新たな力
「まぁ、気を落とすな。」
カズトは、しょんぼりと肩を落としているイリシスに慰めの言葉をかける。
「お前は出来ることをやった。後は本人たち次第なんだ。」
「うん……。」
だけど、イリシスの顔は晴れない。
先程迄、イリシスは、街の中を回っていた。
顔馴染の商店街の人々、教会、孤児院、そして王宮にまで。
身体をはり、恥ずかしい思いをしてまで、カズトから得た魔道具。
これを使えば、一瞬にして、カズトが用意した安全な場所(ダンジョン内)へと転移できるという、国宝クラスと言っていいほどの魔道具を手に入れることが出来た。
これならば、国の滅亡という迫りくる悪夢から皆を助けることができる。
あの恥ずかしい行いの対価としては、十分だと安心もした。
カズトからしてみれば、材料にはそこそこ希少なものが混じっているものの、使い捨てという事もあって、それ程手間をかけずに作ったモノなので、イリシスの悦び様に、若干、後ろめたさを感じていたのだが。
しかし、イリシスが、その魔道具を持ち、人々に声をかけるのだが、大半の人々は無視して、関わり合いたくない、という様に足早に去っていく。
立ち止まるものもいたが、それらは「騙された」と文句を言うものか、イリシスを手籠めにしようと、下衆い考えを持つもののどちらかでしかなかった。
孤児院では、世話役のシスターが、申し訳なさそうに固辞し、遠回しに、もう来てくれるなと言われた。
それは教会でも同じことで、イリシスに同情するものの、権力には逆らえないという態で、門前払いをされる。
王宮に至っては、門番に槍を突き付けられ、有無を言わさず追い返され、話しどころではなかったのだ。
イリシスも、まさかここ迄とは思ってもみなかったのだろうが、王太子―――権力者が本気になって動けば、こんなモノだ。
幸いにも、隠れて様子を見ていた聖女見習いの娘と、話をすることが出来たので、魔道具をいくつか託せたことだけが救いだった。
「セドリックにも、書簡と魔道具を送っておいたから、まぁ、大丈夫だろ?」
「セドリック・・・・・・殿下に・・・・・・。」
皇子の名を聞いた途端、嫌そうな顔になるイリシス。
流石の聖女様も、あの王太子の所業には思う所があるのだろう。
というか、公衆の面前で奴隷にされるという屈辱を受けて尚、平然と相手を許せるというのであれば、それは最早人間ではないと思う。もしくは心が壊れているか・・・・・・。
イリシスが、人らしい感情を見せたことで、どこかホッとするカズトだった。
「セドリックは、お前を俺にくれたいい奴だからな。」
カズトはニヤッと笑い、イリシスの肩を抱き寄せる。
イリシスは、ますます嫌そうな顔になりながらも、黙ってカズトのすることを受け入れるのだった。
◇
「ねぇ……おにいちゃん。お外でするのは、ちょっと……」
ルミナスは視線を泳がせ、指先でもじもじと裾をいじりながらそう言った。声もいつもより小さく、周囲を気にしている様子だ。
「そんなこと言われてもさ。イリシスの前でやるわけにはいかないだろ?」
カズトは困ったように頭をかきつつ、人気のない林の奥へと目をやる。
「で、でも……音とか、光とか……見られたら……」
「大丈夫だって。加減はするし、短時間で終わらせる」
「そ、そういう問題じゃ……っ」
「それとも、ルミナスはいやか?」
「そ、そんな事は・・・・・・・ない・・・から・・・・・・」
顔を赤くして俯くルミナスを見て、通りがかりの者がいたら、きっと別の想像をしただろう。
ひそひそ声、意味深な言い回し、人目を避ける二人――どう見ても怪しい。
「じゃあいくぞ。」
カズトはルミナスの背後に回り込むと、その腰に手を回す。
「うん……は、初めてだから・・・・・・ゆっくり・・・・・・ぁんっ、いきなりっ、そんなぁっつ!!」
カズトがルミナスに回した手のあたりから光があふれ出し、二人を包み込む。
