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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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カンナとの交渉

カズトは肩をすくめ、どこか投げやりにも聞こえる口調で言った。

「ま、とりあえず、アルメリアは放置でいいだろう」


 その言葉に、セシリアが一瞬だけ目を見開く。思っていた答えではなかったのか、少し意外そうな声音で問い返した。

「いいんですか?」


 カズトは彼女の反応を一瞥し、ため息混じりに言葉を続ける。

「仕方がないだろ。色々言ったけどさ、現実的に考えれば、今の俺たちに何ができる?」


 言い終えると同時に、彼はセシリアへ視線を向け、わざとらしく口の端を上げた。

「それとも、見習い。お前に何かできるのか?」


「見習い言うなしっ!」

 反射的に噛みついたセシリアだったが、すぐに勢いを失い、視線を逸らす。

「……まぁ、出来ないですね」


「だろ?」

 カズトは短くそう言い、話を畳むように続けた。

「イリシスに至っては、あの国じゃ罪人扱いだ。入国すら許可されていない。そんな状態で、何ができる?」


 反論しようとしたセシリアも、隣にいたもイリシスも、言葉を失って黙り込む。重たい沈黙がその場に落ちた。


 カズトはその沈黙を振り払うように、軽く手を振った。

「だから、取り敢えず放置だ。何かあれば、その時に声がかかるだろ?」


 割り切った結論だったが、それは同時に、今できる唯一の現実的な選択でもあった。


 結論が出た以上、その場にこれ以上の言葉はなかった。

 アルメリアの問題は、重たい箱に詰めて棚の上へ押し上げるように、ひとまず脇へ追いやられる。


「……さて」

 カズトは一度、手を打った。

「次だ。カンナギ国の件について話す必要がある。」


 空気がわずかに切り替わるのを感じながら、セシリアが顔を上げる。


「あぁ、お前らは下がっていい。イリシスと積もる話もあるだろ?」


カズトはそう言って、リナにイリシスとセシリアを部屋へ案内させる。

セシリアとイリスは立ち上がり、リナと共に部屋を出ていく。その足取りは軽くはなかったが、先ほどまでの迷いは幾分薄れているようにも見えた。


 しばらくして、控えめなノックの音が響く。


「どうぞ」


 扉が開き、そこに立っていたのはカンナだった。

 相変わらず感情を読み取りづらい表情だが、場の空気を察したのか、自然と背筋を伸ばしている。


「呼ばれたと聞きましたが……」


「ああ、遅くなって悪いな」


 カズトは椅子に座り直し、正面から彼女を見据えた。


「カンナギ国について、少し話をしたい」


 その言葉に、カンナの目がわずかに揺れる。

 アルメリアとは別の、しかし決して軽くはない問題が、ここから始まろうとしていた。



ダンジョン最深部。

淡く脈打つ魔力の光が、石壁に長い影を落としていた。

円卓代わりに置かれた古い石台を挟み、四人は向かい合っている。

魔王カズトと、その隣に静かに佇むルミナス。

対するは、姫巫女カンナと、鎧姿の護衛ガルド。

重苦しい沈黙を破ったのは、カンナだった。


「……改めて、説明させてください」

カンナは背筋を正し、巫女装束の袖を握りしめる。


「カンナギ国は、もう限界に近い状態です。流通は滞り、物価は上がり続け……民は日々の食にも困っています」


ガルドが小さく頷く。

彼の鎧は手入れされているが、細かな傷が多い。余裕のなさを物語っていた。


「我が国の主産業は稲作ですが……近年、麦よりも安く買いたたかれています。

去年は周辺諸国が不作で、本来なら需要があるはずでしたのに……」


カンナは一度、言葉を切った。


「共和連邦に属している、という“建前”のせいで、自由な交易も援助要請もできません。……けれど、相互援助は機能していない」


その声は震えていたが、逃げなかった。


「脱退も考えました。

ですが、脱退後に待つのが破滅なのか再生なのか……誰にも分からない。

だから私は、パンニャ領へ援助を請いに向かいました」


そこで、カンナは視線を上げ、カズトを見る。


「……それを、あなたは止めました。“行かなくても解決できる”と」


カズトは腕を組み、少しだけ笑った。

「まぁな。っていうか、何でパンニャ領なんだ?あそこは内乱の中心になった場所だぞ?」


「えぇ、存じ上げています。しかし、驚異的な復興を遂げたと聞き及んでいます。その理由の一端でも……。」


「勘違いだな。」

カズトはカンナの言葉を遮る。


「復興して、急成長をしているのはシャガートの街だけだ。他は、まだ戦の爪後が激しい。」


