第12話:第3勢力、宣戦布告。……全世界生配信(ライブ)で俺のガレージは独立しました
その瞬間、世界中の「画面」が静まり返った。
大通りの巨大ビジョン、駅のホームのスマホ、深夜のオフィスでつけっぱなしのタブレット。
リナが放った中継ドローンの映像には、信じられない光景が映し出されていた。
「……嘘だろ。警察の最新鋭迎撃機が、完全に止まってるぞ」
「アヴァロン……。あんな機体、どこの国も持ってないはずなのに」
街の至る所で、人々が足を止めてモニターを見上げる。
無敵を誇るはずの勇者警察が、ただの漆黒のロボットを前にして、石像のように固まっているのだ。
「……チェック、ワン、ツー。……よし、聞こえるか、上層部のエリート様たち」
アヴァロンのスピーカーから、若く、だが低く落ち着いた声が響き渡った。
その声は、街角で震える子供から、高級ホテルの最上階にいる権力者まで、等しく届いた。
「俺の技術を『国家機密』にするって? 悪いが、俺の書いたコードに、お前らみたいな三流の管理者を設定するつもりはない」
「……何だ、この男は。神にでもなったつもりか?」
テレビを食い入るように見る老紳士が呟く。
「違う……エンジニアだよ。あいつは、ただの『最高』のエンジニアなんだ……!」
電気街の路地裏でスマホを握りしめる青年が、涙を浮かべて叫んだ。
画面の中では、空中に青白い巨大なホログラムが投影されていた。
「俺が求めているのは、誰にも縛られず、自分の設計で最高の機体を造り上げる『完全な自由』だ。
……だが、お前たちのような権力がそれを邪魔するというなら。
この国の警察インフラごと、俺の『サンドボックス(隔離空間)』に閉じ込める」
「サンドボックス……? 何の話だ?」
困惑する市民たちの前で、驚愕の事態が起こる。
包囲していた警察車両のパトランプが、一斉に「虹色」に点滅し始めたのだ。
「な、なんだこれは!? 制御系が全く反応しない! 本部のサーバーとの通信が、勝手に『アクセス拒否』を返してきやがる!」
「隊長! 奴の機体から放たれた謎のパッチが、我々の基幹ネットワークのルート権限を完全に書き換えています! ……もう、この機体は我々のものじゃありません!」
それは攻撃でも爆発でもない。
国家権力の強固なシステムが、たった一人の青年の放ったコードによって「ハック」され、まるでおもちゃのように書き換えられた瞬間だった。
「……宣言する。ここ『坂本重機整備』を中心とした半径一キロメートルを、俺の管理者権限下にある『独立特区』とする」
カイトの声が、冷たく、だが圧倒的な熱量を持って世界を揺らす。
「今後、この特区内に俺の許可なく武装した機体が侵入した場合……。
その瞬間に、お前たちの全システムは初期化され、『無意味な演算』だけを繰り返すただの鉄くずになる」
その宣言と共に、アヴァロンが夜空に向けて蒼い光の翼を広げた。
それは、国家という巨大なシステムに対する、たった一人の技術者からの「完全勝利宣言」だった。
息を呑む群衆。
次の瞬間、街中のSNSが、ニュースサイトが、そして現実の街頭が、かつてない熱狂に包まれた。
「……これ、革命じゃないのか?」
「組織に従わない、自分だけの力で戦うヒーロー……。本物だ。本物が現れたんだ!」
人々が熱狂し、拍手と歓声が波のように広がっていく。
もはや誰も、カイトを「ただの下請け整備士」とは見ていなかった。
彼は、この狂った世界の仕様を上書きする、ただ一人の希望なのだ。
***
夜が明け。
坂本重機整備の前には、嵐が去った後のような静寂が——。
「……あるわけないわよね」
俺は、工場の門の外を埋め尽くした「花束」と「手紙」、そして「修理依頼の列」を見て、深く溜息をついた。
「カイトくーん! 見て見て! 今日の新聞、全部カイト君が1面だよ! 視聴率も過去最高!」
リナが朝から元気よく俺の背中に飛び乗ってくる。
「カイト、警察庁のサーバー、まだパニックになってるわよ。……ふふっ、ざまぁ見なさい。これからは私の個人資産で、あなたの研究をバックアップしてあげる」
セレナが優雅にコーヒーを飲みながら、俺の隣の席を陣取った。
「……あら、私も混ぜてほしいわ。……『独立特区』の入国審査、私が第1号でいいかしら?」
列の先頭には、いつの間にか私服のスカーレットまで並んでいる。
「……あー。……誰か、俺の現状をデバッグしてくれ」
全世界が熱狂する「伝説のエンジニア」。
俺の求めていた「静かにモノづくりに没頭できる自由な環境」は。
自分の手で、修復不能なまでに『クラッシュ』されてしまったらしい。
お読みいただきありがとうございます!
第12話、全世界への「独立宣言」回でした。
画面越しの熱狂をリアルに描写してみましたが、脳汁展開になっていれば幸いです。
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