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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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アルメリアの聖女騒動 その2

「それでな、メリア公女が16になった時の「選星の儀」……前回の時なんだが……」

カズトに話していた男が、急に声を潜める。

「メリア公女は、マリアスターに選ばれる、とみんなが思っていてな、本人もその気だったんだが……、」


結局、メリア公女はトライスターのまま。マリアスターに選ばれたのは、12歳になるイリシスだった。

幼いながらも、メリアを圧倒する魔力保有量。そして、孤児の自分を引き上げてくれた女神に対する感謝あふれる祈りの姿勢。どれをとっても、メリアより上なのは明らかだった……家柄以外は。


「だけどな、この噂だろ?中には、公爵家がイリシス様を貶めるために噂を流しているって話もあるが、真偽のほどは定かじゃねぇ。だけど、この騒ぎの行く末が、俺たちの商売に影響するってことはわかるだろ?」

だから、情報収集は欠かせねえんだよ、といって男は去っていった。


「ルミナス、どう思う?」

男の話を黙って聞いていたルミナスに訊ねてみる。

「嘘は言っていませんでした。ただ、下心にあふれていましたね。おそらく、イリシス様にとっても、メリア様にとっても、都合のいい話を振りまいて、情況がどう転んでもいいようにしておくという目論見でしょう。」

