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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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獣人の隠れ里 その4

カンナギ国を支援する。


方針が決まった瞬間、隠れ里の空気はがらりと変わった。


それまで思案と不安に揺れていた空気が、一気に前向きな熱へと変わる。獣人たちは元来、机上で悩み続けるより、体を動かしている方が性に合う種族だ。

「戦う」と腹を括ったことで、迷いは行動へと姿を変えた。


広場では武具の点検が始まり、倉庫から眠っていた鎧や盾が引っ張り出される。若い戦士たちは年長者の指導のもと、隊列の組み方や合図の確認を繰り返し、森の中では斥候役が地形の再確認に走る。


木剣の打ち合う音、弓弦の鳴る音、号令の声。

静かな隠れ里は、まるで別の場所のような活気に満ちていった。


そんな喧騒から少し離れた、里の奥にある工房では――

別の意味で、熱い戦いが繰り広げられていた。



「これが、“キツネ火の玉”じゃ」


タマモが差し出したのは、手のひらほどの大きさの魔晶石。淡い蒼白い炎が内部でゆらめき、まるで生き物の鼓動のように明滅している。


「触っても熱くはないけど、なんかゾワッとするね……」

ルミナスが感想を口にする。

リズが横から覗き込み、尻尾を揺らす。


カズトは慎重にそれを受け取り、作業台に置いた杖の核部分へと組み込んでいく。

ルミナスが魔力の流れを整え、タマモが古い妖術の紋様を刻み込む。


三者三様の技術が合わさり、やがて一本の杖が完成した。


深い朱色の杖身の先端には、あの魔晶石が灯火のように嵌め込まれている。火ではないのに、周囲の空気がほのかに揺らぐ。


「名付けるなら……“妖狐の漁火”じゃな」


タマモが満足げにうなずく。


試しに魔力適性のほとんどない若い獣人が握ると、杖の先にぽん、と火球が生まれた。


「うおっ! 出た!?」


制御も詠唱もいらない。意志に反応して、次々とファイアーボールが放たれる。


さらにルミナスが持って魔力を流し込むと、火球は一変した。

圧縮された炎が唸りを上げ、空気を焦がす。


「これは……インフェルノ級まで引き上げられますわね」

「制御補助もしてくれるみたいだな。暴発しにくい」


魔力の少ない者には連射可能な火力を。

魔力の多い者には上位魔法の補助を。


まさに戦場の切り札になり得る一本だった。



「私のナイフ……!?」


目を輝かせるリズに、カズトは苦笑しながら頷く。


「あぁ、強化するぞ。」


妖狐の漁火に使った魔晶石の“余核”を砕き、粉末状にして刃へと焼き込む。

タマモの妖力で定着させ、ルミナスが暴走防止の術式を重ねる。


完成したナイフをリズが振るうと――刃の縁に細い炎が灯った。


「すごい……きれい……」


軽く振り抜くだけで、炎の弧が宙を走る。

さらに魔力を込めれば、小さな火弾を撃ち出すこともできた。


「近接も遠距離もいけるな。調子乗りすぎるなよ?」

「大丈夫……ルミナスと……主を……まもる」


表面上、あまり感情は分かりにくいのだが、すでに試し斬りしたくてうずうずしているように見受けられた。


さらに別の製作に取り掛かるカズト。

攻めだけでは足りない。

次に取りかかったのは支援装備だった。


「回復役が圧倒的に足りませんものね」

ルミナスの言葉に、皆がうなずく。


完成したのは、淡い緑の魔石を埋め込んだ簡素な杖。術式を極限まで単純化し、“ヒール”だけを発動できるように固定してある。


専門の神官には遠く及ばない。だが――


「誰でも、一定量の回復を確実に使える」

それだけで戦場の生存率は大きく変わる。


実験では、軽い切り傷や打撲がみるみる塞がっていった。

獣人の戦士たちが感嘆の声を漏らす。


