第33話:ガレージの神業と、騒然とする世界
■掲示板:【速報】地下の黒いロボ、マジで神だった件【嘘か真か】
1: 名無しさん
おい、さっきのリナの配信見たか!?
警察の最新鋭機を、あの黒いロボ(アヴァロン)がたった一瞬で無力化したぞ。
15: 名無しさん
見た。
あの紫の羽が生えた化け物機体、ありえない速度だったのに。
カイトが何かキーボード叩いた瞬間、動きが止まったよな。
28: 名無しさん
【悲報】メーカー各社、ガチで震えてる模様。
「我が社のプロテクトが破られるはずがない」って公式声明出そうとして引っ込めたらしい。
42: 名無しさん
>>28
そりゃそうだろ。
あんな「魔法」みたいなハック、現代技術じゃ説明つかねえもん。
ネットじゃもうカイトのこと『歩くバグ(世界の救世主)』って呼び始めてるぞ。
55: 名無しさん
あのアヴァロン、近くで見ると結構ボロボロなんだよな。
でも、それがまた「現場のエンジニア」って感じで最高にシビれるわ。
■アンダー・ルート:作業区画
激闘が終わり、拠点の空気は静まり返っていた。
だが、俺に休んでいる暇はない。
ボロボロになったアヴァロンと、右腕を焼かれたジェイ・ガスト。
「……さて、デバッグ(修理)を始めるか」
俺は油まみれの作業着に着替え、ハンダごてと携帯端末を手に取った。
その横で、ナギが壊れたガストの回路を見て、絶望的な声を出す。
「無理よ、カイト。ガスト様の右腕、回路が完全に焼き切れてるわ……。これ、メーカーに送って心臓部ごと交換しないと、二度と動かないわよ」
「メーカー? そんなの待ってられるか。……ナギ、そこの廃材置き場にある『古い通信機のチップ』と『ジャンクの給電ケーブル』を寄こせ」
「はぁ!? そんなゴミで何するつもり——」
俺はナギの言葉を無視し、チップに直接ハックを仕掛けた。
冗長な制御コードをデリートし、ガストの駆動系に最適化した「即席パッチ」を書き込む。
そして、ジャンクのケーブルをガストの神経系に無理やりハンダ付けした。
「……よし。同期開始」
ウィィィィィン……!
次の瞬間、死んでいたはずのガストの右腕が、力強く駆動音を響かせた。
パトランプが鮮やかに回転を始める。
「な、……なによこれ。なんでゴミを繋いだだけで、メーカーの純正品以上の出力が出てんのよ!?」
ナギが腰を抜かして座り込んだ。
その背後で、操縦席から見ていたリュウジも目を見開いている。
「……カイト。君は、機械に魂を吹き込んでいるのか? 俺達の整備班が『不可能』と言った修理を、たった五分で……」
「魂なんて大層なもんじゃない。ただの最適化だ」
俺が汗を拭おうとすると、ふわりと甘い香りがした。
「カイトさん、お疲れ様です。……動かないでくださいね」
セレナだ。
彼女は清潔なタオルで、俺の頬についた油汚れを優しく拭き取ってくれる。
至近距離で見つめる金色の瞳が、慈しむように揺れていた。
「……カイトさんの手は、魔法の手ですね。私を直してくれた時と同じ、温かい音がします」
「……セレナ、近い」
少し照れくさくて目を逸らすと、今度はリナがスマホを片手に突っ込んできた。
「カイトくんカイトくん! 見て、今の修理シーンもバッチリ配信してたよ! 投げ銭とコメントが止まらないんだけど! 『カイト様、俺のPCも直して!』って人ですごいことになってるよ!」
「配信してたのか……。まあ、いいけどな」
平和な、いつもの光景。
だが、俺の端末の端っこで、一つのウィンドウが点滅していた。
***
奪い取ったファイル、[scarlet_fragment_01]。
その解析を進めていたバックグラウンド・ジョブが、一つの「矛盾」を検知した。
「……なんだ、これ」
管理者権限『特異点統合』が必要なはずのファイルから、外部への通信プロトコルが勝手に立ち上がっていた。
画面に表示されたのは、地図座標。
警察庁本部でも、メーカーの研究所でもない。
この世界の最果てにある、今は使われていない「旧時代の巨大サーバー施設」の場所だった。
そして、文字だけのメッセージが一行、流れる。
『……マスター。……助けて……』
それは、間違いなくスミレさんの声だった。
「——っ!!」
俺は椅子を蹴って立ち上がった。
「カイトくん? どうしたの?」
「……急ぎの案件が入った。ナギ、ガレージにある一番速い移動ユニットを貸せ。……『本物のスミレさん』を、サルベージしに行く」
カイトの瞳に、エンジニアとしての執念と、相棒を想う熱い火が灯る。
世界の仕様を書き換えるための、真の戦いがここから始まる。
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