第8話:潜入中の敵幹部と、魔法のコンテナ技術
【悲報】黒いロボのパイロット、実はイケメン説【ソースは女子アナ】
210:名無しのポリス好き
おい、さっきのニュース見たか?
現場にいたリナ記者が「あのパイロットは若くて仕事のできる整備士さんです!」って漏らしてたぞ。
211:名無しのポリス好き
整備士……?
あんな変態機動を計算できる奴が、ただのネジ回しなわけねーだろww
212:名無しのポリス好き
でも、もし本当なら「技術の勇者」だよな。
どこにいるんだよ、その天才。
***
「……ここね。あのイレギュラーの潜伏先は」
坂本重機整備の向かいの通り。
つばの広い帽子を深く被り、サングラスで顔を隠した美女——スカーレットが立っていた。
彼女は昨日、アヴァロンにコテンパンにされた『紅の閃光』。
だが、プライドの高い彼女は、負けたままではいられなかった。
(あの『カイト』とかいう男、どんな最新設備を使っているのかと思えば……)
目の前にあるのは、どこにでもある古臭い町工場。
だが、中からは賑やかな声が響いてくる。
「カイトくーん! お昼は出前取るけど、カツ丼でいい!?」
「リナさん、作業中だから勝手に決めないでください」
「カイト、この回路図の128行目、電圧の閾値設定が甘いわ。私が書き換えておいたから」
「セレナさん……。勝手に本番環境を弄らないでって言っただろ……」
スカーレットは眉をひそめた。
(……なによ、あの女たちは。技術の研鑽もせず、馴れ合っているだけ?)
彼女は「客」を装い、工場へと足を踏み入れた。
「……ごめんください。……壊れた機体の修理をお願いしたいのだけれど」
作業服姿の青年——カイトが顔を上げた。
「いらっしゃいませ。……おや、かなり珍しいモデルですね」
スカーレットが差し出したのは、偵察用の小型ドローン。
わざと回路をショートさせ、この世界の技術では「基板交換(全取替)」が必要な状態にしてある。
「直せるかしら? 本部のエンジニアには、もう寿命だって言われたんだけど」
カイトはドローンを手に取り、数秒眺めてからニヤリと笑った。
「直せますよ。……ただ、この古いOSを維持したまま機能を増やすのは、非効率ですね。
——コンテナ化(Docker)しちゃいましょうか」
「……コンテナ……? なにそれ」
スカーレットが呆気に取られている間に、カイトは端末を接続し、凄まじい速度でタイピングを始めた。
「この世界のロボット制御は、一つのOSに全部の機能を詰め込みすぎなんです。
だから、一箇所がバグると全部止まる。
俺のやり方は、機能ごとに仮想的な『箱』を作って、独立して動かします。
これなら、ショートした回路があっても、他の機能は影響を受けない」
「……は? 仮想化? そんなこと、ハードウェアの制限でできるはずが……」
スカーレットの予想を裏切り、ドローンの瞳が青く点灯した。
しかも、以前より明らかに動きが滑らかになっている。
壊れた箇所を避け、残ったリソースだけで「最適」な動作を構築していた。
「……嘘。……既存のハードを一切変えずに、論理構造だけで性能を底上げしたの?」
「ええ。ゴミ捨て場にあった部品でも、管理次第で最新型に勝てますよ。
……あ、修理代は三千円でいいです。部品代かかってないんで」
「三千円!? ……ネオ・ギアスの最新研究予算でも無理なことを、三千円で……!?」
スカーレットは戦慄した。
自分が今まで信じてきた「パワーと速度こそ正義」という思想が、この青年の「整理整頓」という名の魔法の前に、ガラガラと崩れ去っていく。
「……あなた。……その腕、組織に売れば大金が手に入るわよ。
なぜ、こんな場所で燻っているの?」
カイトはスパナを拭きながら、遠い目をして答えた。
「大金より、自分の造りたいものを、自分のペースで造れる環境の方が大事なんです。
……前世で、散々利用されましたからね」
「……前世?」
「あ、いや、独り言です」
カイトの穏やかな、だが芯の通った笑顔。
スカーレットは胸の奥がチクリと痛むのを感じた。
(……なによ、この男。……ムカつくくらい、カッコいいじゃない)
「……また来るわ。この子の『メンテナンス』にね」
スカーレットは逃げるように工場を後にした。
それを見送るリナとセレナの視線は冷ややかだった。
「カイトくん……。今の美少女、絶対ただの客じゃないわよ。私の記者としての勘が言ってるわ!」
「同感ね。あの歩き方、相当な訓練を受けているわ。……カイト、あなた、また変な女を釣ったわね?」
「……俺はただ、三千円の仕事をしただけだろ」
カイトは溜息をつき、アヴァロンの格納庫へと向かった。
——スカーレットは気づいていなかった。
カイトが施した『コンテナ化』によって、ドローンの通信出力が最適化されすぎ、
街中に張り巡らされた勇者警察の傍受網に、その「あまりに高度な信号」が筒抜けになっていたことを。
同刻、勇者警察本部。
「……警報!? 街のノイズの中から、解読不能なレベルの超高度な暗号通信を検知!」
「待て、この通信アルゴリズム……先日現れた漆黒の機体のものと同系統だぞ!」
技術局のモニターには、カイトが書き換えた『Docker』の構造が、
異世界のエンジニアたちには理解不能な「魔法の設計図」として映し出されていた。
「すぐに発信源を特定しろ! この技術の持ち主を……絶対に逃がすな!」
——カイトの「三千円」の仕事が。
意図せずして、警察とネオ・ギアスの両方を、自分の工場へと引き寄せる『ビーコン』になっていた。
【作者コメント】
お読みいただきありがとうございます!
敵幹部スカーレット、潜入(?)回でした。
IT用語「コンテナ(Docker)」を修理技術として出してみましたが、いかがだったでしょうか?
「三千円で世界を震撼させるカイトw」「スカーレットもチョロそうだな」
と思っていただけましたら、ぜひ感想、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援よろしくお願いします!




