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第30話:禁忌の『魔導回路』と、ブラックボックスの解放

警察の執拗な追跡は、終わる気配がなかった。

光の届かない地下廃坑道の迷路を、赤く光る無数の偵察ドローンが埋め尽くしていく。


『——警告。アヴァロンのエネルギー残量、15%を切りました。これ以上の戦闘機動は、システムに深刻なダメージを与えます』


「分かってる。……だが、ここで止まるわけにはいかない」


俺はコンソールを叩き、生命維持と最低限の駆動系以外の電力をすべてスラスターに回した。

隣のシートでは、気を失っていたセレナが苦しそうに息をしている。


「カイトくん、後ろから凄い数の熱源反応! もう逃げ場がないよ!」


先行してルートを探っていたリナの悲鳴が、通信機から響く。

目の前は、分厚い岩盤に塞がれた行き止まり。

背後からは、警察の無人機の大群。


万事休すか——そう覚悟を決めて、アヴァロンの残された出力をブレードに回そうとした、その瞬間だった。


ガガガガガガッ!!


地鳴りのような轟音と共に、正面の分厚い岩盤が内側から無残に爆ぜた。

土煙を巻き上げて飛び出してきたのは、無骨な追加装甲と巨大なドリルを纏った、一台のいかついカスタム車両。


「おい、死にたくなきゃさっさと飛び乗りな! ガスト様のダチなら、私の客だ!」


屋根のハッチから身を乗り出し、大声で叫んだのは、頭にゴーグルを乗せたショートカットの少女だった。

 

「……誰だ?」


「私はナギ! 挨拶や事情聴取は後だ、早くしろッ!」


俺はアヴァロンを強引に前進させ、セレナを抱え込んだまま、その巨大な車両の展開された後部コンテナへと滑り込んだ。


***


それから数分後。

ナギの操縦するカスタム車両が辿り着いたのは、旧時代の巨大地下シェルターを強引に改装した、秘密の隠れ家だった。

薄暗い空間だが、そこには俺が喉から手が出るほど求めていた「インフラ」がすべて揃っていた。


重機用の大型クレーン、見たこともない言語が流れる巨大な特殊演算機、そして——。


『……カイト殿、か。無事で何よりだ』


暗がりの奥から、聞き覚えのある重厚な電子音声が響いた。

パトランプを消し、装甲のあちこちに「封印」の札のようなものをベタベタと貼られた白銀の巨躯。


勇者警察、ジェイ・ガスト。そしてその足元には、悔しそうに拳を握りしめる相棒のリュウジの姿があった。


「リュウジさん……。あんたたちも、警察から追われる身になったのか」


「ああ。君たちを逃がした責任を問われてな。……今は、このナギという腕利きの『モグリの整備士』に匿ってもらっている状態だ」


そんな俺たちの会話をよそに、ナギは目を輝かせながらアヴァロンの装甲に張り付き、食い入るように機体を観察していた。

そして、動力部を覗き込んだ瞬間、引き攣ったような悲鳴を上げた。


「ちょっとあんた……。これ、どこで手に入れたのよッ!?」


「これ? アヴァロンのことか? ジャンクパーツを俺が拾ってきて組み上げたんだが」


「違うわよ、その中身! 機体の奥にある、この『魔導回路まどうかいろ』の組み方よ!」


ナギが震える指でアヴァロンの胸部コアを指差す。

マドウカイロ。

たしかに、システムを再起動した時、アヴァロンのOSも『マギテック(魔導)』とかいう未知の言語体系に切り替わっていたが……。

俺は呆れたように首を傾げた。


「……魔導? 魔法使いでもいるつもりか。俺はただ、エネルギーの流れが非効率でグチャグチャだったから、論理的に整理して繋ぎ直しただけだぞ」


「……はぁ!? 『整理して繋ぎ直しただけ』!? あんた、正気!?」


ナギが頭を抱えて、信じられないものを見る目で絶叫した。


「いい!? 一般社会じゃ『魔導回路』なんて、その存在すら知られてないの! 大手メーカーが国家と組んで、中身を絶対に見せない『ブラックボックス』として独占してる……この世界の最深部にある、絶対禁忌の技術なのよ!」


