第20話:「返してほしければ修理依頼書を」——国家の最高機密をデバッグして俺の『サブ機』にした結果
嵐の去った、静かな朝。
坂本重機整備のメインドックには、二機の巨大な影が並んでいた。
一機は、傷だらけになりながらも誇り高く立つ漆黒のアヴァロン。
そしてもう一機は、昨夜、俺がハッキングで黙らせた純白の勇者ロボ——『ホワイト・ヴィクトリー・イージス』だ。
「……さて。こいつの『毒』を抜く作業から始めるとするか」
俺はコーヒー片手に、剥き出しになった白銀の機体を見上げた。
「カイト、本当にやるのね? 警察の最高機密を塗り替えるなんて……」
セレナが隣で、不安と期待が入り混じった顔をしている。
「ああ。今のこの子は、警察本部のサーバーと繋がった『バックドア』だらけだ。
まずは、国家が埋め込んだ無駄な管理プログラムをすべてパージ(一掃)しますよ」
俺の端末を機体に直結し、コンパイル済みのデリート・コードを実行する。
『——承認。管理OS「GOV-SAFE ver.8.2」をアンインストール。
全権限をローカル・ユーザー「KAITO」に移譲します』
「よし、まずはクリーンインストール完了だ。……次は、アヴァロンとの『同期』」
「同期……? 別の機体同士を繋ぐというの?」
「ええ。アヴァロンの高度なAIリソースを、この白い機体にも共有する。
二機で一人の意志。いわば、メインサーバーと『エッジ・ノード』の関係ですね」
俺はアヴァロンから抽出したコア・プログラムを、ホワイト・ヴィクトリーの空っぽになった脳へ流し込んでいく。
さらに、俺はニヤリと笑って、禁断のパーツを手に取った。
「ついでに、警察が制限していた『隠し機能』も解放しておきました。
——高次元エネルギーの『オーバーフロー(溢れ出し)』を制御する、俺特製のパッチです」
数時間後。
ガレージの中に、電子音のメロディが響き渡る。
ホワイト・ヴィクトリーのカメラアイが、以前の無機質な赤色から、
アヴァロンと同じ、深く静かな**『蒼い炎』**へと書き換わった。
『——システム・チェック。ホワイト・ヴィクトリー・リブート、起動。マスター、命令を』
「うそ……。私の設計した子が、あんなに優雅に、力強く動くなんて……」
セレナが、愛機の指先が滑らかに動くのを見て、感極まったように俺の手を握った。
「……カイト。あんた、本当に化け物ね」
隅で見守っていたスミレ(スカーレット)が、呆れたように、でもどこか誇らしげに呟く。
「警察はこれを『兵器』だと思った。でも俺たちは、これを『最高の相棒』として再起動した。……それだけの話ですよ」
俺は二機の巨人の間に立ち、朝日を浴びた。
警察庁が全力を注いだ最新鋭機は、今や俺の命令を待つ忠実な「サブ機」へと変貌した。
特区の外では、撤退したはずのパニッシャー部隊が、遠巻きにこちらの様子を伺っているのが見える。
「……いい機会だ。向こうの『偉いさん』に、この子の新しいライセンス(規約)を教えてやりましょう」
俺はアヴァロンとホワイト・ヴィクトリー、両方の機体のスピーカーを最大出力で解放した。
「——警察庁の皆さん。この機体は、俺が『デバッグ』して預かっておきます。
返してほしければ……武力じゃなく、正式な『修理依頼書』を持って、俺のテーブルに着いてください」
全世界に再び流れる、独立特区からの「不敵な交渉」。
一人の整備士が、国家の最新兵器を従えて対等に渡り合う。
特区の境界線で、二機の巨人の間に立つ俺の姿。
その映像が全世界に配信された直後、魔導ネットワークの海は未曾有の「情報の津波」に飲み込まれた。
■ Ether-Pulse トレンド:&独立特区 &カイト &ホワイト・ヴィクトリー &修理依頼書
@メカオタク_A
「返してほしければ修理依頼書を持ってこい」
全整備士が泣いた。かっこよすぎるだろ……。
警察の最新鋭機を「直して預かっておく」って、実質的な宣戦布告じゃん。
@速報・パルス
【速報】警察庁、沈黙。
奪われたホワイト・ヴィクトリーが「カイト仕様」に書き換えられたことを確認。
システムの根幹(Root権限)を個人に奪われるのは、日本の警察史上最大の不祥事か。
@聖域リナ親衛隊
リナちゃんの配信、パルスの同時接続数が1,000万人超えたんだけどwww
もはや一国の広報局より影響力ある。
カイトさん、マジで世界をリブートしちゃいそう。
ガレージの片隅で、スマホの画面に流れる爆速のログを眺めながら、俺は小さく息を吐いた。
「……有名税にしては、少し高くなりそうだな」
隣でセレナが、誇らしげに、そして少しだけ悪戯っぽく微笑んでいる。
だが、俺たちはまだ気づいていなかった。
この熱狂の裏側で、スミレの瞳に宿る「紅いノイズ」が、いよいよ彼女の意識を浸食し始めていることに。
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