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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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獣人の隠れ里 その3

宴の熱気が嘘のように引いた翌朝、隠れ里には澄んだ冷気が満ちていた。夜通し燃えていた焚き火は灰となり、広間には朝の光が静かに差し込んでいる。


昨夜は笑い声であふれていたその場所も、今は張りつめた空気に包まれていた。


円卓を挟んで座るのは、里の代表タマモとカズトたち。リズやルミナス、アリーナも同席しているが、誰も軽口を叩く様子はない。話題が話題だけに、自然と背筋が伸びていた。


「……カンナギ国の戦のことじゃな」


タマモが静かに切り出す。昨夜の柔らかな雰囲気は消え、里を束ねる長の顔に戻っている。


カズトは小さくうなずいた。

「もしカンナギが負ければ、次に押し寄せるのは周辺だ。山も森も関係ない。ここだって例外じゃないだろ」


広間の空気が、わずかに重くなる。


獣人の里は長年、外界と距離を保つことで平穏を守ってきた。だが大国同士の戦が激化すれば、その余波は否応なく辺境にまで広がる。資源、土地、労働力――侵略する側にとって、隠れ里は“見逃す理由のない場所”になりかねない。


「里の者たちも、それは分かっておる」


タマモの金の瞳が細められる。


「じゃが、戦に関われば、今度はカンナギの敵から目をつけられるやもしれぬ。どちらに転んでも火の粉は飛んでくる」


守るために動けば狙われ、何もせずとも巻き込まれる可能性がある。厳しい現実だった。


カズトは腕を組み、しばらく考え込む。

「だから聞きに来た。あんたらがどうしたいのか」


助力を申し出るのは簡単だ。だが、それが本当に里の望む道でなければ、ただの押し付けになる。


「俺たちは外の人間だ。けど、リズが世話になった恩もあるし……状況次第じゃ、手を貸すつもりもある」


その言葉に、リズが小さく息を呑む。タマモはしばし無言でカズトを見つめた。試すようでもあり、量るようでもある視線。


やがて、タマモはゆっくりと口を開く。


「里の衆はな、戦を好まぬ。じゃが――守るための牙まで捨てるつもりもない」


広間の外では、朝の鍛錬に向かう若い戦士たちの掛け声が微かに響いている。


「今、皆で話し合っておる最中じゃ。隠れ続けるか、備えるか、それとも……外と手を結ぶか」


視線が、カズトたちへ向けられた。


「おぬしらのような者と縁ができたのも、流れのひとつやもしれぬの」


静かな言葉だったが、その奥には里の未来を左右する重みがあった。


それは、この隠れ里がこれからどう生きるかを探る、分岐点の始まりだったのかもしれない。



「ふむ、参考までにお主らはどう動くつもりだったかを聞かせてもらえるかのぅ?」


タマモの問いかけに、広間はしんと静まり返った。

試すようでいて、純粋に未来を量ろうとする声。

カズトは腕を組んだまま天井を見上げ、少しだけ考えてから口を開いた。


「まず一つ目だが――」


視線をタマモへ戻す。


「もしあんたらが、“争いを避けるためにこの里を捨てる”って選択をするなら、行き先のあてはある」


その言葉に、同席していた獣人たちがざわめく。


「俺たちの拠点にしてるダンジョンだ。今、あそこには移住してきた魔族が増えててな。階層ごとに居住区の整備も進んでる。正直、種族も文化もバラバラだが……その分、住み分けはきっちりしてる」


