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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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ドラゴンとの邂逅 後編

『……もっとないのか?』


満足げだったホワイトドラゴンが、きらりと目を光らせて言った。


その一言で、和んでいた空気が微妙に固まる。


「いやいやいやいや」


カズトは両手をぶんぶん振った。


「さすがにあのサイズを満腹にさせる量は持ってないって! あれ一個で国家予算レベルだからな!?」


仲間たちも全力でうなずく。

アリーナだけは「私のおやつ……」みたいな顔をしている。


ドラゴンは不満げに鼻息を鳴らした。

洞窟の気温が数度下がる。


『では……我が大きすぎるのが問題か』


次の瞬間、白い光がその巨体を包んだ。


吹雪のような光が収まると――


そこにいたのは、白銀の髪を腰まで伸ばした幼い少女だった。

肌は雪のように白く、瞳はあのままの氷色。

ふわりとしたワンピースのような衣に身を包み、裸足で岩の上に立っている。


見た目はどう見ても10歳前後。


「これならよいだろう」


腕を組み、えらそうに胸を張る元・ホワイトドラゴン。


「おやつを所望する」


図々しさはそのままだった。


カズトは額を押さえる。


「ドラゴンっておやつおかわりする生き物だったのかよ……」


とはいえ、あのブレスをまた構えられても困る。


カズトは荷物をごそごそ探り、小袋を取り出した。


「ほら、これならある。クッキー」


少女ドラゴンの目が輝く。


「丸い! 甘い匂い!」


さくっ。


ひと口かじった瞬間、表情がぱあっと明るくなる。


「うまい!!」


洞窟に響く無邪気な声。


そこからはもう早かった。


「これも食べてよいか?」

「それはオレの保存食だからちょっと待て」

「お茶いれました〜」

「もう少しぬるめに」

「ドラゴン舌かっ!」


いつの間にか、ドラゴンの巣のど真ん中でお茶会が始まっていた。


岩をテーブル代わりに、クッキーと携帯用の茶器が並ぶ。

さっきまで命の危機だった場所とは思えない光景である。


少女姿のドラゴンは足をぶらぶらさせながら、上機嫌でクッキーを頬張っている。


「そういえばさ」


カズトが湯気の立つカップを持ちながら言った。


「名前ないと不便じゃないか? いつまでも“ホワイトドラゴン”ってのも長いし」


少女はきょとんとする。


「名? そのようなもの、必要か?」


「必要だよ。呼びにくいし、街で紹介できないだろ」


「街に行く前提なのだな……」


少し考えたあと、少女はにやっと笑った。


「ならば、お主がつけよ」


「オレが?」


「うむ。最初に菓子を献上した者の権利だ」


とんでもない権利が発生していた。


カズトは少し考え、白銀の髪を揺らす少女を見る。


冷たい洞窟。

雪のような鱗。

でも今は、クッキーの粉を口の端につけて笑っている。


「……ユキ、でどうだ?」


少女は目を瞬かせる。


「ユキ?」


「白いし、氷のドラゴンだし。覚えやすいだろ」


数秒の沈黙。


やがて少女は、満足げにうなずいた。


「よい名だ。今日から我はユキだ」


そう言って、得意げに胸を張る元・天災級魔獣。


洞窟の空気はすっかり和み、笑い声すら混じる。


ただ一人。


少し離れた岩の上で、膝を抱えて座る影があった。


アリーナである。


湯気の立つお茶も、クッキーも手をつけず、じとーっとカズトを見ている。


「……ボクのハニトー……」


食べ物の恨みは、かなり根深いようだ……。



お茶会の輪から少し離れた岩の上。

アリーナは膝を抱え、ほっぺたをふくらませていた。


「……ボクのハニトー……」


まだ言ってる。絶対しばらく言うやつだ。


カズトは小声でため息をつき、クッキーをかじっているユキにそっと近づいた。


「なぁユキ。この辺りで手に入る甘いもんとか、なんかない?」


ユキはきょとんとする。


「あるぞ?」


軽い。返事が軽い。


「ただし、どれも我の縄張り限定だ」


「命がけ素材ってこと?」


「うむ。あと、細かいことは考えぬほうがよい」


不穏すぎる前置きだった。


最初に案内されたのは、洞窟の奥に湧く透明な泉。


ほんのり琥珀色で、甘い香りがする。


「これが“竜泉”だ」


「水じゃないよなこれ?」


「酒だ」


「なんで泉から酒が湧くの?」


ユキは真顔で言った。


「糖分を含んだものが発酵すると酒になる……そう言う事だ」


「糖分を含む水分??」


「そこには触れぬ方が良いぞ……」


少しだけ顔を赤らめたユキを見て、カズトは即座に思考を停止した。


次に連れて行かれたのは、氷の岩肌の隙間に咲く淡い青紫の花。


凍りついた地面から直接生えている。


「竜草花だ」


「こんな極寒で何を栄養に育ってんのこれ」


「考えたらダメだ」


「はい」


さらに、その花の周囲を飛ぶ、拳大の蜂。


牙みたいな針がある。


「龍牙蜂。こやつらの巣の蜜も使える」


「もう名前からしてヤバい」


