第7話:紅のライバルと、分散型合体(ロードバランシング)
【速報】湾岸の貯蔵施設にネオ・ギアス出現!【赤い悪魔】
1:名無しのポリス好き
ヤバい、今回のネオ・ギアス、いつもの重機ロボじゃないぞ。
人型の真っ赤なやつだ。ジェイ・ガストが追いつけてない!
2:名無しのポリス好き
動画見た。速すぎワロタ……。
あれ、勇者警察の機体より数世代先を行ってないか?
3:名無しのポリス好き
あ、黒いの来た!
『アヴァロン』だ! 屋根の上を跳んで現れたぞ!
***
湾岸のエネルギー貯蔵施設。
そこでは、白銀の勇者『ジェイ・ガスト』が、紅い残像を追って空しく弾丸をばら撒いていた。
「くっ……速すぎる! センサーが追いきれない!」
『隊長、敵機の機動は物理限界を超えています!
超AIの予測演算がオーバーヒート寸前です!』
勇者警察の悲鳴を切り裂くように、通信回線に高圧的な笑い声が割り込んだ。
「ふふっ……。警察の『心』なんて、ただのノイズね。
そんな重いものを積んでいるから、私の『ブラッディ・ネイル』に触れることすらできないのよ!」
紅い機体のコクピットに座るのは、真紅のスーツに身を包んだ美女。
ネオ・ギアスの天才パイロット、スカーレットだ。
彼女は超AIを「加速のための演算資源」としか見ていない。
心を削り、速度に変える。それはカイトの思想とは対極にある「禁忌の設計」だった。
「……あーあ。相変わらず、この世界の設計士は『リソース管理』が下手だな」
戦場に、漆黒の機体——アヴァロンが着地した。
「出たわね、イレギュラー!
その黒い機体……私のスピードについてこれるかしら!?」
スカーレットが紅い機体を加速させる。
目にも止まらぬ連続攻撃。
だが、アヴァロンは最小限の動きですべてを回避していた。
「なっ……!? なぜ読めるの!?
私の機動力は、あなたの演算能力を超えているはずよ!」
「演算能力? ……ああ、あんたは一台のサーバー(機体)に負荷をかけすぎなんだよ」
カイトは冷静に、コンソールの『第2層』を展開した。
「アヴァロン。外部拡張ユニット『カラス』、全4機射出。
——ロードバランシング(負荷分散)、開始だ」
アヴァロンの背中から、4機の小型ドローンが飛び出した。
それらは空中でアヴァロンと青い光のラインで繋がり、まるで衛星のように周囲を旋回し始める。
「……何よ、その豆粒みたいなドローンは!」
「こいつらはただの武器じゃない。
アヴァロンの『演算処理』を肩代わりする外部プロセッサだ」
カイトの前世の知識——ロードバランシング(負荷分散)。
一機のメイン機体に処理を集中させるのではなく、複数のユニットに計算を分散させる。
これにより、アヴァロンは「心」の柔軟性を保ったまま、超AIの処理能力を物理限界まで引き上げることが可能になる。
「アヴァロン、分散型合体シークエンス——『LB・モード』」
『了解、マスター。……全ユニット、同期完了。
これより、敵機の機動を完全に『静止画』として処理します』
4機のドローンがアヴァロンの四肢に合体し、蒼い光の翼を形成する。
シュンッ!
次の瞬間、アヴァロンの姿が消えた。
「えっ……!?」
スカーレットが気づいた時には、漆黒の刃が紅い機体の装甲を正確に削ぎ落としていた。
「速い……!? 私の加速を超えた……!?
そんな、一気にこれだけの演算をこなせるはずが……っ!」
「一台でダメなら、並列で繋げばいい。
エンジニアなら基本だろ?」
カイトの冷徹な、だが確信に満ちた声。
アヴァロンの一撃が、ブラッディ・ネイルのメインカメラを粉砕した。
「くっ……! 面白いじゃない。
名前は何ていうの、そこの整備士さん」
「……カイトだ。ただの、納期に追われないエンジニアだよ」
「カイトね……覚えたわ。
その『分散型』の理論、次は私のやり方でハックしてあげる!」
紅い機体は煙を吹きながら、急速後退し、海へと消えていった。
***
【お祭り】黒いロボに羽が生えた件について【勇者警察死守】
102:名無しのポリス好き
見たか今の合体!?
ドローンがくっついた瞬間、消えたぞ!
103:名無しのポリス好き
『ロードバランシング』って言ってたな。
IT用語じゃねーか。あのパイロット、マジで本物のエンジニアだろ。
104:名無しのポリス好き
赤いのも強かったけど、黒いのは次元が違う。
これもう、勇者警察に就職してくれよw
105:名無しのポリス好き
いや、あいつは「自由な整備士」だからカッコいいんだよ。
***
「……カイト君。さっきの『負荷分散』、記事にしていいわよね!?」
「絶対にダメです。これ以上目立ちたくないんだから」
工場に戻ったカイトを待っていたのは、目をキラキラさせたリナと。
そして、悔しそうに自分の端末を睨むセレナだった。
「……負けたわ。まさか並列処理を物理ユニットで再現するなんて。
カイト、あなた、やっぱり私の隣で寝かせておけない存在だわ」
「……言葉の選び方に気をつけてください。誤解を招く」
カイトは溜息をつきながら、アヴァロンのメンテナンスを開始した。
敵に顔と名前がバレた。
そして、その敵もまた「技術」を武器にする存在。
平穏なモブ生活への道のりは、また一歩、遠のいたようだった。




