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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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獣人の隠れ里 その2

獣人たちの隠れ里、その中心にある広間は、外界から切り離された別世界のような静けさに包まれていた。天井近くまで伸びる太い梁には古い魔除けの札が吊るされ、壁際には松明が等間隔に灯っている。揺れる火が、集まった獣人たちの緊張した顔を赤く照らしていた。


広間の中央で向き合っているのは、旅の一行のまとめ役であるカズトと、この里を束ねる存在――タマモ。


タマモは艶やかな金の瞳を細め、長い黒髪を背に流したまま、ゆったりとした仕草で腰掛けている。その姿は優美でありながら、場の空気を一瞬で支配する威圧感をまとっていた。美しさの奥に、簡単には踏み込めない深さがある。


「それで、どう始末をつけるつもりじゃ?」


低く落ち着いた声が、静まり返った広間に響く。


問われたカズトは、頭をかきながら困ったように眉を下げた。

「どうって言われてもなぁ……」


彼の背後には、ずらりと並んで座らされた獣人の兵士たち。全員、丈夫なロープで拘束されている。数は百を優に超えていた。彼らは皆、森の外から来たカズトたちを敵とみなし、一斉に襲いかかった者たちだ。そしてその結果、アリーナの手によって完膚なきまでに制圧された。


兵士たちの表情は悔しさと戸惑いが入り混じっている。自分たちの判断が正しかったのか、それとも早まったのか――答えを見失った目だった。


「こっちとしてはさ、一応襲われた側なわけで。何事もなかったみたいに解放、ってのもなぁ」


カズトの言葉に、広間のあちこちで小さなざわめきが起こる。


彼とて、彼らの警戒心が理解できないわけではない。外の世界は獣人にとって決して優しい場所ではないのだろう。最初の奇襲だけなら、事情を聞いて水に流すこともできた。


だが。


リズが何度も声を張り上げ、敵意がないと必死に訴えていた。それを無視し、なおも攻撃を続けたことだけは、どうしても飲み込めなかった。


しばしの沈黙ののち、タマモがゆっくりと口元に笑みを浮かべる。


「ふむ……では、そやつらを奴隷として連れていくか?」


冗談とも本気ともつかない声音。だが、その金の瞳だけは笑っていなかった。カズトの反応を測るように、じっと観察している。


広間の空気が、ぴんと張り詰める。


試されている――

そう直感しながら、カズトは小さく息を吐いた。


「そんな面倒なことはしねぇよ。ってか、ウチのリズがアンタに世話になったって聞いたから来ただけだからな。落とし前はそっちでつけてくれよ」


言いながら、彼は隣に立つリズの頭をくしゃりと撫でた。その仕草はいつも通りの気安さで、重苦しい場違いなほど自然だった。


撫でられたリズは、少しくすぐったそうに目を細めてから、広間の上座にいるタマモを見上げる。


「タマモおばぁ……」


そこまで言いかけた瞬間。


ぞくり、と空気が凍りついた。


タマモの金の瞳がすっと細まり、見えない刃のような殺気がリズをかすめる。広間のあちこちで獣人たちが息を呑んだ。


リズはびくりと肩を震わせ、慌てて言い直す。


「……お姉ちゃん、ただいま!」


ぺこりと頭を下げると、今度はタマモの目元がわずかに緩んだ。先ほどまでの鋭さが嘘のように消え、どこか満足げですらある。


「うむ。よく戻ったの、リズ」


その声音は、里の長としてではなく、一人の身内に向けるものに近かった。


タマモはゆっくりと視線をカズトへ戻す。

「まぁ、妾に“貸し一つ”、ということにしておこうかの」


広間に漂っていた緊張が、そこでようやくほどけた。

拘束されていた兵士たちの処遇は里の側で引き取ることとなった。


やがてタマモが手を打つと、控えていた者たちが一斉に動き出す。


「客人をもてなせ。宴の支度じゃ」


松明の火が増やされ、広間の隅から大皿や酒樽が運び込まれる。張り詰めていた場は、にわかに賑やかな気配へと変わっていった。


つい先ほどまで敵として刃を向けていたはずの獣人たちが、戸惑いながらも料理を並べ、酒を注ぎ始める。

カズトはその様子を見て、苦笑まじりに肩をすくめた。



獣人の隠れ里の広間は、すっかり宴の熱気に包まれていた。


大きな焚き火を囲むように並べられた長卓には、山の幸を豪快に焼いた料理や、木の実をふんだんに使った甘い菓子、香ばしい肉の串焼きが所狭しと並んでいる。樽から注がれる果実酒の匂いが漂い、あちこちで笑い声が弾けていた。


最初こそよそよそしかった獣人たちも、杯を重ねるうちにすっかり打ち解けていた。

話してみれば彼らは驚くほど気さくで、仲間思いで、情に厚い。外からの脅威に敏感なのも、すべては里と家族を守るためだと分かれば、カズトたちの胸の中に残っていたわだかまりも自然と溶けていった。


「お前ら、あの時の動きすげぇな!」

「森の外の戦い方ってやつか?」


身振り手振りを交えながら語る獣人たちに囲まれ、カズトは苦笑しつつも杯を掲げる。すっかり宴の中心人物だ。


その少し離れた場所では、ひときわ大きな歓声が上がっていた。


「もう一回だ!」

「次は俺が相手だ!」


円形に空けられた即席の演武場で、アリーナが獣人の戦士たちと模擬戦を繰り広げている。

素手の組み手、木剣での打ち合い――どれも本気に近いが、どこか楽しげだ。アリーナは次々と挑戦者を軽やかにいなし、ときに豪快に投げ飛ばしながらも、相手に怪我をさせない絶妙な加減を保っている。


倒された戦士を引き起こし、笑って肩を叩く姿に、周囲からは尊敬と親しみが入り混じった視線が注がれていた。


一方、上座に近い落ち着いた席では――


「タマモお姉ちゃん……リズ……頑張った……でも、……帰ってこれたのは……カズトのお陰……!」


リズがタマモの隣にぴたりとくっつき、尻尾をぶんぶん振りながら話している。タマモは呆れたような顔をしつつも、リズの髪を指先で梳いてやっていた。


「分かっておる。じゃが、無茶ばかりするでないぞ」

「ん……大丈夫……みんないる……から」


そのやり取りは、里の長と客人というより、久しぶりに再会した家族そのものだった。


そして広間の別の一角では、静かな攻防が繰り広げられている。


カズトの隣には、ぴたりとルミナスが寄り添っていた。上品な微笑みを浮かべながら杯を傾けているが、その視線は油断なく周囲を見ている。


「外の世界のお話、もっと聞かせてくれませんか?」


興味津々で近づいてきた若い獣人の女性に、ルミナスはにこやかに応じる。


「ええ、もちろん。でもおにぃちゃんは少しお疲れですので、長話はまた今度にしていただけると助かりますわ?」


柔らかな声色とは裏腹に、笑顔の圧がすごい。


女性がたじろいで引き下がると、ルミナスは何事もなかったかのようにカズトの腕にそっと自分の腕を絡めた。


「……えっと、ルミナス?」

「なんですか?おにぃちゃん。あの人とエッチなことしたかったですか?」

そう言いながら、胸を押し付けてくるルミナスに、カズトは何も言えなくなる。


焚き火の火の粉が夜空へ舞い上がり、笑い声と歌声が森へと溶けていく。

戦いから始まった出会いは、今や同じ卓を囲む宴へと変わっていた。

それぞれが思い思いに過ごす、温かな夜が更けていくのだった。




アリーナ無双です



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