リズがこくこくとうなずく。

「ケンカもある……けど、……ちゃんと……ルール……守ってる」


「獣人族が入る余裕くらいは、まだある。森を丸ごと持っていくわけにはいかねぇが、住処としては悪くないはずだ」


逃げ道ではあるが、ただの放浪ではない。

“生き延びるための移住先”としての提案だった。


タマモは何も挟まず、静かに続きを促す。


「二つ目。カンナギ国の戦争について」


カズトの声が、少しだけ低くなる。


「正直、放っておくって選択もなくはなかった。けどな……もう向こうと縁ができちまってる。見捨てるのは後味が悪い」


ルミナスが静かに目を伏せ、アリーナは腕を組んだまま黙って聞いている。


「だから、手を出すなら徹底的にやる。少なくとも、“二度と侵略なんて考えたくなくなる”くらいには叩くつもりだ」


淡々とした口調だが、そこに冗談はない。


「ただし――」


カズトは指を一本立てた。


「それでカンナギが調子に乗って、今度は自分から侵略国家になるってんなら、その後の面倒までは見ねぇ。守るための手伝いはするが、支配の手伝いをする気はない」


広間の空気が、重みを増す。

力はある。だが使い方は選ぶ――そういう線引きだった。


そしてカズトは、少しだけ視線を横に流し、苦笑まじりに続けた。


「……ま、ついでに言えばだ」


タマモの片眉がわずかに上がる。


「この混乱に乗じて、カンナギ国そのものを乗っ取るって手も、ゼロじゃないなとは考えた」


ざわ、と広間がどよめく。冗談めかした言い方だが、完全な冗談でもないと伝わる響き。


「けどそれやると話が変わってくる」


カズトはまっすぐタマモを見た。


「問題になるのが、あんたらとカンナギ国の関係だ」


広間の松明がぱちりと音を立てる。


「敵対してる、もしくは特に関わりがないってんなら、俺たちがどう動こうがあんたらに直接の迷惑はかからねぇ。けど――」


一拍置く。


「友好的な関係があるなら、ヘタな真似はできない。あんたらの立場を悪くする気はないからな」


カズトの視線は真剣そのものだった。


「だから聞く。あんたらとカンナギ国は、どういう距離なんだ?」


広間の中心で、タマモの金の瞳が静かに細められる。

里の未来と、国の行く末と、そしてこの異邦の一団との縁。


すべてが絡み合う問いが、今、彼女に委ねられていた。


タマモはしばらく黙したまま、指先で卓をとん、と軽く叩いた。

やがて静かに口を開く。


「カンナギ国とはな……昔から、持ちつ持たれつの仲じゃ」


その声音は、どこか懐かしむようでもあった。


「向こうの者らに、獣人への差別はほとんどない。わらわらのことを“森の守り神”などと呼びおってな」


小さく笑うが、その目は優しい。


「森の恵みを分け、薬草や獣の道を教え、飢えの年には食料を融通した。逆に里が外敵に脅かされた時は、カンナギの兵が森の外で盾になったこともある」


長い年月の中で築かれた、静かな信頼関係。

支配でも同盟でもなく、ただ互いを尊重する距離。


「じゃから今回の侵攻の報を受けたとき、里から援軍を出すつもりでおった」


広間の隅に控えていた年嵩の獣人が、重々しくうなずく。


「じゃがの……断られた」


カズトの眉がわずかに動く。


「使者が持ち帰った言葉はこうじゃ。“ギリギリまで抵抗するが、危うくなったらすぐに逃げてくれ”……とな」


自分たちを巻き込みたくない。

森の民を戦火に晒したくない。

その意志がはっきりと伝わる言葉だった。


「優しさか、意地か……どちらにせよ、あやつららしい」


タマモは小さく息をついた。


「助けたい。じゃが、押しかければ彼らの覚悟を踏みにじるやもしれぬ。動かねば、見殺しにするやもしれぬ」


その板挟みに、里は揺れていたのだ。


「そこへ、おぬしらが来た」


金の瞳が、まっすぐカズトを射抜く。


「偶然とは思えぬ。流れが、縁が、ここに集まっておる」


タマモはゆっくりと立ち上がった。衣の裾が静かに床を払う。


「これは天啓じゃ。女神の神託と言ってもよい」


ざわ、と広間に緊張が走る。


「わらわらだけでは決めきれなんだ道を、おぬしが示した。戦うにせよ、退くにせよ、守るための選択肢を持ってきた」


そして、深く、はっきりと告げる。


「ゆえに――妾以下、この隠れ里の獣人は、カズト。おぬしに従って動こう」


リズが息を呑み、ルミナスは静かに目を伏せ、アリーナはわずかに口元を引き締める。


里の長が、外から来た一人の男に未来を託す。

それは軽い決断ではない。


広間に集う獣人たちもまた、戸惑いより先に覚悟を宿した目でカズトを見つめていた。


森の守り手たちの進む道が、今――外の世界と交わろうとしていた。

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