サキュバスさんはお人形さんが嫌い?
「はぁ……疲れた。」
俺はベッドに倒れこむ。
3時間にわたるマイの講座の間に、ミィが用意してくれた部屋だ。
元々は、先ほどまでいた、コアのあるメインルームしかなかったこのダンジョンだが、俺がマスターとして登録されたことで、再起動し、現在、着々とそのエリアを広げているという。
この部屋も、そうして広がった先にできた場所の一つなのだ。
「あなたが悪いわよ。」
エルが隣に腰掛けながらそう言う。
先程受けた講座の内容をざっくりとまとめると、ゴーレムとホムンクルスはともに、魔法によって生み出された仮性生命体であることは間違いなく、両者の特徴を上げると、ゴーレムは基本、命令に忠実……というか、命令されたことしかできない。複雑なことは理解できないので、単純な命令しかできないが、力があるので、単純な力仕事には最適であり、決して逆らうことはない。
基本、元になる材料と術者の魔力さえあれば、どこでも生み出せるため、非常にコスパがいい。性能は、元の素材と術者の技量によって左右される。
それに対し、ホムンクルスは、自分で考え行動することが出来るので、複雑で細やかな指示にも対応できる。その思考回路は合理的で、故に非合理的、不条理な命令に対しては逆らうこともある。
錬金術によって生み出されるため、製造には時間がかかり、もとになる素材も希少なものが多いため、非常にコスパが悪いが、それだけの価値がある……場合もある。
「いや、だってさぁ……。まさか、「怒る」とは思わなかったから。」
「そうね、あれには私もびっくりだわ。自我があるところまではいいとして”感情”まであるとなると……ね。」
「そうなのか?」
「えぇ、こういってはなんだけど、私たちにとって、ゴーレムもホムンクルスも、等しく”道具”であって、いわば”お人形さん”なのよ。……こんなことを言えばあの子たちは怒るでしょうけど、魔術師、錬金術師が”道具”に”仮初の命”を与えたもの……それがゴーレムであり、ホムンクルスなのよ。”道具”が自分で考えて働いてくれるなら楽でしょ?そのためには”自我”が必要になるの。魔術で簡単に生み出すゴーレムには、その自我すら持たせることは容易じゃないけど、錬金術を駆使すれば、ホムンクルスに自我を持たせるのは不可能じゃない……けど、成功例は極稀よ。ほとんど偶然の産物でしかないわ。それでも古代文明期には自我を持ったホムンクルスが多数存在したと記録にはある。でも”感情”を持つホムンクルスについての記録は一切なかったわ。でも、それも当たり前よね。」
「そうなのか?」
「そうよ。よく考えてみて。便利な道具が、自我をもって、考えて働いてくれるのはいいけど、そこに”感情”なんてものが発言したらどうなると思うの?いやな仕事はやらないそれでもやらせようとすれば怒って反乱を起こす……そんな道具、使えないでしょ?」
「まぁ……そうだな。」
エルが言いたいことも分からなくもないが、サブカルチャー王国の日本、実在の武将どころか、城や戦艦などの無機物まで擬人化、女体化してしまう日本人の俺にとって、ホムンクルスが……しかもかわいい少女型……が、自我や感情を持ったところで、何か問題でも?と思ってしまう。
「自我や感情を持ったモノ……もはやそれは道具や人形じゃない、新しい生命体よ。」
「まぁ……そうだな。」
「ちょっとっ!カズトは事の大きさがわかってないようねっ!」
俺の反応が薄かったのか、エルが憤って掴みかかってくる。
「いや、そんなこと言われてもなぁ……。マイたちは、ホムンクルスだけど自我も感情もある、ただそれだけのことだろ?」
「それだけ、ってっ!道具が感情を持つのよっ!感情を持っている相手を道具として扱うのよっ!あなたは怖くないのっ!」
エルが感情に任せて叫ぶ。
「いや、普通に接すればいいだろ?」
「へっ?」
俺の言葉に、エルが呆けた声を出す。
「ごめん、俺にはエルが何に対して憤っているのか、戸惑っているのか、わからないんだ。マイやメイ、ミィがホムンクルスだからって、それがどうしたんだよ?自我も感情もあるなら、普通に接すればいいじゃないか?さっきみたいに、どこに怒るポイントがあるかわからないけど、怒らせたなら謝ればいい。俺がエルを怒らせたら、謝ってご機嫌を取るのと、何ら変わりないだろ?」
「えっ、あ……そ、そうなのかな?」
「そうだよ。自分でも言ってたじゃないか「新しい生命体」だって。だったらマイたちを「魔導生物族」って感じで新たな種族としてみればいいんじゃないか?」
「そういわれるとそうなんだけどぉ……錬金術師としての私の経験がね、ホムンクルスは道具って意識が高いし、サキュバスとしての本能がね、生体エネルギーを発しない彼女たちを生物だと認めないの……くすん。」
半泣きのエルをやさしく抱きしめ、頭を撫でてやる。うん、普段の気が強い彼女とのギャップがねぇ……あざとすぎないかぁ?
まぁ、これが素でも計算でも、結果は一緒なんだけどなぁ。
そうしてエルが落ち着くまで抱きしめていると、ドアがノックされ、ミィが部屋の中に入ってくる。
「えっと、どうしたの?」
何しに来たのかわからず、そう問いかけると、ミィは「夜伽に来ました」といってベッドに座る。
「マスターは、着エロがお好きと伺いましたが……脱いだ方がいいですか?」
しばらく何もせずにいると、ミィがそんなことを言ってくる。
その言葉で、我に返る俺とエル。
着エロが好きって、どこで調べたんだよっ!
「これは私のよっ!あなたの出番はないわっ!」
俺が何かを言うよりも早く、エルがそう言ってミィを追い返す。
ミィは「かしこまりました、奥様」といって、一礼して部屋を出ていった。
「えっと……」
結局何だったんだ?とエルを見る。
「あの娘が言ってたでしょ?そのままよ。アナタに抱かれに来たのよ。」
「抱かれ……って、えぇっ!」
「驚くことじゃないでしょ?あの娘たちにとってあなたはマスターなのよ。しかも、さっきの娘は生活面全般を統括するって言ってたじゃない。夜伽もそ一環なのよ。」
「そ、そうなのか……」
思わず顔が緩む。
「でもダメよ。アナタはあの娘たちを相手にすることも一人ですることも許されないの。アナタは私のごはん。無駄に捨てることなんて許さないわ。」
そう言って、元気になった俺の一部を優しく包み込む様に触れだすエル。
「あ、いや、でも、俺の野望……っ!」
「ほかの娘とはいいのよ。むしろ積極的に応援するわ。でも、一人とお人形さんはダメ。」
そう言いながらエルはじっくりと俺を責め始める……経験不足な俺には抗うすべもなく、部屋の中に、アーッという俺の声が響くのだった。
ちなみに、俺がアーッ、されながら教えてもらったところによると、エルが俺から直接ドレインするのはメインディッシュのようなものだが、俺が他の娘と交わる時に発するエナジーは嗜好品のようなものらしい。人は米だけを喰って生きるにあらず、お菓子などのデザートがあるから、人生が彩り豊かになる、ということ。そして、自慰行為や無機物相手に果てるというのは、エルにしてみれば、目の前でご飯をごみ箱に捨てられるのと同義とのことで、今後一切許してくれないそうだ。
そんなことはしない、と誓うまで、俺は散々エルに攻め続けられるのだった。
エルにとってのカズトは、歩くお弁当なのです。
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