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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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カンナギ国の攻防 その2

轟音が、大地を震わせていた。


カンナギ国の最前線。崩れかけた防壁の向こうから、敵軍の怒号と金属のぶつかり合う音が絶え間なく押し寄せる。空は土煙でかすみ、昼だというのに薄暗い。


「押し返せ! 一歩も下がるな!」


喉が裂けるほど叫ぶ下士官の声も、波のように迫る敵兵の勢いにかき消されそうになる。


盾はひび割れ、槍は折れ、兵士たちの腕は鉛のように重い。それでも誰も退かなかった。

ここを抜かれれば、背後の街も、家族も、すべてが蹂躙される。


その事実だけが、彼らの足を地面に縫い止めていた。


敵の重装歩兵が楔のように食い込み、防衛線が軋む。

ついに一角が崩れ、味方の一団が押し戻された。


「だめだ…持たない…!」


誰かが絶望をこぼしかけた、その瞬間——


空気が、焼けた。


ヒュオッ、と耳を裂く音。

次の瞬間、敵陣の上空に無数の赤い光が灯る。


ドォン!! ドドドドドッ!!


炎の塊が、流星のように降り注いだ。

地面が跳ね、爆風が土煙を吹き飛ばす。敵軍の隊列が大きく乱れ、悲鳴と混乱が一気に広がった。


「な、なんだあれは!?」


カンナギ兵が顔を上げた先——丘の稜線に、逆光の影が並んでいた。


遠吠えが響く。


次の瞬間、影たちは一斉に駆け下りた。


獣人族。

狼のような脚力で地面を蹴り、重力を無視する勢いで戦場へ雪崩れ込む。大剣、斧、爪のついた籠手——それぞれの得物を振りかざし、混乱する敵軍へ一直線に突っ込んでいく。


「援軍だ!! 獣人族だ!!」


その叫びは、疲れ切ったカンナギ兵の胸に火を点けた。


炎の雨で崩れた敵陣へ、獣人たちが楔のように食い込む。

敵の号令は乱れ、統率が目に見えて崩れていく。


その光景を、後方の指揮台から見下ろしていたカンナギ国の指揮官は、握りしめた拳を高く掲げた。


「——好機だ」


声は低いが、戦場の喧騒を切り裂く鋭さを持っていた。


「全軍、突撃!! この線を守り切れ!!」


角笛が鳴り響く。


それは、防戦一方だった軍にとって、初めての“前へ進め”の合図だった。


「おおおおおッ!!」


鬨の声が上がる。

傷だらけの兵士たちが、盾を打ち鳴らし、折れかけた槍を握り直し、獣人たちの切り開いた突破口へなだれ込む。


炎の熱、土煙、怒号、咆哮。

入り乱れる戦場の中心で、カンナギ兵と獣人族は肩を並べて押し返す。


一歩。

また一歩。


やがて——敵の角笛が、後退の合図を告げた。


じりじりと、そしてついに明確に、敵軍は引き始める。


誰かがその場にへたり込み、誰かが空を仰ぎ、誰かが無言で武器を地面に突き立てた。


防壁は半壊し、地面は抉れ、空気は焦げ臭い。

だが——


「……守ったぞ」


そのつぶやきが、静かに、確かに広がっていった。


敵軍の後退が始まりかけた戦場の中央。


蒼い光をまとった大槍が、唸りを上げて振り抜かれる。

直撃はしていない。だが衝撃そのものが叩きつけられたかのように、敵の重装兵がまとめて吹き飛び、地面を転がった。


土煙の中、ひとりの男がゆっくりと立ち上がる。


肩に担いだ槍は身の丈を超え、穂先にはまだ淡い光が残っている。


「……ふぅー。運動不足の体にはキツいねぇ」


場違いなほど気の抜けた声だった。


外套のフードがずり落ち、無精ひげの中年男の顔が覗く。眠たげな目、だらしなく崩した立ち姿。とても“敵陣を単騎でこじ開けた張本人”には見えない。


カンナギ兵のひとりが震える声で呟く。


「ご、ゴウキ……殿……」


その名に、周囲の兵が一斉に息を呑む。

敵から“戦場の悪鬼”と恐れられる男――ゴウキ。


当の本人は、差し出された水筒を受け取りながら言う。


「酒じゃないのかよぉ。まあいいや、ありがとさん」


ごくごく飲みながら、視線だけは絶えず戦場を走っている。

崩れかけた左翼、後退しながら陣形を立て直す敵騎兵、消耗の激しい獣人部隊。


全部見て、全部計算した上で、のんびりと水を飲んでいる。


そこへ指揮官が駆け寄った。


「ゴウキ殿! 援軍、感謝する!」


「堅い堅い。肩こるからやめてくれ」

頭をぼりぼり掻きながら、軽い調子で続ける。

「左、ちょっと薄い。敵の騎兵が回り込むかも。足の速い獣人、あっち回してやってくれる?」


指揮官の目が見開かれる。

まさに伝令が持ってきたばかりの報告と一致していた。


「すぐに手配する!」


ゴウキは満足げに頷き、再びだらりと背を丸める。


「いやーしかし、ほんとギリギリだったなぁ。間に合わなかったら俺、合わせる顔なくなるとこだった」


「合わせる顔……? 誰にですか」


その瞬間、ゴウキの表情がわずかに引き締まる。


「サツキ様に決まってんだろ」


即答だった。


「姉上のカンナ様はまだしも、サツキ様はこういう報告聞くたびに自分のせいみたいな顔するんだぞ?