工房では他にも、できる限りの強化が進められた。


刃こぼれしにくい合金で打ち直された剣。

衝撃を吸収する芯材を仕込んだメイス。

矢じりに魔力伝導加工を施した矢束。


派手な魔道具ばかりではない。

だが「壊れにくい」「よく斬れる」「扱いやすい」――そうした堅実な改良が、戦場では命を救う。



昼夜の区別も曖昧になるほど作業は続いた。

食事は差し入れられ、仮眠は工房の隅。


外では訓練の掛け声が響き続け、里全体が一つの目的に向かって動いているのが分かる。


最後の武具を受け取った若い獣人が、深く頭を下げて工房を出ていくのを見送りながら、カズトは大きく息を吐いた。


「……できることは、やったな」


隣でルミナスが微笑み、タマモは静かにうなずく。

リズは新しいナイフを握りしめたまま、誇らしげに胸を張っていた。


備えは整った。


森の隠れ里は今――守るための牙を、静かに研ぎ終えていた。



出立前の慌ただしさの中、工房の奥だけは不思議と静かだった。


カズトは布に包んでいた小箱を開き、中からそっと取り出す。

光を受けてきらりと輝くのは、淡い金の鎖に下がった一粒の宝石。澄んだ琥珀色の中に、柔らかな光がゆらめいている。


「……これは、あなたに」


差し出されたそれを、タマモは目を細めて見つめた。


「ほう?」


手に取った瞬間、宝石の奥で魔力の流れが静かに脈打つ。只者ではないと、触れただけで分かる代物だった。


「魔力の蓄積、取り出し、制御補助。それに回復術式も仕込んである」

カズトは淡々と説明する。


「“メガヒール”と“エリアヒール”が使えるようになってる」


その言葉に、ルミナスが小さく感嘆の息を漏らし、リズが「すご……」と目を丸くした。


ヒールでは追いつかない重傷を瞬時に引き戻す大規模回復。

さらに、一定範囲にいる者すべてを癒す広域回復。


どちらも本来は高位の回復術師がようやく扱える術だ。


タマモはしばし無言で宝石を見つめ、それからゆっくりとカズトに視線を戻す。


「わらわに、前線へ出るなと言いたいのじゃな?」


わずかに笑みを含んだ声音。責める色はない。


「正直に言えばな」


カズトは肩をすくめた。


「タマモの魔力なら、攻撃魔法で前線に立つのが一番派手で効果もある。でも……里の代表が最前線ってのは、リスクがでかすぎる」


タマモほどの存在が倒れれば、戦局以上に士気が崩れる。

それは誰の目にも明らかだった。


「かといって後ろで見てるだけ、ってのも性に合わねぇだろ?」


その言葉に、タマモはくすりと喉で笑う。


「よう分かっておるの」


「だから支援役だ。あんたの魔力を最大限活かしつつ、前線より一段後ろで全体を支える。重傷者を一瞬で立て直せる存在がいるってだけで、戦線は簡単には崩れなくなる」


カズトの視線は真剣だった。


「それに――」


一瞬言葉を選び、続ける。


「タマモが“命を救う側”に立つってのは、里の連中にとっても、カンナギの兵にとっても、大きな意味を持つはずだ」


守り神と呼ばれてきた存在が、実際に戦場で癒しを振るう。

それは象徴としても、これ以上ない力になる。


タマモはネックレスを胸元に当て、静かに魔力を流した。

宝石が淡く輝き、彼女の魔力の波長に呼応する。


「……ふむ。扱いやすいの。制御の補助も見事じゃ」


満足げにうなずき、鎖を首にかける。宝石は彼女の胸元で静かな灯火のように揺れた。


「礼を言うぞ、カズト」


その声は、里の長としてではなく、一人の戦友としての響きを帯びていた。


「わらわは前に立って導くタイプじゃが……時には後ろから支えるのも悪くない」


金の瞳が、柔らかく細められる。


「この力、無駄にはせぬ。必ずや、多くの命を繋いでみせようぞ」


出立を前にして、また一つ。

この戦いを支える要が、静かに形を得たのだった。

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