その1
僕が暮らす村はとても小さい。
住人の数も少なく、特別な産物もない。
ただひたすら農作物を育て、毎年、国へ納めている。
そんなことを繰り返す、どこにでもある、ごく普通の小さな村だ。
村は国の中央から、ずいぶん外れたところにある。
大きな街道からも少し離れたところにあるから、行商人や旅芸人が立ち寄ることはとても少ない。
街道から僕の村へ続く小路に、わざわざ入り込もうなんて、先を急ぐ旅人たちには到底考えられない選択肢だ。
儲けが見込めない場所へわざわざ来るような行商人や旅芸人なんて、なおさらだ。
だけど、ほんとに、たまに、思い出したように、やって来てくれる。
そんな時は村中がお祭り騒ぎの大歓迎だ。
大抵は包丁やナイフの刃物研ぎや、壊れた鍋や釜の修理をする行商人。
それでも、だましだまし使っていた物がちゃんと使えるようになるから、村のみんなはとてもいい笑顔になる。
そんな行商人さんたちが、ごく稀にお菓子を持ってきてくれたりする。
そうなると、子供たちだけでなく、大人も一緒になって争奪戦になる。
僕たち子供は香りのいいジンジャーブレッドを。大人は蜂蜜にドライフルーツを。ああ、村長さんなんかは、珍しいお酒を嬉しそうに買っている。
そして、今日。
行商人が来ている。
もちろん村を挙げての大歓迎だ。
みんな彼の周りに集まって、わいわいがやがや、とても賑やかだ。
行商人さんは村の鍛冶屋の作業場を借りていた。
刃物研ぎや鍋修理に時間がかかるから、今夜は村に泊まるらしい。
村でも農具を作ったりするから、一応鍛冶屋はあるけれど、作れるのは無骨な農具だけ。繊細な細工や、鍋の大穴を塞ぐような修理はできない。だから、こういう行商人さんが頼りなんだ。
僕はそっと作業をしている様子を覗く。
彼はちょうど、手慣れた様子で歪んだ鍋を直していた。
僕があまりにも熱心に見つめていたから、気づかれてしまった。
「どうした? お菓子はさっき売り切れたぞ。他に、何か欲しいものでもあったか?」
余程物欲しそうに見えたのか、そんなことを言われてしまった。
「違うよ! ねぇ、横で見ててもいいかな?」
「ああ、構わないが、別に何も面白くないぞ?」
怪訝そうな表情だ。
彼にとっては面白いものではないのかもしれないが、僕にとってはまるで魔法のようだ。
あんなにボコボコだった鍋が、みるみるうちに綺麗に丸い形に戻っていく。
それにもう研ぎ終わったのか、彼の横には、作業場の薄暗い灯りを受けて、銀色にきらきら光る刃がズラリと並んでいる。
「面白いよ! だって魔法みたいだよ」
「魔法みたいか? それは嬉しいな。......まあ、この世界には本当の魔法だってあるんだが、俺にはこれしか出来ないんだがな」
行商人さんはそう言うと、にかっと白い歯を僕に向けた。
でも、その手は止まらない。次々と横に積まれた鍋を手に、そのでこぼこを直していく。
その後、夜遅くまで、僕は飽きることなく彼の隣に座っていた。リズミカルな金属の音と、飛び散る火花。修理されて命を吹き込まれていく道具たちを、ずっと眺めていた。




