第9話:二大組織の同時襲来と、俺の工場の『仮想化(バーチャル)』防衛線
【緊急】坂本重機整備の周辺、ガチで封鎖されてる件【何事?】
305:名無しのポリス好き
おい、仕事帰りに通りかかったら勇者警察の特殊部隊が展開してたぞ。
しかも反対側にはネオ・ギアスの戦闘員までいる。これ戦争か?
306:名無しのポリス好き
マジかよ。あそこって昨日の『アヴァロン』がいた場所だろ。
ついにバレたか……。
307:名無しのポリス好き
警察とネオ・ギアスが鉢合わせとか、あの工場の整備士生きて帰れるのかよw
***
「……カイト! 逃げて! 勇者警察の第1機動部隊が来てるわ!」
「カイト、裏門にはネオ・ギアスの強襲機が3機確認された。……私が時間を稼ぐわ」
リナが震えながら叫び、セレナがホワイト・ヴィクトリーのコンソールを叩く。
工場の外は、パトランプの赤と、ネオ・ギアスの不吉な紫色の光に包まれていた。
二大組織が、たった一人の「エンジニア」を求めて衝突寸前。
「……やれやれ。たかが3000円の修理で、これだけの『アクセス過多(DDoS攻撃)』かよ」
俺は冷めた目でモニターを眺めていた。
勇者警察の拡声器が響く。
「建物内の整備士に告ぐ! その技術は公的に管理されるべきだ! 速やかに投降せよ!」
同時に、ネオ・ギアスの重機ロボが壁を粉砕して侵入してくる。
「天才エンジニアは我々がいただく! 邪魔な警察ごと踏み潰せ!」
「……カイト君、どうするの!? もう逃げ場がないわ!」
「逃げ場? ……リナさん。物理的なスペースが足りないなら、『仮想空間』を広げればいいんですよ」
俺は地下ドックのアヴァロンを起動させた。
だが、今回は発進のさせ方が違う。
「アヴァロン。ハイパーバイザ(仮想化管理ソフト)展開。
——『仮想化』防衛プロトコル、実行」
『了解、マスター。……リソースを分割。仮想インスタンスを5つ生成します』
工場のシャッターが吹き飛ぶと同時。
そこから姿を現したのは、1機のアヴァロン——ではなかった。
「な……ッ!? 5機!? 5機もいるのか、あの黒いロボットが!」
警察の特殊部隊が驚愕に凍りつく。
「馬鹿な、あんな高性能機を量産しているというのか!?」
ネオ・ギアスの重機ロボが、一番近いアヴァロンに殴りかかる。
だが、拳はアヴァロンの体をすり抜け、空を切った。
「残像……!? いや、質量はある! センサーには確かに反応が……!」
「残念。それは実体であって、実体じゃない。
『仮想マシン』みたいなものだ」
俺はアヴァロンのコックピットで、複雑なトラフィックを捌くように指を動かす。
前世の技術——仮想化(Virtualization)。
一つの強力なハードウェア(本物の機体)のリソースを分割し、複数の独立したOS(分身)を走らせる。
分身たちは、ある瞬間には「ただの映像」になり、攻撃を当てる瞬間だけ「本物の質量」をアヴァロンから借り受ける。
「……これこそ、エンジニアが最も得意とする『リソースの誤魔化し』だ」
5機のアヴァロンが、戦場を支配する。
警察の拘束弾をすり抜け、ネオ・ギアスの装甲を一撃で粉砕する。
「ありえない……! 攻撃が当たらないのに、あっちの攻撃は全部クリティカルなの!?」
セレナが呆然とモニターを見つめる。
彼女のようなエリート設計士には、この「1を10に見せる」詐欺的な技術は理解不能だろう。
「……引き上げるぞ! このエリアの論理空間がハックされている!」
警察とネオ・ギアス、両陣営はパニックに陥り、互いに「あいつらが新兵器を投入したんだ!」と疑心暗鬼になりながら撤退を開始した。
***
数分後。
嵐が去った後のような静かな工場。
「……ふぅ。とりあえず、システムダウンは免れたな」
俺がアヴァロンから降りると、リナとセレナが猛烈な勢いで詰め寄ってきた。
「カイトくん! 今の分身!? なにあれ! かっこよすぎるんだけど!」
「カイト、今の技術……教えなさい。本気で教えなさい。
……代わりに、私の家が経営している高級リゾートのチケットあげるから!」
「……今は、そんなことより寝かせてください。徹夜明けのデバッグより疲れました」
俺が二人をなだめていると。
工場の入り口に、一機の白い勇者ロボ——『ジェイ・ガスト』が立ち尽くしているのが見えた。
「……あの、整備士殿」
警察の機動隊は撤収したが、彼だけは残っていたらしい。
操縦席から降りてきたのは、いつも勇者警察のリーダーとしてテレビに映っている青年、リュウジだった。
「……助かった。君がいなければ、我々はネオ・ギアスにいいようにされていた。
……君は、本当は何者なんだ? その力があれば、この国の警察機構を全て作り替えられるはずだが」
リュウジの真っ直ぐな、そして憧れを含んだ視線。
俺はいつものように、スパナを一本取って、軽く振ってみせた。
「……俺はただの、下請けの整備士ですよ。
誰かの命令で動くより、こうして壊れたものを直している方が性に合ってるんです」
「……そうか。君のような『職人』がこの国を支えているんだな。
……いつか、公式に君の協力を仰ぐ日が来るかもしれない。その時はよろしく頼む」
リュウジは敬礼し、ジェイ・ガストと共に去っていった。
「……カイト、有名人になっちゃったわね」
セレナが少し寂しそうに、でも誇らしげに呟く。
「……有名になんてなりたくないって、何度も言ってるだろ」
俺は壊れたシャッターを見上げ、大きく溜息をついた。
これで少しは静かになる……わけがない。
明日からは、この「伝説の整備士」を狙う連中と、そして何より——。
「カイトくん、ご褒美に私が美味しいお弁当作ってきてあげる!」
「私が高級フレンチのデリバリー頼んであげたわよ!」
……この賑やかなヒロインたちとの、騒がしい日常が加速していくのだから。