空中に淡い魔法陣が浮かび上がり、ルミナスを包み込むように静かに広がった。
「……わ、ほんとにできた。・・・・・・うん、わかるよ。」
「どうだ? かなり抑えたつもりだけど、まだ派手だな。やっぱ外に来てよかったな。中でやってたら、リズもイリシスも起こしちまうところだった。」
「だねぇ。ところで、これって私も使えるのかな?」
「多分な。でも、テストは明日、皆と一緒にな。」
カズトは、ひとまずの成功にホッと息をつく。
今回、ルミナスとこっそり行っていたのは、新たなスキルを習得することができるか?という実験。
カズトの持つ固有スキル『創造』。
これは、生産系に関する成功率をあげたり、イメージ力を補佐したりと、とにかく生産に関する諸々についてパワーアップさせることができるパッシブスキルだった。
これに気づいたのは、ダンジョンの機能を使って、色々と作業していた時で、できる幅が広がったことで、思いつくままに魔道具を作っていた。
その中でもハマったのが、付与術。
火属性魔法を、剣に付与して「火焔剣」とか、ロマンあふれるものを作っては悦に浸っていた。
イリシスの為に用意した、「ダンジョンへ帰還する魔道具」も、その時の産物だったりする。
本当は、どこにでも移動できる転移石を作りたかったのだが、素材もしくは術式の関係で「どこでも」というのは、ほぼ御無理筋だというのがわかり、ならば、と、起点を軸にして、そこへの移動という方向へとシフトした。
しかし、起点となる場所への大掛かりな陣を設置しなければいけないことと、転移石の素材が希少すぎたため、ダンジョンとシャガートの街、そしてパンニャ領領都を繋ぐ転移陣を設置したところまでしかできていなかった。
その時のテストに使った使い捨ての転移石の欠片が、今回イリシスに渡した魔道具の格になっている、というわけだ。
話はそれたが、付与術をカズトが使う時、最終的なイメージがしっかりしていれば、途中の複雑な工程をすっ飛ばして、簡単に付与することができる。
また、近くにスキルを使える人、もしくはスキルを内包した魔道具があれば、そのスキルも付与することができる事に気づいた時、カズトはふと思ったのだ。
「他人のスキルも付与できるなら、逆に、他人にスキルを付与できるんじゃね?」と。
それから、カズトは実験を繰り返す。
付与する相手は、ダンジョン内にいる魔物、ホムンクルスたち、そして、自分自身。
人体にスキルを付与する・・・・・・まるで荒唐無稽な行いではあるが、簡単に言えば、人体を魔道具と見立てて付与するようなものだ。
お陰で、ダンジョン内には、ブレスを吐くオーガとか、剣技に長けたスライムなど、訳の分からない魔物がうじゃうじゃといたりする。
ただ、本来のスキルと違い、スキルによって、効果が低い、回数制限がある、時間制限がある、パッシブスキルは不可、などの制限があるため、新たなスキルが増えた、というよりは、道具がなくても魔道具が使える、という感覚に近い。だから、魔法が使えないものが使えるようになるなど、効果としては十分すぎるほどだった。
尚、モノと違い、人に付与する場合、対象との信頼関係他、様々な要因が関係しているみたいで、Aには付与できたスキルがBには出来なかった、などという結果も出ている。
今回、ルミナスに付与したのは、イリシスが持っていた「回復魔法」のうち、「ヒール」と「エリアヒール」の二つ。
回復魔法の使い手は、教会が抱え込んでいることが多くて、数が少ないのだ。
だから、今回イリシスが仲間になったのは、行幸だったと言える。
「さて、もう一回ぐらいいけそうか?」
「うん……優しくしてね?」
ルミナスは揶揄うような笑みを浮かべながら、あえて誤解されそうな言葉を紡ぐ。
林の奥では、新しいスキルの発動と調整が淡々と続いていた。
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