アルメリアの聖女騒動 その5
「ほうほぅ、そういう仕組みかぁ。」
ズシャっと、リズの双剣が、ロケットウルフの首筋を切裂く音を聞きながら、カズトは、イリシスに再度質問を投げかける。
「じゃぁ、祈りの祭壇っていうのは?」
「それはですねぇ……」
周りを、ロケットウルフの群れに囲まれながらも、呑気に会話を続ける、カズトとイリシス。
二人の周りには結界が貼られていて、魔物は近づけない。そして周りを囲む魔物たちは、リズレットのいい獲物と化している。
ルミナスは、一応安全を考えて、リズの補佐をしている。
なぜこんなことをしているかと言うと、単純に討伐がしたかった。ただそれだけの事。
で、イリシスがカズトの周りに結果を張れば、カズトのオーラが抑えられて、魔物も寄ってくるのではないか?と考えたのだ。
結果として、その目論見は成功し、リズとルミナスの気配を捉えた魔物が、与しやすい獲物と考えたのか、周りを取り囲み、それをリズが嬉嬉として屠っている、というわけだった。
そんな感じで、リズが干し肉の元を量産している間、カズトは、観光という名目で見て回った町中の様子とイリシスから聞き取りをしながら、聖女の結界についての考察をしていた。
まず…とカズトは考える。
遥かなる昔、この小国全土を結界で護るだけの力を持った者……即ち聖女がいた事は間違い無いだろう。
そして、当時周りにいた者たちは賢かった。
つまり、聖女一人に頼り切るのは危険だ、ということに気付いていた。
この国の結界は2種類からなる。
外部からの悪意の排除と、豊穣な土地の維持、これを一人で維持することなどできやしない。もし出来たとしても、一生魔力が尽きるまで、その場に縫い止められることとなる。
だから、この国を守るための結界装置を創り上げたのだ。
それは、ひょっとしたら、自らを犠牲にした聖女を助けるためだったかもしれない。
この街を見ていてわかったのだが、王城を中心に、街全体が結界を張り、それを増幅、維持するための魔法陣となっている。
街の外壁となっている城壁、これはそのまま結界の基礎になっていて、その城壁の均等に点在する8箇所の、一見物見櫓に見える祈りの塔。
8人の聖女…オクタヴィア達が、ここで毎朝祈りを捧げることで、国境全体に張られた結界を維持する事ができる。
王城を取り囲む城壁には、均等に6箇所の祭壇が用意され、6人の聖女…ペンタクルス達の祈りによって、土地に力を与えている。
そして、王城内に設置された祈りの間。ここで3人の聖女…トライスター達の祈りが、オクタヴィア、ペンタクルスたちが張った結界を増幅し、聖王国全体へと増幅する。
そして、祈りの間から通じる聖女の塔の最上階に誂えられた聖女の間で、筆頭聖女……マリアスターは、それらの魔力を制御する。
このシステムの優秀な所は、単に役割を分担しているという点だけでは無く、聖女の数が足りなくても補う事ができると言うところにある。
その昔、一人の聖女が担っていた事を、18人の聖女で役割分担をし、負担を減らす。
分担したことで、一人一人の力が少なくても、結果を出す事ができる。
逆に、力の強いものがいれば、人数が足りなくても維持することができる。
イリシスがマリアスターに選ばれる前は、トライスターは3人揃っていたものの、オクタヴィアが3人、ペンタクルスが4人、そして、要のマリアスターを欠いていたという。
通常の半数近い人数で、結界を支えていたのだから、メリア公女を始め、優秀な聖女が揃っていたことは間違いない。
しかし、今期。マリアスターも選ばれ、不足の聖女たちも補われて尚、結界が揺らいでいるのは何故か?
