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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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姫巫女 その6

カンナは、ひとつ小さく息を整えた。

ルミナスという少女が、あの人は運命の人ではないという。

彼は「悪い魔王じゃない」という。


運命の人じゃない……百歩譲って、それは良しとしよう。

だけど、悪い魔王じゃない?

そんな馬鹿なことはない。

魔王というのは、女神様の敵、害悪以外何ものでもないゴミなのだ。


でも……。

胸の奥でざわついていた感情を、意識的に沈める。

先入観、恐怖、畏怖――“魔王”という言葉に付随する、あらゆるフィルターを一枚ずつ剥がしていく。


そして、改めて目の前の存在を見る。


(……これが、魔王カズト?)


視界に映るのは、拍子抜けするほど平凡な少年だった。

特別に鋭い眼光があるわけでもない。威圧するような体格でもない。

街を歩いていれば、十人の中に自然と紛れてしまいそうな、ごく普通の外見。


だが――。


(魔力は……本物)


感覚を研ぎ澄ませば、内側に渦巻く膨大な魔力がはっきりと伝わってくる。

深く、重く、底が見えない。

理屈では理解できる。「魔王」と呼ばれるに足る力だ。


それなのに。


(……なんで、こんなに締まらないんだろう)


放たれる雰囲気が、決定的に噛み合っていない。

強者特有の余裕とも、王の威厳とも違う。

むしろ、どこか自信なさげで、油断するとすぐに謝りそうな――

今も、ルミナスという少女に叱られている。

そう、一言でいうなら……ヘタレ。


実際に言葉を交わしてみても、印象は変わらなかった。

横暴さはなく、声を荒げることもない。

さらに言えば、初対面なのに、ぶしつけな視線が胸元に行っているし……。


(……悪い人では、ない)


少なくとも、虐殺や支配を当然のように語るタイプではない。

その事実が、逆にカンナを困惑させた。


そして、決定打。

今も、ルミナスという少女……推定9歳、に、あれこれ言われて顔が緩んでいる。

完全に心を許し切っているというのは一目でわかる。

さらには、傍に寄り添っている獣人の女の子……推定11歳、聖女の女の子は、しっかりしているようだけど、推定14才。


(……幼女趣味ロリコン、ですか)


そう思った瞬間、頭の中で何かが音を立てて崩れていく。

禍々しい玉座。血に染まった玉階。

冷酷無比な支配者。

カンナの中で積み上げられてきた「魔王像」が、無残に瓦解していく。


残ったのは――

強大な力を持ちながら、どこか情けなくて、妙に人間臭い少年の姿。しかもロリコン……。


(……魔王って、こんなものなの?)


期待していた恐怖はない。

憎むべき象徴も、討つべき悪も、そこには見当たらない。

幼女趣味以外に、責めるべき点はない……


カンナは静かに悟る。

自分の中の「魔王」という概念が、完全に通用しなくなってしまったことを。


そして同時に、わずかな警戒と、拭いきれない困惑を胸に抱きながら――

目の前の魔王カズトを、改めて“ひとりの存在”として認識し始めていた。



カンナは一度、ぎゅっと唇を結んだ。

ほんの数瞬、迷うように視線を彷徨わせてから――意を決したように、カズトの正面に立つ。


「……ごめんなさい」


その声は静かで、けれど迷いがなかった。

カンナは深く、丁寧に頭を下げる。


「冷静になってみれば、やっぱ無理です」


その一言は、拒絶でありながら、最大限の配慮が込められた言葉だった……カンナにしてみれば。

しかし、カズトにしてみれば、過去幾度となく、心を刻まれトラウマになった鋭利な言葉の刃物でしかない。

だが、それだけに耐性もある。

崩れ落ちそうになるのを必死で堪えるカズト。


顔を上げたカンナは、カズトの様子を見て、少しだけ困ったように眉を寄せる。


「それに……私、今年で十七になりますから……趣味じゃないですよね?」


確認するようでいて、どこか断定的な口調。

その言葉が意味するところを理解した瞬間、カズトの思考は一瞬で停止した。


(え、待って、違う、違うから!?)