「安心せよ。今は我がいる」


ユキが軽く手を振ると、蜂たちは一斉に道をあけた。


完全に“ボスの知り合い”扱いである。


そうして集まったのは、下界ではまず見られない超Sレア素材の山。


カズトは覚悟を決め、調理に取りかかった。


「よし……パンケーキ作るぞ」


持ち込んでいた小麦粉に、刻んだ竜草花を混ぜる。

生地はほんのり青みがかり、爽やかな香りが立つ。


そこに、ほんの少しだけ竜泉を加える。


じゅわ、とアルコールが揮発し、甘く華やかな香りがふわっと広がった。


焼き石の上で生地を流すと、


じゅううう……


静かな洞窟に、食欲を直撃する音が響く。


ふっくらと膨らんだパンケーキを重ね、仕上げ。


龍牙蜂の蜂蜜を温め、竜草花のエキスと合わせた特製シロップを――


とろり。


惜しげもなく、たっぷりとかける。


琥珀色のシロップが縁から垂れ、湯気と一緒に甘い香りが立ちのぼった。


「……できた」


その一言で、全員の視線が集まる。


アリーナの前に、そっと皿が置かれた。


まだ少し拗ねた顔のまま、ちらっと見る。


「……どうせボクのじゃないんでしょ」


「アリーナ専用。特別仕様」


ぴくっ。


フォークを手に取り、そっと一口。


ふわっ。


竜草花のほのかな清涼感と、小麦の甘み。

後から追いかけてくる、濃厚なのにくどくない蜜のコク。


アリーナの目が、みるみるうちに丸くなる。


「……おいしい……」


二口目は早かった。


三口目にはもう止まらない。


「……おかわり」


機嫌、完全回復である。


一方ユキも、自分の皿を抱えていた。


「これは……よい……!花の香りが生きておる……蜂蜜の力強さも見事……!」


どこぞのグルメリポータのように「宝石箱やー」とか言いながら、感動のあまり、ぺろぺろと皿の縁のシロップまで舐めようとする元・天災級ドラゴン。


カズトはひたすら焼き続ける。


焼いて、重ねて、かけて、出す。


だが。


「次!」

「我にももう一枚!」

「……おかわり」


三方向から皿が差し出される。


山のように焼いたはずのパンケーキは、文字通り飛ぶように消えていった。


最後の一枚がなくなった頃には、


洞窟の中は甘い香りと、満足げな空気に満たされていた。


アリーナはほっぺたを緩め、幸せそうにお茶を飲んでいる。

ユキはごろんと寝転がり、「また来るがよい」とか言っている。


ついさっきまで命がけだった場所で。


カズトは思った。


(ドラゴンの巣って……意外とスイーツ天国なんじゃないか?)


◇ ◇ ◇


「……というのが俺達とユキちゃんの出会いなんだが……どうした?」


語り終えたカズトが顔を上げる。


向かいに座るカンナたちは――全員、固まっていた。


口が半開き。

瞬きゼロ。

魂が一回どこかにログアウトして戻ってきてない顔。


「え、ちょ、反応くれないと怖いんだけど」


カズトが手をひらひら振ると、ようやくカンナがゆっくり瞬きをした。


「……ドラゴンと……お茶会……?」


「パンケーキ……?」


「S級素材を……おやつ感覚で……?」


情報の処理がまったく追いついていない。


カズトは軽く咳払いした。


「いや、だからさ。ユキちゃんとはそういう仲っていうか、甘味仲間っていうか」


「ジャンルが迷子すぎるのよ」


即座にツッコミが飛ぶ。


だがカズトは真面目な顔に戻った。


「でもさ、これ前提として大事なんだよ。あいつ、気まぐれで人に関わるタイプじゃない。俺たちに連絡してきたってことは――相当ヤバい」


その空気の変化に、カンナたちの表情も引き締まる。


さっきまで「は?」だった顔が、「嫌な予感しかしない」顔に変わる。


「それで、その話と、私が呼び出されたことに何の関係が?」


カズトは一瞬視線を逸らし、それから真っ直ぐ見返す。


「いや、取り敢えずユキちゃんと俺達の仲を知ってもらえば、次の話が信じてもらえるかと」


カズトは小さく息を吸った。


「……ユキちゃんから連絡があった」


空気が張り詰める。


「カンナギ国が――戦争状態に入った、って」


数秒の沈黙。


理解が、ゆっくり浸透する。


「…………は?」


誰かが間の抜けた声を出す。


その直後。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ちょっと待ってそれシャレになってない!!なんでドラゴン経由で国の戦争情報来るのよ!?」


「ツッコむとこそこじゃないだろ!!」


一瞬呆けていた反動で、爆発みたいな大声が周りに響き渡った。


鳥が一斉に飛び立つレベルの騒ぎである。


カズトは両手を上げた。


「だから! だから最初にユキちゃんの話したんだって! あいつが言うってことはガチなんだよ!ほら、最初にユキちゃんとあっただろ?それで、一応お前らも俺の関係者って事になってるんだよ。」


カンナは額を押さえ、ぎりっと奥歯を噛んだ。


「そんな……ホントに……!」


さっきまで甘味とドラゴンの話でぽかんとしていた場は、一瞬で現実の重さに引き戻された。

ご意見、ご感想等お待ちしております。

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