「なるほどな。俺に話しかけてきたのは?」

「特に意味はなさそうです。おにぃちゃんが、他の国の者というのはわかっていたみたいなので、顔つなぎ程度に考えていたと思います。」

身分まではわからなくても、他国の者がここに招かれている時点で、相当な地位にあることは想像できる。

ここで顔を売っておけば、いつかどこかで会った時の布石となる。

今後一生会うことがなかったとしても、別に損するわけじゃない。

なかなか商人らしい、とカズトは感心するのだった。


宴もたけなわ、楽師の旋律がひときわ華やかさを増し、杯の触れ合う音が殿内を満たしていた、そのときだった。


アルメリア聖王国王太子セドリックが、わざとらしく指先で杯を鳴らし、場を制した。

柔らかな笑みを浮かべながらも、その瞳は獲物を前にした猛禽のように冷たく、計算に満ちている。


「皆に、ひとつ報告がある」


甘く響く声に、ざわめきはすっと鎮まり、貴族たちの視線が一斉に彼へと集まる。

セドリックはその視線を楽しむように一拍置き、満足げに頷いた。


「この宴は、そもそも婚約披露のために設けられたものだ」


その言葉に、イリシスの存在を思い出した者たちが、無意識に彼女の方を見る。

白を基調とした質素なドレスに身を包んだイリシスは、壁際に静かに立ち、感情の読めない表情で王太子を見つめていた。


「しかし――」

セドリックは、わざとらしく溜め息をつく。


「内々に婚約者とされていたイリシスは、その資格を欠いていた」


その言い方は、まるで汚れた布をつまみ上げるかのような、露骨な軽蔑を含んでいた。


「生まれは卑しく、分を弁えず。メリア公爵令嬢の才と美に嫉妬し、陰で様々な嫌がらせを働いてきたのだ」


同情を装った口調とは裏腹に、言葉は一つ一つが刃のように研がれている。

周囲から、ひそひそと囁きが漏れ始めた。


「それだけではない。他の聖女たちを脅し、仕事を押し付け、自分は怠けていた。聖王国の名を汚す行いの数々……王家として、もはや看過できぬ」


セドリックは胸に手を当て、まるで苦渋の決断を下したかのように首を振る。

その芝居がかった仕草に、何人かの貴族は露骨に感心したような表情を浮かべた。


一方で、イリシスは終始、口を開かない。

非難の言葉が降り注ぐ中でも、背筋を伸ばし、ただ静かにそこに立っている。


弁明も、涙もない。

それがかえって、王太子の語り口の厭味ったらしさを際立たせていた。


まるで、すでに罪が確定した罪人を、わざわざ衆目の前で嬲るかのように。

セドリックの声だけが高らかに響き、宴の華やぎは、いつしか冷ややかな空気へと変わっていった。


セドリックは、さも「事実を淡々と列挙しているだけ」という体裁を崩さぬまま、指を一本ずつ折るようにして語り始めた。


「まず一つ目だ」


柔らかな微笑みを浮かべながら、その声音だけは妙に楽しげだ。


「メリア公爵令嬢の私室に、下級聖女用の祈祷具が紛れ込んでいた件。あれは偶然ではない。身分の差を思い知らせるため、わざと置かれたものだと証言が上がっている」


会場のあちこちで、息を呑む気配が走る。

セドリックはちらりとイリシスを見やり、反応がないのを確かめると、満足そうに続きを口にした。


「二つ目。メリア嬢が臨席する儀式の直前、衣装に祝福用の香油ではなく、安物の浄化液が使われていた件。香りが合わず、体調を崩しかけたそうだ」


それがどれほど重大な失態か、居並ぶ貴族たちはよく知っている。

あからさまな悪意を“うっかり”で片付けるための、あまりにも出来すぎた話だった。


「三つ目は、より悪質だ」


声がわずかに低くなり、非難の色を強める。


「他の聖女たちに対し、『命令を聞かなければ、王太子殿下に報告する』と脅し、面倒な浄化や巡礼を押し付けていた。自分はその間、祈りと称して姿をくらましていたそうだ」


その言葉に、数名の聖女が俯く。

事実かどうかはさておき、「そう言わされている」空気だけは、場に十分すぎるほどあった。


「四つ目。メリア嬢に贈られるはずだった祝福文書が、なぜか破損していた件だ。インクはこぼされ、文字は読めなくなっていた。管理を任されていたのは……言うまでもあるまい」


ここでセドリックは、わざと沈黙を置く。

視線だけが、ゆっくりとイリシスへと向けられた。


「そして最後に――」


もはや断罪を楽しむような口調だった。


「聖女として最も重い罪。嫉妬と私怨から、聖なる務めを穢したことだ。己の価値を理解せず、他者を引きずり下ろそうとする姿勢。これを嫌がらせと言わずして、何と言う?」


一つ一つは決定的な証拠に欠け、だが重ねられることで、逃げ道を塞ぐように作られている。

セドリックの語りは実に周到で、実に厭味ったらしい。


それでもイリシスは、否定の言葉ひとつ発さない。

ただ静かに立ち、王太子の作り上げた「悪意の物語」が完成するのを、黙って見届けていた。


セドリックは、すべてを語り終えた余韻を楽しむように、ゆっくりと息を吸った。

殿内は、宴の名残であるはずの音楽も止み、誰一人として声を発しない。

その静寂を切り裂くように、王太子の声が響いた。


「――故に」


その一語には、結論を告げる者の確信と、拒絶を許さぬ傲慢さが込められていた。


「王太子セドリックの名において、聖女……いや、もう違うな」


わざとらしく言葉を切り、薄く笑う。

その笑みは、慈悲でも憐憫でもなく、ただ相手を見下ろすためのものだった。


「イリシス。その任を解き、国外追放を命じる」


宣告は簡潔で、冷酷だった。

玉座の間に、その言葉が重く落ち、波紋のように広がっていく。


「本来であれば、公爵令嬢に対する嫌がらせの数々は極刑に値する」


セドリックは肩をすくめ、いかにも“温情をかけてやった”という口ぶりで続ける。


「だが、一応は聖女であった身だ。その功績に免じ、命だけは助けてやろう。追放で済むのだから、感謝すべきだな」


その瞬間、何人かの貴族が安堵とも興奮ともつかぬ息を漏らした。

聖女が断罪される――その劇的な場面に立ち会っているという高揚が、空気に混じる。


視線は一斉に、イリシスへと向けられた。


だが、彼女は崩れ落ちることも、取り乱すこともなかった。

顔色ひとつ変えず、ただ静かにセドリックを見返している。


その沈黙が、かえって異様だった。

断罪の言葉を浴びせられ、すべてを奪われようとしているにもかかわらず、彼女はまるで、すでに結末を知っていたかのように落ち着いている。


セドリックは、その様子が気に入らないのか、わずかに眉をひそめた。

だがすぐに、勝者の余裕を取り戻したように、声を張り上げる。


「以上だ。これをもって、イリシスの罪は裁かれた」


その宣言をもって、断罪は完了した。

宴の場は、もはや祝福の場ではなく、公開処刑にも似た冷たい空気に支配されていた。


そしてその中心で、イリシスはただ一人、

すべてを奪われた者として、静かに立ち尽くしていた。


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