第100話(最終話):新しい現場と、最高の永久ライセンス契約
巨大ウイルスが消滅し、地球に本当の平和が戻ってから半年後。
かつてカイトのガレージがあった跡地には、新築の真新しいオフィス兼・巨大整備工場が建てられていた。
正面ゲートに掲げられた看板には、『カイト重機開発・特務防衛部門』の文字。
異世界技術と地球の機械工学を完全に融合させた、新生勇者警察や復興企業をクライアントとする『対勇者・対企業向け)』の最先端開発ラボである。
「——はいっ! というわけで、今日もカイト重機開発の最新プロモーションを、全世界のリスナーさんにお届けしましたーっ!」
オフィスの片隅に設けられた専用スタジオで、リナが配信カメラに向かって元気よく手を振っている。彼女の超高性能アンテナを通じたPR配信は、今や新生勇者警察の公式広報も兼ねており、最強の『企業VTuber』として大活躍していた。
「おいカイト! 地球の工具、マジでヤバいぞ!」
作業着姿のナギが、油まみれの手で工具を振り回しながら満面の笑みで駆け寄ってくる。
「 お前の組んだモーター制御システム、異世界の魔力リソースと相性抜群じゃねぇか!」
「お前なぁ、はしゃぐのはいいが売り物を壊すなよ。……魔法なんざアセンブリ言語以下の生データだ。しっかりしたモーター制御に乗せてやれば、これくらいの出力は出せる」
カイトは気怠げに笑いながら、タブレット端末で新しい回路図のデバッグを進めていた。
平和で騒がしい、新しい日常。
カイトは今や一介の整備士ではなく、次世代インフラ開発を牽引する社長として、泥臭くも充実したモノづくりに没頭していた。
そのオフィスの最奥にある社長室。
カイトがコンソールを前に一息ついていると、デスクの左右から二つのマグカップが同時に差し出された。
「カイト、お疲れ様。……勇者ロボたちの新しい追加装甲の要件定義、終わった?」
「カイトの事だから、どうせまたクライアントの要望を無視して、オーバースペックな仕様に書き換えたんでしょ?」
洗練されたタイトスカートのスーツ姿のセレナと、動きやすい特注の作業用ライダースを着こなしたスミレだ。
神のOSを打倒した最強の機神『トリニティ・アヴァロン』は、地下ドックで静かに眠っている。だが、カイトというシステムを支える「左右の腕」は、今も専属テストパイロット兼・役員として彼の両脇を陣取り、相変わらずの平和なマウント合戦を繰り広げていた。
「……お前らなぁ。設計者の俺が『こっちの方が最適解だ』って言ってるんだ、文句は言わせねぇよ」
カイトは苦笑しながら、二人が淹れたコーヒーを交互に啜った。
「それで、カイト。……私たちをわざわざ社長室に呼んだってことは、何か特別な『バグ報告』でもあったわけ?」
スミレが腕を組みながら、少しだけ期待を滲ませた目でカイトを見る。
セレナもまた、頬を微かに染めながらカイトの次の言葉を待っていた。
カイトはゆっくりと立ち上がると、引き出しの中から、ベルベットの小さな箱を取り出した。
パカッ、と開かれた箱の中に入っていたのは、宝石のついた指輪ではない。
異世界の超硬度金属と、地球の最先端ナノマシン技術で削り出された、世界に二つしかない『特注のチタン製マスターキー(社員証)』だった。
「……なに、これ」
セレナが目を丸くする。
「お前らへの、俺からの『永久ライセンス契約書』だ」
カイトは首の後ろを掻きながら、大人の男として、まっすぐに二人の目を見据えた。
「俺というシステムは、強固なOSと、最強のセキュリティ(スミレ)、どちらか一つでも欠けたら安定稼働しねぇんだよ。……どっちか一つを選ぶなんて、非効率な仕様にする気はねぇ」
「それって……」
「俺の人生の面倒、一生お前ら二人で運用してくれって言ってんだ」
これ以上ないほど不器用で、泥臭くて、カイトらしいプロポーズ。
セレナとスミレは一瞬ぽかんとした後、同時に顔を真っ赤にして、その瞳にじんわりと涙を浮かべた。
「……っ、本当にバカなんだから! どっちも選べないから両方だなんて、最悪のバグよ!」
「そうね! 欲張りで、傲慢で、最悪の仕様だわ! ……でも、仕方ないわね。カイトがそこまで言うなら、一生付き合ってあげる!」
二人は泣き笑いのような顔で特注のマスターキーを手に取ると、そのまま左右からカイトの首に抱きついた。
「おいおい、締めすぎだ。……俺の首のジョイントが外れるぞ」
文句を言いながらも、カイトの口角はこれ以上ないほど幸せそうに上がっていた。
——ピリリリリッ!
その時、オフィスの直通通信回線がけたたましく鳴り響いた。
『——よう、カイト。邪魔したか?』
モニターに映し出されたのは、真新しい装甲に身を包んだリュウジと、勇者ロボたちだった。
「いや、ちょうど会議が終わったところだ。どうした、リュウジさん」
『カイト、俺たちの新しい機体の要件定義……お前に頼めるか? 平和になったとはいえ、お前の『最高の仕様』がないと、どうにも調子が出なくてな』
かつての戦友からの、最高の依頼。
カイトはセレナとスミレの頭をポンと撫でてから立ち上がり、壁に掛けられた愛用のスパナを手に取った。
「……ああ、任せとけ。俺たちで最高の仕様を納品してやるよ」
カイトがオフィスの巨大なシャッターを開けると、抜けるような青空と、どこまでも続く泥臭くて美しい世界が広がっていた。
「さあ、相棒たち。……今日も元気に、残業といくか!」
伝説のチーフ・エンジニアの、最高に愛おしい開発は、これからもずっと続いていく。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
本作は、「日々の業務に追われる開発エンジニアが、もし勇者警察ロボットの世界に転生して無双したら?」という思いつきからスタートしました。
魔法というファンタジーの事象に対し、ただのチートではなく、泥臭くも精密な「工学のアプローチ」で立ち向かうカイトたちを描くのは、作者自身にとっても非常に楽しい作業でした。
ブラック企業で摩耗していた大人の男が、異世界で最高のヒロイン(相棒と剣)や頼れる同僚たちと出会い、最後は自分たちの手で新しい会社(現場)を立ち上げる。
セレナとスミレの「デュアルコア」体制という、エンジニアならではの不器用で欲張りな決着も含め、彼らしい最高の仕様を納品できたのではないかと思っています。
カイトたちの物語はここで一旦「マスターアップ(完結)」となりますが、設立されたばかりの『カイト重機開発』には、まだまだ新しい依頼が舞い込んでくるはずです。
【新作連載スタートのお知らせ!】
改めまして、本作を100話の完結までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
本日より、新しい物語の連載をスタートいたしました!
『限界ブラック社畜のダンジョンD.I.Y〜非戦闘スキル【建築】で最恐エリアに極楽グランピング施設を作ったら、バズった迷子配信者たちのオアシスになっていた〜』
今回はロボットではなく「DIYスローライフ」ですが、ただの魔法チートではありません。
空気圧や流体力学、ウォーターカッターなど、前作をお読みいただいた皆様にも絶対に刺さる「機械・設計ロジック」で異世界の常識を粉砕していくコメディです。
本日は連載初日ということで、この後22時まで1時間おきに怒涛の連続更新を行っております。ゴールデンウィークの最高のリフレッシュに、ぜひ極上の「チル」な空間へお越しください!
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