その理由は彼の噂にある。
単純な話だ。イリシスに全部を押し付け、他の聖女たちはサボっていた、ただそれだけのこと。
実際、毎日の祈りで、まじめにやっていた者はイリシス以外は2~3人しかいなかったのだろう。
それでも結界が維持できていたのは、それだけイリシスの魔力が膨大だったことと、システムが優秀過ぎたことにある。
ここで、イリシスを失ったアルメリア聖王国はどうなるのか?
暫くは、システムに蓄えられた、イリシスの魔力があるから問題はないだろう。
それが尽きる前に、他の聖女たちがまじめに取り組めば、だが。
しかし、本人の意思か、脅されてかは知らないが、今までろくに聖務を果たしていなかった聖女たちが、まじめに務めるだろうか?
自分がサボっていても、今まで問題はなかった。だったらこれからも問題はないのではないか?そう考えるものがいないとは言えないだろう。
今までサボっていた分を、イリシスが肩代わりしていてくれた、そこに思い至れば、また話は違ってくるが、そもそも、そう考えることが出来るのであれば、他所からの甘言に乗らないだろうし、乗らざるを得ない状況だったとすれば、この後、最悪な状況が来ることを理解できるだろうから、さっさと逃げ出すだろう。
この点に気が付かなければ、アルメリア聖王国に待っているのは、魔物、もしくは他国による侵攻を受けて絶滅する未来だ。
これが、人族の他国からの侵攻であればまだいい。王侯貴族はともかくとして、一般民衆については、権力者が変わるだけで、生きていくことが出来るのだから。もっとも扱いが今よりひどくなる可能性もあるが。
しかし、攻めてくるのが魔物だった場合はどうか?
奴らには、占領という概念はない。
知恵が回る獣がいたとしても、”牧場”扱い以上ではなく、そこに住まう者達はことごとく”エサ”となるしかないのだ。
その話をすると、イリシスは青褪める。そしてカズトにすがる。
何とか助けることは出来ないのか?と。
カズトは驚愕の眼でイリシスを見る。
イリシスが偽聖女だったこと、犯罪奴隷として、薄汚い冒険者のモノになったことなどは、瞬く間に街中に広がっていた。
その伝わりようの速さから、おそらく、王太子かメリア公女あたりが、噂を広めたのだろうと思う。
だから、先ほど街中を観光していた時も、イリシスの姿を見た人々は、あからさまに侮蔑の視線を向け、中には石やごみを投げつけてくるものもいた。
更には、カズトに対し「俺にも使わせてくれよ」と言い、イリシスに下卑た視線を向けてくるゴロツキもいた。
勿論、そいつらは、《《懇切丁寧な説得》》によりご退場願ったが。
あの街中にはイリシスの味方は居ない。なのにそれでも救いたいという。
「これが聖女か……。」
カズトは慄きながらもイリシスに告げる。
「すべてを救うことは出来ない。希望者を逃がすことぐらいしかできないがそれでもいいか?」
その言葉にイリシスは何度もコクコクと頷く。
「対価はお前自身だ。今後一生俺に身も心も捧げると誓え。そしてその証明として、今ここで奉仕しろ。」
カズトは我ながら無茶な要求だと思いながら、それでも口にする。
昨晩、裸で添い寝をしただけで泣き出すような、純粋な女の子だ。
他人のために身を差し出すようなことは出来ないだろう。
正直、見知らぬ街の奴らを救うなんて面倒なことはしたくないのだ。
だったらイリシスに嫌われても、無理難題を吹っ掛けて断るほうが、マシだろう。
そう思っていたのだが……
イリシスは、瞳に涙を浮かべながらも、衣類を脱ぎ、カズトに奉仕をし始める。
……マジですか!
カズトは、聖女と言うものを甘く見ていたという事を理解し、己の敗北を認めざるを得なかった。
尚、狩りを終えて戻ってきた、ルミナスとリズレットから、冷たい視線を向けられたことは言うまでもない……。
どんなご奉仕かは18禁版で……といいたいのですが、出番が……
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