浮気を繰り返してきていた婚約者がいきなり婚約破棄を告げてきまして……? ~ここからはそれぞれの道を歩みましょう~
これまで散々浮気を繰り返してきていた婚約者の彼アダームィスから婚約破棄を告げられたのは、夏のある平凡な日であった。
彼はいつも私を放置して遊び回っていたのだが、珍しく呼び出しをかけてきて、稀なことに困惑しながら彼のもとへ向かうと関係の終わりを宣言された。
『お前って面白くないんだよな〜。俺的にはさぁ、もっと、刺激的な女がいいんだよ。お前みたいな堅実だけどそれだけの女とか……あまり価値がない、ってこと。分かったか? それが分かったら、俺の前からさっさと消えてくれよな〜』
今まで何度も浮気された。けれど彼はそういった時には謝罪するから、仕方なく許してきた。が、それが間違いだったのだと今なら分かる。あんな人を、同じ失敗を平気で繰り返すような人を、許すべきではなかったのだ。もっと早く、こちらから切り捨てておくべきだった。そうすれば、こんな不快な思いをすることもなかったのだ。
婚約破棄なんてされたら、どうしてもモヤモヤしてしまうものだ。
たとえそれがややこしい男性からの解放だとしても、である。
なんだかまるで私が悪いことをしてしまったかのようで……婚約破棄、という響きには、常に不快感がつきまとう。
ただ、それでも人は生きていくものだ。
どんな状況にあっても。
どんな心でいても。
それでも前へ進むしかない。
◆
婚約破棄を告げた日から一年半。
アダームィスはララミーアという女性と婚約し結婚したが、攻撃的な性格の彼女に逆らえず、虐げられてしまっている。
ありとあらゆる雑用を押し付けられ、完璧にこなせなければ凄まじい勢いで責められる。そんな毎日の中で、彼は枯れかけの植物のようになってしまっている。責められても、酷い言葉をかけられても、今の彼は何も言い返せない。
言い返そうとなどすれば、さらに攻撃的なことを言われる。場合によっては叩かれるくらいの雰囲気になってしまう。否、実際に叩かれたこともある。それゆえ彼は何一つ言い返すことができない。どんなに理不尽なことを言われたとしても、である。
「ねぇ、ちょっと、どうなってるの? これ! 洗濯、まだ終わってないの?」
「すみませんすみませんすみません……」
「しかもぉ、この前頼んでた茶葉もまだ届いてなくない? 注文ちゃんとできたの?」
「はい……しました、注文……」
「はぁぁ!? でも届いてないんだけど! それっておかしくない? 確認したの!? ちゃんと確認した!?」
かつて、罪のない婚約者に対して『俺的にはさぁ、もっと、刺激的な女がいいんだよ』などと言い放ち、しかも言うだけでなく言いながら切り捨てたアダームィス。
彼は今、刺激的過ぎる女性に虐げられ、酷い扱いを受けている。
だが、刺激的な女がいい、と言っていたのだから、その願いが叶ったとも言える。彼が欲していた女性像、その答えが、ララミーアだったのだ。
「確認したの? って、聞いてるんだけど!!」
「……すみ、ません……その……他の用事が、色々、忙しくて」
「してないってこと?」
「……はい」
「やっぱり! おかしいと思った! っていうか、届くのが遅い時はちゃんと確認しなさいよ!! 変だなって思ったらすぐ確認して、って、前も言ったじゃない!!」
「言われなかったので……」
「そういう問題じゃないッ!! 注文して、届いて、それで話がようやく終わるってこと! 一つの用事が完了したってこと、でしょ!? これじゃ何の意味もない!! いいから、早く、確認して今度こそちゃんと注文してよ。ほら! ダラダラしていないで! 早くッ!!」
アダームィスに穏やかな日常が戻ることは二度とない。
彼はこれからも当たり散らされこき使われ続けることだろう。どこまで行っても地獄、解放の瞬間など訪れはしない。
いつの日か、命尽きるまで、永遠にこのままだ。
◆
アダームィスには婚約破棄されてしまった私だけれど、あの後思わぬところで良い縁に恵まれることができ、結婚できた。
婚約破棄された直後、父親のすすめで始めた釣り。それが縁をもたらしてくれた。
ある時、家から徒歩数分の湖で釣りをしていたところ、一人の青年が声をかけてきて。そこからすべてが始まっていく。
たびたび顔を合わせることとなった私たちは、会うたび釣りをしながら釣りについて語り合うようになり、気づけば親しくなっていた。それでもまだその時は単なる釣り仲間と思っていたのだけれど。そこから釣り以外でも会うようになり、いつしか未来を想うようになっていって。その果てで、彼から想いを告げられ、頷いた。
そうして私たちは結ばれたのである。
彼は現在も釣りを続けている。
そんな彼が釣ってきてくれた魚を捌くのが、今の私の密かな楽しみだ。
初めて魚を捌くことになった時にはかなり緊張して手が震えるほどだったけれど。経験を重ねた今は、深く考えることなく、楽しみながら魚に向き合えるようになっている。
◆終わり◆