『みんなが傷つくのは、私が弱いからです』とか言い出すんだぞ? 胃がキリキリすんの俺なんだからな」


周囲の兵がぽかんとする。


「国のため、とか民のため、とか立派な理由はいっぱいあるけどさ」

槍をくるりと回し、肩に担ぐ。

「サツキ様が泣く未来だけは絶対に却下。それだけで十分だろ、戦う理由なんて」


その背に、ぞわりとした圧が戻る。

さっきまでのだらしない中年男の気配が消え、“悪鬼”がそこに立っていた。


遠くで敵の太鼓が鳴り、再編成の動きが見える。


ゴウキは深いため息をついた。


「はぁ……もうひと仕事か。あとでサツキ様に褒めてもらえるなら、まあ安いもんだ」


軽い口調。

だが次の一歩で、地面がひび割れた。


そのまま振り返らず、再び敵陣へ歩いていく。


だらしなく見える背中。

けれどその周囲だけ、空気が張り詰め、砂塵すら近寄らない。


カンナギ兵のひとりが呟く。


「……あの人が、ゴウキ」


獣人の戦士が低く笑う。


「悪鬼? 違うな」


蒼い光が前線で爆ぜる。


「あれは——姫に惚れ抜いた、ただの最強の護衛だ」



戦の後。


応急の野営地には、まだ焦げた匂いと薬草の匂いが混じって漂っている。

兵たちは疲れ切った顔で座り込みながらも、どこか誇らしげだった。


その中心で、若い兵たちに囲まれているのはカンナギ軍の指揮官だった。


「し、指揮官殿! あのゴウキ殿って、やっぱり常にあんな感じなんですか!?」

目を輝かせた新兵が身を乗り出す。


指揮官は一瞬きょとんとした後、吹き出した。


「常に? ああ、常にだな。あれでも今日は“だいぶ真面目な方”だ」


「えぇっ!?」


「普段のあの人はな……まず朝の訓練に来ない」


「来ない!?」


「起こしに行くと、だいたい酒瓶抱いて寝てる。しかも自分の部屋じゃなく、兵舎の屋根の上とか、馬小屋の干し草の山の上とかな」


兵たちの間にどっと笑いが起きる。


「この前なんてな、城の裏門の番兵と一緒にサボって昼寝してたぞ。“日向ぼっこは国防の基本だ”とか言って」


「それ怒られないんですか!?」


「怒られるさ。サツキ様に」


指揮官は肩をすくめる。


「正座で三十分説教されてたな。“ゴウキ、あなたは立場を自覚してください”って。あの人、終始しょんぼりしててな。戦場じゃ悪鬼なのに、姫様の前だと完全に叱られた犬だ」


笑いがまた広がる。


「書類仕事も最悪だぞ。文字は汚い、報告は三行、しかも最後はだいたい

“まあ何とかなりました”で締める」


「雑すぎる……」


「酒場に行けば飲みすぎて若い兵に絡むし、財布はすぐ空にするし、約束の時間は守らんし、部屋は散らかり放題だ」


そこまで言って、指揮官はくつくつと笑った。


だがその目は、やわらかく細められている。


「……だがな」


声の調子が少しだけ変わる。


「誰よりも早く負傷者に気づくのも、あの人だ」


兵たちが静かになる。


「撤退戦のとき、自分が殿を務めながら、背中で二人担いで戻ってきたことがある。しかも『軽かったからついでだ』なんて言ってな」


「……」


「兵の名前、ほとんど覚えてるぞ。家族構成までな。

この前も“お前んとこの妹、熱下がったか?”って何気なく聞いててな……聞かれた本人が泣いてた」


指揮官は焚き火の向こう、暗くなり始めた空を見上げた。


「国のことも、民のことも、誰より考えてる。

ただ——それを表に出すのが、たぶん照れくさいんだろうな」


小さく息を吐き、微笑む。


「だからわざと、だらしなく振る舞ってる。

自分が英雄扱いされるより、酒飲みのダメ男と思われてる方が気楽なんだろうさ」


若い兵がぽつりと呟く。


「……かっこよすぎませんか、それ」


指揮官は笑った。


「ああ。かっこいいとも」


その目には、はっきりとした光が宿っている。

戦場で蒼い軌跡を見たときと同じ、いや、それ以上の熱を帯びた光。


「だから俺は、あの背中を追ってる。

あの人みたいに、兵を守れて、国を守れて……それでも笑って酒を飲める男になりたい」


焚き火がぱちりと弾ける。


そのとき遠くから、


「おーい! 誰か酒持ってねぇ!? 勝った祝いだぞー!」


という、締まらない大声が響いた。


兵たちの間にまた笑いが広がる。


指揮官は額に手を当てながらも、嬉しそうに言った。


「……ほらな。あれが我らが悪鬼殿だ」


けれどその視線は、夜の向こうの男の背をまっすぐ見つめていた。

尊敬と、憧れを隠そうともしない目で。

英雄はロリコンでしたw



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