喉まで込み上げた叫びは、しかし声にならない。

訂正すべき点が多すぎて、どこから否定すればいいのか分からない。

「魔王」だとか「恐れられる存在」だとか、そういう以前の問題だった。


カンナの中では、すでに結論が出ている。

カズトは、そういう趣味の人だから自分は“対象外”。


断られた事実よりも、敵視されたわけでも、恐れられたわけでもなく。

一番されたくない誤解が、カズトの心を深く抉り、カズトは堪えきれずに膝をつく。

その姿は、世界を震撼させる魔王というより――ただただ、誤解に打ちのめされた一人の少年だった。


(……今までの中で、最大のクリティカルを喰らった気分だ…)


魔王カズトに「ロリコン魔王」の称号がついた瞬間だった。



ルミナスとカンナが対峙している。ここからが正念場だとカンナは思う。


カズトは、少し離れた場所で倒れ、今は聖女に膝枕されている。

それを横目に見ながら、カンナは一歩前に踏み出す。


――――――相手の見た目に騙されてはいけない。。


目の前に立つルミナスは、余裕のある表情でこちらを見下ろしている。

彼女の眼は、面白そうな事が起こりそうな期待で輝いているように見える。

それでいて、すべてを見透かされるような鋭さが垣間見えるのだ。


「――こちらの申し出は一つです」


カンナは背筋を伸ばし、はっきりと言葉を選ぶ。


「パンニャ領までの護衛を、お願いしたい」


一瞬、ルミナスの眉がわずかに動いた。


「紫焔山脈は難所です。地形も、魔物も、天候も……何とか超えたとしても、その先に、魔の森があります。高難度の魔物が群れを成す、最悪の地域」


淡々と事実を並べながら、カンナは内心で状況を噛みしめる。

普通の部隊なら、まず辿り着けない。

熟練の冒険者でも、生還率は五分を切る。


(……正直、私達の部隊では無理。甘く見ていたわけじゃないけど、想像以上に厳しい。)


だけど……。


視線を、膝枕されているカズトへと、一瞬だけ向ける。

まるで緊張感のない、その様子に少しだけ心が揺らぐ。


(“魔王”がいれば……)


今の様子を見ていると信じられないけど、その力は確かだ。

本人の威厳がどうであれ、戦力としては十分期待できる。

何といっても、あのホワイトドラゴンを懐かせているのだから。


「我々だけでは厳しい道程ですが、魔王カズト様が同行すれば、突破できる可能性があります」

カンナはそう締めくくり、ルミナスを真っ直ぐに見た。

しばしの沈黙。


ルミナスは、くすりと笑う。

「くすくす、護衛ねぇ。悪くないわ。」

だが次の瞬間、声の温度が下がる。

「――で?」

紫の瞳が、細く光った。

「その対価に、何を差し出すつもり?」


交渉の核心であり、基本。人は無償では動かない。むしろ、ここで対価を求められない方が怖い。

……しかし、見合うだけの対価がない。

カンナの胸が、わずかに強く鳴る。


黙り込んでしまったカンナを見て、ルミナスは、意味ありげに首を傾けた。

紫の瞳が、愉しむように細められる。


「どうするの?」


イリシスの太ももを触って、叩かれているカズトを、ちらりと見やってから、カンナへ視線を戻す。


「おにいちゃんならさ……“あなた”を対価にすれば――期待以上の働きと、結果を出してくれるよ?」


あまりにも軽い口調。

それが、余計に重く響いた。


カンナの思考が、一瞬だけ止まる。


自分の価値。

交渉材料としての“身体”。

最初に求められたことで、ソレは価値があると確信できた。


だからこそ、胸の奥がわずかに疼く。

躊躇が、ほんの一瞬だけ生まれた。


(でも――)


次の瞬間、カンナの目から迷いが消える。


「それは、できないわ」


きっぱりとした声。否定は短く、揺らがない。


ルミナスが、少しだけ意外そうに眉を上げた。

「ふぅん、何故?一応言っておくけど、おにぃちゃんが、あなたを欲しているのは、間違いないよ?」


カンナは言葉を続ける。


「それほど評価していただくのはありがたいのですが……私の身は、この先、パンニャ領で使う切り札です……領主との交渉で、必ず必要になると思っています。だから……」


(ここで使えば、先が詰む)


事実、差し出せるものは、もうほとんど残っていない。

金も権限も、兵もない。

残っているのは、この身と、覚悟だけ。


(だからこそ――)


「ここで、その対価を切るわけにはいきません」


自分に言い聞かせるように、はっきりと言い切る。


一瞬、場が静まり返った。

ルミナスはカンナをじっと見つめる。


……心の奥底まで、見透かされるようで……怖い……


「……ふぅん」


やがて、くすりと笑う。


「なるほどね。自分を安売りしない、と」


その声音には、先ほどまでの軽薄さはなかった。

代わりに、値踏みするような――しかし、どこか評価する色。


「じゃあ聞くけど」

ルミナスは一歩近づく。

「別の対価は、あるの?」


カンナは押し黙る。

今ここで切り札は切れない。

しかし、対価がなければ、ここから先へは進めない。

先に進むため、ここで自分という札を切ってしまえば……パンニャ領では、何を対価に協力を求めるというのか?


カンナは、現時点で、完全に詰んでいた。


ご意見、ご感想等お待ちしております。

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