表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/27

第10話:伝説の整備士の休日と、三者三様のヒロインレース

「……ふあぁ。やっと休みだ」


俺は工場の二階にある居住スペースで、大きく伸びをした。


昨日の二大組織の襲撃以来、アヴァロンのシステムログの整理で徹夜続きだった。

今日は一歩も外に出ず、ジャンクパーツの整理でもして過ごすつもりだった。


だが。


「カイトくーん! お疲れ様! 栄養満点の手作り弁当持ってきたよ!」


「カイト、昨日の仮想化技術の件、詳しく教えなさい。お礼に最高級の紅茶ダージリンを淹れてあげるわ」


ガチャリ、と鍵を開けて(リナが親方から予備キーを奪ったらしい)入ってきたのは。

エプロン姿のリナと、なぜか私服のワンピースが眩しいセレナだった。


「……二人とも。ここは俺のプライベート空間なんですが」


「いいじゃない、減るもんじゃあるまいし! ほら、カイト君が好きそうなハンバーグだよ!」


リナがお弁当箱を広げる。

湯気と共に、家庭的でいい匂いが漂う。


「……ハンバーグ。ソースの煮込み加減、悪くないですね」


「でしょ!? カイト君、いつもコンビニ飯ばっかりだから心配で……」


リナが少し顔を赤らめて、上目遣いで俺を見る。

いつもは元気な彼女の、年相応の少女らしい表情。


「ふん、そんな庶民的な味より、私の持ってきたスイーツを楽しみなさい。

 ……あ、これ、別にあなたのために並んで買ったわけじゃないんだからね。ついでよ、ついで」


セレナが差し出したのは、予約半年待ちの有名店のケーキだ。

彼女は俺の隣に座ると、資料を見るふりをして、そっと俺の肩に自分の肩を触れさせてきた。


(……近いな。二人とも、距離感バグってないか?)


俺は内心で冷や汗をかきながら、お茶を淹れるために立ち上がった。


「お茶なら、俺が魔改造した**『超精密温度管理サーモスタットケトル』**で淹れますよ。

 茶葉の種類に合わせて、0.1度単位で抽出温度を最適化するようにプログラムしてあります」


「……お茶を淹れるだけで、なんでそんな複雑なことしてるのよ」


セレナが呆れたように笑うが、その瞳には尊敬の念が隠しきれていない。


 ***


その頃、工場の外では。


「……なによ、あいつら。あんなに楽しそうに……」


変装したスカーレットが、電柱の陰から二階の窓を睨んでいた。


彼女の手には、カイトが修理した「偵察用ドローン」が握られている。


(……私のドローン、あいつに直されてから、なんだか私の心(AI)まで読み取ってるみたいに動くのよ。……あいつ、私の心までハックしたっていうの!?)


スカーレットは顔が火照るのを感じた。


敵であるはずの男。

なのに、彼の不器用な優しさと、圧倒的な技術の輝きが。

彼女の「冷徹な戦士」としての仮面を、内側から溶かしていく。


(……偵察よ、これは偵察なんだから!)


彼女は自分に言い聞かせ、そっと差し入れのパンを工場のポストにねじ込んだ。


 ***


「……あ、ポストに何か入ってる。……『カレーパン。火傷に注意。スより』?」


「ス? 誰よそれ、カイト君!?」


「カイト、あなた、まさか他にも隠してる『顧客』がいるの……?」


リナとセレナの視線が、一気に鋭くなる。


「……いや、知らないですよ。……でも、このカレーパン、中の具の配置が完璧だ。

 ……熱効率が計算され尽くしている。……これ、かなりの『エンジニア』が作りましたね」


「そこ、技術で評価しなくていいから!!」


二人のヒロインからのツッコミ。


俺は苦笑いしながら、三人の女性からの「好意」という名の、最も難解なエラーログに頭を抱えるのだった。


その時、不意に、俺の脳内通信にアヴァロンの声が響いた。


『……マスター。お楽しみのところ失礼します。

 勇者警察のリュウジ殿より、暗号通信。

 「今夜、二人だけで会いたい。……機体の相談ではない」とのことです』


「……はぁ。やっぱり、俺の休日は、デバッグ作業より忙しいらしい」


カイトは窓の外の、茜色に染まる空を見上げた。


物語は、日常の裏側で、静かに、だが確実に。

次の「大きな変革」へと、そのプログラムを書き換えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