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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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姫巫女 その2

隘路を背に、カンナとその一行は、ついにホワイトドラゴンと相対した。


白銀の巨躯は微動だにせず、ただそこに在る。翼は畳まれ、爪は岩を掴み、尾は山肌に沿って静かに横たえられている。にもかかわらず、その存在だけで、大気は張り詰め、呼吸することすら重荷となった。


――見られている。いや、観られている。


敵意でも、殺意でもない。

それはまるで、魂の奥底まで覗き込まれるような視線だった。


カンナ・スメラギは歯を食いしばり、膝が震えるのを必死に抑える。姫巫女として幾多の神威に触れてきた彼女でさえ、この圧は異質だった。神とも魔物とも異なる、山そのものの裁定。


ドラゴンは、何も語らない。

だが、その沈黙こそが問いだった。


――汝らは、何者か。

――この地に、踏み入る資格はあるのか。


「……く、くるな……」


背後で、誰かの声が掠れた。


一人の兵士だった。若く、まだ戦の経験も浅い。彼は槍を握る手を制御できず、白く泡立つ唾を垂らしながら、後ずさる。


「見られてる……喰われる……!」


威圧が、恐怖となり、恐怖が狂気へと変わる。


「やめろ!」


ガルドの制止は、間に合わなかった。


「うわああああああっ!!」


兵士は叫び声とともに陣形を崩し、半ば転ぶように前へ飛び出した。理性は既に失われ、ただ“何かをしなければ壊れてしまう”衝動だけが、彼を突き動かしていた。


槍先が、震えながらも白き竜へと向けられる。


その瞬間。


ホワイトドラゴンの瞳が、わずかに細められた。


次の刹那、空気が鳴いた。


――ドン、と。


咆哮ですらない。ただ、喉を鳴らしただけ。

それだけで、衝撃波が発生し、突進していた兵士の身体が宙に浮いた。


骨の砕ける音。

血が、霧となって散る。


兵士は岩壁に叩きつけられ、力なく崩れ落ちた。生死は――誰にも分からない。


ドラゴンは、一歩も動いていない。


「……ッ!」


誰もが凍りつく中、カンナは思わず一歩踏み出した。


「やめなさい!」


その声は、震えながらも、確かに届いた。


ホワイトドラゴンの視線が、初めてカンナ一人に定まる。


威圧が、さらに重くなる。だがそれは無差別ではなく、彼女という存在を測るような、鋭い重圧だった。


――汝は何者。


言葉なき問いが、彼女の内側に直接響く。


仲間の恐怖と、ドラゴンへの畏怖と、姫巫女としての使命。

すべてを背負い、カンナ・スメラギは、白き竜の前に立っていた。


沈黙の中、世界は次の一瞬を、固唾を呑んで待っている。


ガルドは、ゆっくりと、しかし確かな動きで剣を抜いた。


鞘走りの乾いた音が、凍りついた空気を切り裂く。

それは挑発ではない。覚悟の音だった。


(何がどうあれ――)


老剣士の背に、決して揺るがぬ意志が宿る。


――姫巫女カンナ様だけは、守り通す。


それは個人の忠義であり、同時に、この世界がまだ壊れてはならないという祈りでもあった。


その覚悟は、言葉よりも雄弁だった。


兵士たちは、それを“感じ取って”しまった。


「うおおおっ!」

「姫様を守れぇぇ!」


恐怖を押し潰すように、彼らは叫び、ドラゴンへと向かって駆け出す。理性よりも先に、仲間の意志と剣気が彼らの背を押した。


無謀だと分かっていても、止まれなかった。


ホワイトドラゴンの瞳が、わずかに冷たく光る。

次の瞬間、また一息で全てが終わる――誰もがそう思った、その刹那。


「ちょっと待ったぁぁぁ!!」


場違いなほど、軽く、よく通る声。


――ドンッ!!


衝撃が走った。


兵士たちの身体が、まるで見えない壁に叩き返されたかのように、まとめて宙を舞う。血も骨も砕かれない。ただ、確実に“吹き飛ばされた”。


大地に転がり、呻き声が重なる。


「……な、に……?」


ガルドの目が見開かれる。

ホワイトドラゴンもまた、わずかに首を傾けた。


そこに――いた。


白き竜と、姫巫女カンナ。

その二者の“間”に、いつの間にか立っている男。


黒髪に、旅慣れた装い。軽装だが隙はなく、背筋は自然体。剣も槍も構えていないのに、そこに立つだけで“場”が変わっていた。


「いやぁ、危ない危ない。さすがにそれは、話が拗れすぎるっていうか」


男――カズトは、頭の後ろを掻きながら、まるで喧嘩の仲裁にでも入ったかのような調子で言った。


彼を中心に、空気の密度が変わっている。

ドラゴンの威圧を、彼は一人で受け止めていて、周りの空気が軽くなっている事にガルドは気づく。。


「……貴様、何者だ」


ガルドが低く問いかける。剣は下げない。だが、その切っ先が、わずかに揺れた。


カズトは肩越しに振り返り、にっと笑う。


「通りすがり、って言いたいところだけど……まぁ、ちょっと縁がありそうでさ」


そして、今度はゆっくりと、ホワイトドラゴンを見上げた。


竜は、咆哮しない。

威圧も、次の攻撃も、来ない。


ただ、じっと――男を見ている。


先ほどまでとは違う、明確な“興味”をもって。


カンナは、その背中を見つめていた。


突然現れ、兵士たちを吹き飛ばし、なおドラゴンの前に立つ無謀な男。

けれど、その姿は、不思議と恐ろしくなかった。


それどころか。


(……この人は)


胸の奥で、何かが静かに鳴った。


これが、今後長く続く因縁の相手・・・・・・姫巫女カンナ・スメラギと、魔王カズトの初邂逅だったのだ。



「取りあえず、その覇気を納めてくれよ、ユキちゃん」


肩の力を抜いたカズトの声に、ホワイトドラゴンはゆっくりと瞼を伏せ、大きく頷いた。

次の瞬間、周囲を押し潰すように満ちていた威圧感が、潮が引くように消えていく。張り詰めていた空気は緩み、ようやく呼吸ができるようになったかのようだった。


――ドラゴンが、人の言葉に従った。


その事実だけで、常識は音を立てて崩れていく。


カズトとホワイトドラゴンは、どうやら旧知の仲らしい。

ユキと呼ばれたドラゴンは、巨大な頭を少しだけ下げ、親しみを示すように鼻先をカズトへ近づける。

その仕草は、伝説に語られる災厄の竜というより、久方ぶりに再会した友に甘える生き物のようだった。

その様子を目の当たりにし、カンナたちは言葉を失っている。


状況は分からない。

ただ、少なくとも、今すぐの危険はなくなったようだ、と、肩の力を抜くのだった。

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