第24話:最期の防衛ライン。……ボロボロの翼で、お前を守る
「——ホワイト・ヴィクトリー、全リミッター解除! オーバークロック開始!!」
ガレージの天窓を突き破り、白銀の機体が戦場へと躍り出た。
視界を埋め尽くすのは、警察庁が誇る第四世代鎮圧機『ピースメーカー』の軍勢。そして空を遮る重武装ヘリの壁。
「カイト、スミレちゃん! ここは私が絶対に死守する。……一歩も、一発の弾丸も通さない!!」
セレナの絶叫と共に、ホワイト・ヴィクトリーの背に備わった高機動ウィングが、物理限界を超えた火花を散らす。
ドォォォォンッ!!
先頭の鎮圧機を、超高速の体当たり(ラム)で粉砕する。
だが、敵は数千。対するこちらは、たった一機。
「……っ、きゃああああ!!」
無数のミサイルが白銀の装甲を叩く。
アラートが鳴り響き、モニターには『装甲表面温度:警告レベル』『構造材疲労:限界突破』の文字が躍る。
一方、ガレージ内。
カイトは、指が焼き切れるような速度でキーボードを叩き続けていた。
「くそっ、このコード……何重にロックがかかってやがる! スミレの存在自体が、システムに拒絶されてるのか……ッ!」
網膜に映るカウントダウンは、無慈悲に【残り:18分】を刻んでいる。
スミレは、もう声も出せない。彼女の足元はすでに透明な粒子と化し、その存在が世界から剥がれ落ちようとしていた。
「カイト……いいよ、もう。……逃げて」
「黙ってろ! 逃げるコマンドなんて、最初から実装してねえんだよ!!」
外から、金属がひしゃげる凄まじい音が響く。
ホワイト・ヴィクトリーの右翼が、重徹甲弾を受けて千切れ飛んだのだ。
「……あ、はは。……まだ、いける。まだ、動けるよ……カイト」
通信から聞こえるセレナの声は、苦痛に耐え、血の混じった荒い息を吐いていた。
モニター越しに見える彼女の機体は、もはや「白銀」ではなかった。
塗装は剥げ落ち、内部フレームが剥き出しになり、オイルが涙のように滴り落ちている。
——中破。いや、大破だ。
「セレナさん、もういい! 機体を捨てて脱出して下さい!!」
「……ダメよ。私が引いたら……カイトたちが死んじゃう。……私が守って......決めたんだ!!」
ホワイト・ヴィクトリーが、残った左翼を強引に逆噴射させ、ガレージを狙う警察の大型ミサイルを自らの「盾」で受け止めた。
轟音。爆炎。
白銀の騎士は、地面を激しく転がり、動かなくなった。
『警告:動力源停止。……パイロットの生命維持を最優先します』
「動いて……動いてよ! まだ、あと10分……守らなきゃいけないのに……っ!!」
セレナの声が、ノイズに消えていく。
警察の鎮圧部隊が、沈黙したホワイト・ヴィクトリーを無視し、丸裸になったガレージへと一斉に銃口を向けた。
中央に鎮座する、あの「漆黒の機体」が、ゆっくりと右腕を上げる。
そこから放たれるのは、物理法則を無視した「消滅」の一撃。
「……チェックメイト、か」
カイトはスミレを抱きしめ、覚悟を決めたように目を閉じた。
その、絶望のゼロ秒前。
——ガレージの裏、瓦礫の下から、**「聞き覚えのあるエンジン音」**が爆発した。