「でもシャガートの街が急成長しているのは間違いないのですよね?それに代官は領主様の御息女と伺っておりますが?」


「それは間違いないですよ。でも、前提が違ってるのですよ。」

ルミナスが笑いながら言う。

「前提?」

「えぇ。シャガートの街は、今は魔王様の支配下。復興はカズトのおかげ。だから、あなた方が見習うべきは魔王様。」


ルミナスの言葉を聞いて、ガルドが低く唸る。

「信じられぬ。まさか……。しかし、それが現実だとしても、どうやってカンナギ国を救うことができる?シャガートの街と違い、我が国は金と物資が足りん。国民は腹を空かせ、待ってくれない」


ガルドの心からの叫びに、カンナが目を伏せる。


「分かってる」

カズトは即座に返した。

「だからこそ、ダンジョンに連れてきた」


その言葉を受け、ルミナスが一歩前に出る。

その瞳は穏やかだが、底知れない光を宿していた。


「カンナギ国の問題は、外から与えられないと解決しないと思い込んでいること。でも、それは“資源がない国”の発想よ」


カンナが息を呑む。

「……私たちの国に、資源は……」

「あるわ」

ルミナスは指折り数える。


「少し調べたけど、地下資源、魔力鉱脈、未開拓の魔素材。それに、あなたの国は食料生産能力そのものは高い。なんで今飢えているのか分からないくらいにね。」


黙り込んでしまったカンナたちを見て、カズトが続ける。


「問題は三つだ」

指を一本ずつ立てる。


「一つ。流通が死んでる。

二つ。価格決定権を完全に他国に握られてる。

三つ。“連邦に従う”って意識が、思考まで縛ってる」


ガルドが眉をひそめる。


「……それを、どうにかできると?」


「できる」

即答だった。


「まず食料についてだな。お前らは、稲作をしているくせに、米のことをなんにも知らない。「貧者の麦」?馬鹿言うなよ。米の価値を何もわかってねぇ。そもそも、米は麦と違うんだ。麦と同じように加工しようとする事が間違っているっ!」



カンナの目が、少しずつ見開かれていく。

「加工……」

「そう。米は麦の代用じゃない。米は米の魅力がある。“麦より安い米”じゃなくて、“米でしか作れない商品”にする」

ルミナスが微笑む。

「それができれば、援助を“請う側”じゃなくなる。連邦も、あなた方を切り捨てにくくなるわ」


最初に、カンナ達から話を聞いて、カズトは不思議に思ったのだ。

稲作をしていて、麦は不作でも、米は普通だった。なのに、なぜ食糧難?と。


短い時間しかなかったが、調べさせるとすぐにわかった。

稲を、麦の代わりにしか見ていない事に。

さらに言えば、ダンジョンの周りで米を見なかったように、この辺りでは稲作は一般的ではない。


と言うのも、水田は麦畑に比べて水の使用量が桁違いに多いからだ。


必然、稲作は一般的ではなくなり、稲……米についての知識は限られた地域でしか残されていない。

カンナギ国は、その「限られた地域」の一つだったのだが、共和連邦に属し、麦主体の文化に毒されてしまったため、米本来の文化を失ってしまったらしい。


だから、せっかくの米も、麦と同じく粉にしてパンに加工していたという。

パン一つ作るだけの米を粉にする……それを無駄とはいわないが、米粉で作ったパンは長持ちしない。さらに言えば、水分を含みやすいので、モチっとかベタっとかという感触になる。

麦パンになれた人にとっては、違和感を覚えるだろう。それが米粉パンが受け入れられない原因の1要因でもある。


米粉にせず、炊き上げるだけで、解決するのに、その知識ですらも失っているのだろうか?


沈黙が続く…。

やがて、カンナは小さく息を吸った。


「……もし、それが本当に可能なら」

彼女は深く頭を下げた。

「どうか、私達にご教授ください。国を救うために、どうか……」

ガルドも、静かに膝をつく。

「姫巫女に同じです。……魔王殿、知恵を貸していただきたい」


カズトは苦笑して、肩をすくめた。


「最初からそのつもりだよ。ここまで来たんだ――もう後戻りは出来ないぜ。」


石台の上に、カズトは指先で簡単な図を描いた。

土の線が、魔力に反応して淡く光る。


「まず――稲作だ」


その一言に、カンナが顔を上げる。


「稲は連作障害に強いから、毎年安定した生産高が見込める。水を食うのは確かだが、カンナギ国は水資源が豊富だろ」


「……はい。山脈からの雪解け水と、地下水脈が……後、他の地域に比べ、河川が多いと思います」


「なら話は早い」


カズトは即座に言い切った。


「田を増やせ。森を無理に潰す必要もない。低地と谷を徹底的に水田化する。水が問題になる国は多いが、お前たちはむしろ適性国家だ。もちろん、「米の食べ方」も教えてやる。お前らが、今までどれほど損していたかを心に刻むがいい!」