ナギの熱弁に、俺は思わず鼻で笑ってしまった。


「……なんだ。ただの『コンパイル済みの実行ファイル(ソースコードを隠したデータ)』か」


「は……? コンパ……何?」


「要するに、メーカーが自分たちの技術の中身を見せたくなくて暗号化(難読化)してるのを、この世界の人間は『魔法』って呼んで有難がってるだけじゃないか」


「はぁ!? あんた、神聖な魔導をただの暗号扱い……!?」


ナギが持っていたメモ帳を、床にバシッと叩きつける。


「メーカーが数十年かけて必死に隠蔽してきた機密を、あんたは『勝手に知ってるもの』として、素手でこじ開けて書き換えたのよ! もしこれが見つかったら、ただのテロリストじゃ済まないわ。あんた、世界中のメーカーを敵に回したのよ!」


「……ブラックボックスだろうが、魔法だろうがなんだろうがな」


俺はアヴァロンの焦げた装甲を軽く叩き、不敵に笑い返した。


入力インプットがあって、結果アウトプットが出る以上、その間には必ず『論理』が存在する。

俺はそれをリバースエンジニアリングして、一番綺麗な形に書き直しただけだ。……魔法だろうが神だろうが、俺の『デバッグ』からは絶対に逃げられないよ」


俺が自信たっぷりに言い切ると、目を覚ましたばかりの金髪を揺らし、セレナが俺の服の裾をぎゅっと掴んだ。


「……カイトさんは、世界のルールなんて気にしません。カイトさんが作ったものが、私にとっての正解ですから」


無垢な瞳で俺を肯定するセレナ。

その神々しさと主人公への絶対的な信頼に、ナギは「な、なによその子……最強のヒロイン属性まで持ってるわけ!?」と顔を赤くして後ずさった。


***


だが、この地下拠点の平穏は、長くは続かなかった。

 

——ビビビビビッ!!

拠点の全モニターが、突如として不吉な赤いノイズに染まった。

リナの配信端末も、ナギの計測機も、すべてが強制的に同じ映像へとジャックされる。


『……見つけたぞ、バグめ』


映し出されたのは、夜の警察庁本部の屋上。

巨大な魔導塔の頂上で、漆黒の機体——黒騎士ネオ・ギアスが、見下ろすようにこちらを向いていた。


「な、なんだよこれ……! ここの座標は、最高級のジャマーで完璧に隠蔽されてるはずなのに!」


ナギが悲鳴を上げる。

黒騎士は無機質な動作で、真っ直ぐに指を突き出した。


『ワールド・リフォーマット。その実行には、貴様らの「死」というデータが必要だ』


黒騎士のカメラアイが、残酷に赤く発光する。

 

『デバッグを開始する。……全機、突入エントリーせよ』


その瞬間、地下拠点の分厚い岩盤の天井が、巨大な轟音と共に完全に崩落した。


上空から降り注いできたのは、上位存在にハックされ、完全に感情を失った警察の最新鋭機の大群だった。

絶望的な物量が、俺たちを押し潰そうと迫り来る。


「カイトさん……!」


「ああ、わかってる。……ナギ、ガストのロックを外せ! メーカーが隠してる『魔導回路』だか何だか知らないが——俺のロジックに勝てると思うなよ!」

お読みいただきありがとうございます!


魔法だろうが神だろうが、カイトにとっては「ただのバグ取り対象」に過ぎません。

いよいよ始まる魔導機とのバトル、カイトの超絶ハッキングにご期待ください!


「カイトのブレなさが最高!」「魔法を暗号扱いするのは笑った」

と思っていただけましたら、ぜひ感想、ブックマークや評価で応援よろしくお願いします!

皆様の応援がカイトのタイピング速度を上げます!

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