第23話:消えゆくプログラム。……俺の知らないお前の『秘密』
「……スミレ。お前、その手……どうした」
勝利の歓声が遠のいたガレージ。
俺は、作業台の陰で自分の右手を必死に隠そうとするスミレを呼び止めた。
「えっ……? あはは、なんでもないよカイト。ちょっと、整備中にぶつけちゃっただけ……かな!」
彼女はいつものように明るく笑おうとした。
だが、その指先は——まるで、処理落ちした3Dモデルのように、細かく、不自然に震えている。
「見せろ。……俺は整備士だ。ごまかしは効かないぞ」
俺は彼女の手を強引に取った。
——冷たい。
血が通っていない冷たさじゃない。まるで、実体そのものがそこに存在しないかのような、希薄な感覚。
「……っ!」
俺は即座にアヴァロンのセンサーをスキャン・モードで起動した。
網膜に映し出される、スミレの生体ログ。
だが、そこに表示されたのは「異常値」ですらなかった。
『警告:対象のデータ整合性が確認できません。ガベージコレクション(不要データ回収)が進行中……』
「ガベージ……コレクション……? なんだ、このエラーコードは……ッ!」
俺の知る機械工学にも、ソフトウェア工学にも、こんな「人間」に対して吐き出されるログは存在しない。
まるで、彼女そのものが「誰かに書き込まれた一時的なプログラム」であるかのような——。
「……ねえ、カイト。もし……もし私が、最初からこの世界にいない『バグ』だったとしたら。カイトは、直してくれる……?」
スミレが、消え入るような声で呟いた。
その瞳には、いつもの快活さはなく、深い絶望と……俺への淡い期待が混ざり合っていた。
「……当たり前だ。直せないエラーなんてない。俺が、全コードを書き換えてでも——」
その時。
ガレージの全モニターが、強制的にジャックされた。
『——特区第07区、個人ガレージ「アヴァロン」。……聞こえているか、整備士カイト』
冷酷な、機械合成された声。
画面に映し出されたのは、警察庁の紋章と……一機の漆黒の機体だった。
『貴殿が所有する「アヴァロン」および「ホワイト・ヴィクトリー」の機体、ならびに全開発データを国家資産として接収する。……抵抗は無意味だ。現在、第4世代・鎮圧部隊が貴殿の座標へ向かっている』
外から、空を切り裂くようなジェットエンジンの爆音が響いてくる。
警察庁が本気を出した。
「……警察庁の新型勇者ロボか? データベースに該当する型式が一つもない。あの機体……放ってるプレッシャーが、これまでの連中とは桁違いだ」
さっきの『ジェイ・エグゼクター』など、ただのテストプレイに過ぎなかったのだ。
「……チッ、デバッグしてる暇もなしかよ……ッ!」
俺はアヴァロンのキーボードを叩き、全システムを『戦闘待機』へと移行させた。
その時、サブモニターに表示された**「真紅のカウントダウン」**が、俺の思考を凍りつかせた。
『警告:実体整合性の消失を確認』
『消去完了まで——残り、1800秒(30分)』
「……30分だと? 短すぎるだろ……ッ!」
外から、空を埋め尽くすような警察庁・重武装ヘリの爆音が響いてくる。
スミレの身体が消えるまでの猶予と、国家権力の総攻撃が、完全に同期していた。
「カイト……っ! 警察の検閲がひどくて配信が止まりそう! ……でも、私、絶対にあきらめない。この世界の横暴を、全部パルスに晒してやるんだから!」
リナが震える手でカメラを回し始める。セレナはホワイト・ヴィクトリーへと走り、大破覚悟の出撃準備に入る。
「——全機、突入!! 『エラー(アヴァロン)』を排除せよ!!」
警察庁の無慈悲な号令と共に、ミサイルの雨がガレージに降り注ぐ。
その爆風の中で、スミレの指先が——音もなくパリンと、ガラスのように砕け散った。
「……ごめんね、カイト。……私、もう……」
「黙ってろ! 俺がお前のコード(命)……絶対に繋ぎ止めてやる!!」
カイトの誇りと、少女の命を懸けた「最期の30分」が、今、始まった。
【作者コメント】
お読みいただきありがとうございます!
勝利の余韻も束の間、カイトを襲うのは「国家権力の総攻撃」と「スミレの消滅」という二重の絶望です。
そして画面に映った、謎の「漆黒の機体」……。
「スミレちゃん、あと30分しかないの!?」「あの黒い機体、絶対にヤバい奴だ……!」
と少しでも続きが気になった方は、ぜひブックマークをポチッとお願いします!
皆様のブックマークが増えるほど、カイトのタイピング速度が上がり、逆転のパッチコードが早く完成します……!
次回、セレナとホワイト・ヴィクトリー、決死の盾。絶対にお見逃しなく!
本日、19時10分に最新話を投稿します!