一瞬、カンナは言葉を失った。

河川が多い、といえば聞こえがいいが、その分畑にする土地が少ない、氾濫による水害が多いなど、《《それ》》はずっと“弱点”だと思っていた点だったからだ。


「それに――」


カズトは、少しだけ視線を逸らし、咳払いをする。


「……俺が米を欲してる」


ルミナスが小さく笑った。


「くすくす。魔王様の個人的動機なんですねぇ。」


「重要だろ」


ぶっきらぼうに返しつつ、カズトは続ける。


「次に、流通」


描かれた線が、山脈を避けるように伸びる。


「カンナギ国と、シャガートの街を転移陣で直結する。」


ガルドが息を呑む。


「転移陣を、国家規模で……?」


「あぁ。そうすれば、シャガートのの街と直接貿易ができるだろ?お前らは、今まで高くて手が出なかったものが格安で手に入れれる。シャガートの街では、珍しい東方の品がそろう。いいことづくめだ。勿論、維持はダンジョン側が持つ。多少の使用料は頂くが、基本使う側は、管理と守秘を徹底するだけだ」


カズトの声は淡々としているが、内容は常識外れだった。


「これだけで、流通速度は桁違いに上がる。物価は安定し、商人は戻り、税も回る」


カンナの指先が、わずかに震えた。


「……それだけで、国は……」


「窮状は抜ける」


はっきりと、断言。


「さらにだ。シャガート経由にはなるが、ダンジョン産の希少素材も取引に乗せられる」


ルミナスが補足する。


「魔道具の素材としても有用。他国は欲しくても手に入らない。他国との“交渉材料”として、これ以上のものはないわよ?」


空気が、変わった。

それは夢物語ではなく、現実的な救済案だった。


――だからこそ。


カズトは、指を三本立てた。


「ただし、条件がある」


カンナの胸が、ぎゅっと締めつけられる。


「一つ。秘密の厳守。転移陣、ダンジョン資源、条約内容。シャガートの街が魔王直轄領だということ……一つでも漏れた瞬間、すべては終わりだ」


一拍。


「二つ。共和連邦からの脱退。これは、カンナギ国が独自に発展する為には必要不可欠だろう。俺としても、共和連邦とか言うハイエナに群がられても鬱陶しいだけだからな。共和連邦と手を切って、俺の魔王国と、秘密裏でいいから正式な条約を結ぶ。これが2つ目の条件だ。」


ガルドの表情が強張る。

それは、必要であると同時に、後戻りできない選択だったからだ。今ここで即断できるものではなかった。


「そして三つ目」


カズトは、まっすぐにカンナを見た。


「――カンナ。お前自身の身柄だ」


その瞬間、時間が止まったように感じられた。


「……私、の……?」


声が、かすれる。


「俺の嫁になれ」


カズトは言う。


「何、政略結婚みたいなものだ。国同士の結び付きにはよくあることだろ?」


カズトの言葉に付け加えるように、ルミナスは、静かな声で言った。


「あなたがここに居れば、カンナギ国と魔王国は“切れない関係”になる……というのは建前で、カズトは単にあなたを気に入っただけなんだろうけどね。」

呆れたような声音でそういうルミナス。


カンナは、膝の上で手を握りしめた。


――国を救える。

――民は飢えずに済む。

――未来は、繋がる。


その代わりに。


(……私は、国に戻れないかもしれない)


姫巫女として、ではなく。一人の少女としての時間を、ここに差し出す。


「……私が、いなくなっても」


絞り出すように言葉を紡ぐ。


「国は、回りますか……?」


カズトは、少しだけ目を伏せた。


「回る。……そもそも、お前がいなければ、回らない国などおかしい。そんな国は、何をしたところで長生きはできない」


カズトはそう答えながら思う。

イリシスといい、カンナといい、どうして聖女や巫女と言うのは、自分一人で抱え込みたがるのだろう?

女神の思惑か?


「お前が選ぶといい。姫として国に戻り、滅びの道を、最後まで進むのか、国を救う術を得るため、ここに来るか」


長い沈黙。


ダンジョンの奥で、水音が静かに響く。


カンナは、唇を噛みしめ――

まだ、答えを出せずにいた。


聖女様、放置プレイです



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