第5話:沈黙の勇者と、漆黒の相棒(アヴァロン)
「——ターゲット確認。坂本重機整備、および『イレギュラー』の抹消を開始する」
工場の外壁を突き破り、巨大な鋼鉄の爪がガレージに侵入した。
現れたのは、悪の組織ネオ・ギアスの強襲用重機『スクラップ・マンティス』。
その全身からは、周囲の電子機器を強引に停止させる指向性電磁波——。
『スクラップ・ウェーブ』が放たれていた。
「きゃああっ!?」
「な、何なの……システムが、私のホワイト・ヴィクトリーの応答が消えた!?」
悲鳴を上げるリナと、操作不能に陥った最新鋭機の前で立ち尽くすセレナ。
勇者警察の誇る「超AI」は、その高い感受性ゆえに。
この悪意ある電磁波の影響を、真っ先に受けてしまうのだ。
「……計算通りだな。本部のエリート機は、綺麗に作りすぎて『ノイズ』に弱い」
火花が散る暗闇の中、俺は冷静に立ち上がった。
「カイト君、逃げて! 警察の応援が来るまで……!」
「逃げる? ……リナさん、エンジニアには『納期』よりも優先しなきゃいけないことがあるんだ」
「それは、自分の造った場所に泥を塗られるのを防ぐことだよ」
俺はガレージの床にある、隠しスイッチを蹴った。
重々しい駆動音と共に床が割れ、地下ドックが姿を現す。
「セレナさん、あんたが言ってた『特異点』……。見せてやるよ」
「これが俺の、社畜時代の残業代を全部つぎ込んだ『趣味』の結晶だ」
ドックの底から、漆黒の機体がせり上がってくる。
勇者警察のようなパトランプも、派手なメッキもない。
ただ、機能美だけを追求した、研ぎ澄まされた鋼の肉体。
『……マスター。待機完了。スクラップ・ウェーブ、位相反転により無効化します』
アヴァロンの瞳に、深い蒼の炎が灯る。
敵の電磁波を浴びながら。
その黒い機体は、何の影響も受けていないかのように踏み出した。
「な……動けるの!? あの波長の中で!? ありえないわ……!」
セレナが驚愕に目を見開く。
「防壁じゃない。コードの『冗長性』と『多層防御』だ」
「あんたたちのAIは美しすぎるが、俺のは泥臭く書き直してある」
「アヴァロン、排除しろ。工場の修繕費は、後でこいつらの残骸を売って稼ぐぞ」
『了解、マスター。……論理演算、開始』
アヴァロンが加速した。
重厚な見た目とは裏腹に、その動きは重力を無視したかのように滑らかだ。
敵のマンティスが巨大な鎌を振り下ろすが。
アヴァロンはわずか数ミリの差でそれを回避。
直後、右腕の高周波ブレードが、敵の関節部を一閃した。
ガガァァァァンッ!!
「……一撃!? 重装甲のマンティスを、ただの初太刀で……!?」
セレナが震える声で呟く。
アヴァロンは、敵の装甲板の『最も弱いポイント』をリアルタイムに解析し。
そこをピンポイントで突いているのだ。
「アヴァロン。最後は『最適解』でいけ」
『了解。……収束波動、固定。出力300%。……フル・デバッグ』
アヴァロンの胸部装甲が展開し、眩い光が収束する。
放たれた一撃は、スクラップ・マンティスをその核ごと蒸発させ。
夜空に巨大な光の柱を立てた。
静寂が訪れる。
燃え上がる残骸を背に、漆黒の機体は静かに膝をついた。
「……ふぅ。とりあえず、デバッグ完了だな」
俺がコックピットから降りると。
そこには腰を抜かしたリナと、震えながら俺を見つめるセレナがいた。
「カイト……あなた……本当に、何者なの……?」
「……俺? 言っただろ、ただの整備士だ。ちょっとだけ、人より『最適化』にうるさいだけのね」
セレナは俺の手を握りしめ、必死な目で訴えてきた。
「嘘よ! その技術、世界を変えてしまうわ! 私……私、ここであなたの技術を学ぶわ! 弟子にして!」
「ええっ!? 抜け駆けはやめてよ! 私が先なんだから!」
リナも負けじと、俺のもう片方の腕を抱きしめてくる。
……やれやれ。
平和なモブ生活に戻るはずが。
どうやら俺の設計図(人生)は、とんでもない方向に『分岐』し始めてしまったらしい。
——だが、そんな騒動をあざ笑うかのように。
海の向こうから「不吉な影」が迫っていた。
「……カイト、か。面白いエンジニアを見つけたものだ」
暗闇の中、敵組織の幹部が不敵に微笑む。
俺の知らないところで、物語の歯車は加速していく。
だが、当の本人は——。
「……あーあ。工場の屋根の修理代、どこに請求すればいいんだよ」
美少女二人に腕を引かれながら。
俺はただ、明日の仕事のことだけを考えて溜息をついていた。
(第1章・完)




