなくなると、駐在は交番

の中に引き返し、仕切りで区切られた事務仕事をする部屋へと向かった。そしてそのまま

机の上に置いてある電話の受話器を手に取り、どこかへ電話をかけ始めた。



 「もしもし、こちら………………」

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