第17話:【伝説の証明】死闘を経て『英雄』へ。美女たちを伴う整備士の休日は、全世界に身バレする事態に
昨夜の激闘から一夜。
俺は全身の筋肉痛と、知恵熱に近い頭痛に悩まされていた。
「……カイトくん! 寝てちゃダメだよ! 今日はアヴァロンの予備パーツを買いに行くんでしょ?」
「そうよ、カイト。……たまには外の空気を吸わないと、脳の演算回路が腐ってしまうわ」
ガレージには、朝から元気なリナと、なぜか「お出かけ用」の気合の入った私服を着たセレナが立っていた。
「……パーツなら、ネットで『パッケージ管理(外部発注)』すれば済む話だろ……」
「ダメよ! 特区宣言のせいで、今あなたの住所には配送業者が入れないんだから!」
……そうだった。
俺が、警察をブロックするために設定した「サンドボックス」のせいで、物流まで止めてしまっていたらしい。
「……分かったよ。行けばいいんだろ」
「よし! ……あ、スミレさんも行くわよ! 荷物持ちが必要でしょ?」
隅っこで気まずそうにしていた新人のスミレ(スカーレット)も、無理やり連れ出されることになった。
***
やってきたのは、国内最大級の電気街。
ボロボロの作業着から、セレナに無理やり着せ替えさせられた「小綺麗なジャケット姿」の俺が歩き出すと。
瞬時に、周囲の空気が変わった。
「……おい、見ろよ。あの集団」
「なんだあいつ……。左にいるの、東都新聞の看板娘のリナじゃないか?」
「右の金髪の子もヤバいぞ。……おい、あれブレイブ財閥の令嬢、セレナ様だろ!? なんでこんな所に……」
通りかかる男たちの視線が、突き刺さるように痛い。
さらに後ろには、モデル顔負けのスタイルを持つクールな美女が、複雑な表情で俺の背中を守るように歩いている。
「……あいつ、何者だよ。……あんな美女三人を連れ回すなんて、どんな特権階級だ?」
「……羨ましすぎる。代わってくれ、一秒でいいから……!」
周囲の「殺気」に近い羨望の眼差しを浴びながら、俺はジャンク屋の棚を物色していた。
「カイト、このサーボモーターはどう? 規格は合ってるかしら」
「いや、こっちは『依存関係(互換性)』に問題がある。……こっちの古い海外製の方が、今の俺のパッチには合うんだ」
俺が専門的な指示を出すたび、セレナが感心したように頷き、リナが甲斐甲斐しくカゴを持って寄り添う。
その時だった。
「……あの、すみません。もしかして、坂本重機整備の……カイトさんですか?」
一人の少年が、震える手でスマホを差し出してきた。
画面には、昨夜の「全世界配信」のスクリーンショットが映っている。
「……ええ、まあ。……それが?」
俺が認めると、周囲のざわめきが一気に爆発した。
「やっぱり! 『独立宣言』の整備士だ!」
「うおおお、本物だ! 警察のケルベロスを指一本で止めたっていう、あの伝説の……!」
「すげぇ……実物は意外と若いんだな。……っていうか、あの美少女たちを従えてる理由が分かったぞ。……あれが『英雄』の特権か!」
一瞬で人だかりができ、人々が尊敬と畏怖の眼差しで俺を取り囲む。
「握手してください! 兄貴のファンなんです!」
「あの、サインを……! 自分のパソコンに書いてもらえれば、バグが直る気がして!」
俺は困惑したが、隣のリナが誇らしげに胸を張った。
「ふふん、サインは後でね! 今、カイト君は世界を救うための『デバッグ作業』の途中なんだから!」
「そうよ。……あまり彼を疲れさせないで。……彼は、私たち三人が独占しているの」
セレナが俺の腕にグイッと自分の腕を絡め、周囲を威圧するように言い放つ。
スミレも、なぜか負けじと反対側の袖を掴んできた。
「……邪魔をしないで。この人の時間は、一秒だって無駄にはできないんだから」
周囲の男たちから、今日一番の絶望に近い悲鳴のような溜息が漏れた。
「……三人に独占……だと……?」
「……伝説の整備士、マジで人生の勝ち組すぎるだろ……」
俺は、熱狂する群衆と、左右からかかる柔らかな感触に、アヴァロンのオーバークロック時よりも心拍数が上がっているのを感じた。
「……お、おい。買い物は済んだだろ。……早く工場に帰るぞ」
「えー、もうちょっとデート気分を味わいたいのに!」
「ダメよカイト、次はランチ。私の知り合いのレストラン、貸切にしてあるから」
俺は逃げるように電気街を後にしたが。
その日のSNSには、『伝説の整備士カイト、三人の女神を連れて降臨!』という動画が数百万再生された。
俺の「平穏なモブ生活」という名の理想郷は、またしても修復不可能なレベルで遠ざかっていくのだった。




