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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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渦巻く陰謀の予感 ガルマニア帝国

大陸中央に覇を唱えてきたガルマニア帝国は、今やその威容とは裏腹に、内部から静かに軋みを上げていた。

原因はただ一つ――皇位継承。


王は未だ玉座にあるものの、老いと病は否応なく影を落とし、次代を巡る思惑が王宮の回廊を満たしている。

四人の皇子、それぞれが異なる母から生まれ、異なる支持基盤を持ち、異なる「正しさ」を掲げていた。


第一皇子、レオニールは文武において一定以上の才を示し、政務も無難にこなす。

しかし、それは裏を返せば「決定打に欠ける」という評価でもあった。

平時であれば、誰もが認める「有能な王」としての器量はある。

だが、新たな魔王が現れたと噂のある昨今では、どうしても物足りなさを感じてしまうのだ。

さらに言えば、母は第三妃。決して低い身分ではないが、帝国貴族の中でも、血統主義と呼ばれる派閥の目は冷酷だ。

「なぜ、より格上の妃の子ではないのか」

その囁きは、皇子の背後に集う家臣たちの忠誠を少しずつ蝕んでいく。


表向きは最大派閥。しかし内部には不満と疑念が澱のように溜まり、いつ崩れてもおかしくない均衡の上に立っていた。


第二皇子アスナルは、そもそも王位を望んでいなかった。

側室の子として生まれ、幼少より「王を支える者」として己を律し、政務と戦略に没頭してきた人物である。


その類稀なる智謀は、帝国の重臣や軍略家たちの目を引いた。

そして、彼らは気づいてしまったのだ――

「この男こそ、帝国を生かす頭脳だ」と。


本人の意思とは裏腹に、彼は神輿に乗せられた。

静かで理知的な派閥だが、水面下で張り巡らされた策謀の数は、他派閥を圧倒している。

アスナル本人にその気はなかったはずなのだが、気づけば流れに身を任せていた。

レオニールがもっと、自分を凌ぐほどの智者であれば、もしくは、自分がいなければどうしようもないという、愚者であれば、アスナルは、そう簡単には乗らなかったであろう。

中途半端な兄の優秀さが、アスナルを無意識に苛立たせる。

結局は、母の身分という、自分ではどうしようもできない軛から逃れたいという思いが無意識にあったのかもしれない。


第三皇子ゲイルは、剣を取り、声を上げ、堂々と王位を主張する。

武勇は帝国随一、軍からの支持も厚い。


そして、母は第二妃。第一皇子の母より格上であり、その血統を根拠に「正統性」を声高に叫ぶ。

彼の陣営には、古い武門貴族や前線の将軍たちが集い、王宮よりも軍営の空気が色濃い。


「力ある者が王となるべきだ」

その思想は明快で、ゆえに危うい。しかし昨今の情勢から見て、それに異を唱える者は少なかった


最後に、正妃の産んだ第四皇子、アナベル。

血筋だけを見れば、彼こそが最も正しい後継者である。

正妃の子であるアナベルを帝位に付け。第一皇子のレオニールが、宰相としてその補佐をし、アスナルが内務省、ゲイルが軍務省のトップとして、それぞれ頭角を現して帝国を支える。それが第四皇子派の掲げる、未来の帝国の理想像だった。

だが、アナベルはまだ幼い。

その瞳に、帝国を背負う覚悟があるのかすら測れない。


理屈の上では最強の正統性を持ちながら、現実には支持者は少なく、彼を支えるのは一部の保守派貴族と王妃の私的な人脈のみ。

その小さな背中は、王宮の巨大さの中であまりにも心許なかった。


そして、火は灯る


最初は些細な諍いだった。

儀礼の順番、勅命の解釈、地方総督の任免。


しかし、不信と猜疑に満ちた空気の中では、それらは火種として十分だった。

小競り合いは派閥同士の対立へ、やがて地方を巻き込み、軍を動かし、帝国全土を震わせる「乱」へと変貌していく。


誰もが「自分こそが帝国のためだ」と信じて疑わない。

だからこそ、誰も引かなかった。


こうしてガルマニア帝国は、大きくなり過ぎた国の宿命であるかの如く、外敵ではなく、内紛よって、崩れゆく道を歩み始めようとしていた。



事の発端は、あまりにも小さな――誰もが「よくあること」として見過ごせるはずのミスだった。


北方領土。

帝国でも屈指の寒冷地であり、外敵と自然、その両方を相手取る最前線。


ゲイル率いる北方領土護衛部隊に届くはずの補給は、本来よりも数日遅れ、量も不足していた。

食糧、矢弾、防寒具。どれも致命的ではないが、「欠けてはならない」ものばかりだ。


最初の一度、ゲイルは歯を食いしばって飲み込んだ。


――戦場では、こういうこともある。


是正は迅速だった。

書類の訂正、追加の補給、形式上の謝罪。

それで終わるはずだった。


だが、同じことが二度、三度と繰り返される。


補給の量が微妙に足りない。

到着が一日遅れる。

帳簿と実物が合わない。


「偶然」にしては、あまりに続きすぎていた。


ゲイルの胸の内に、疑念が芽生える。

そしてそれは、北風に晒された怒りへと変わっていった。


――これは、本当にただのミスなのか?


彼は知っていた。

補給の最終指示を出しているのは第一皇子レオニール。

そして、その計画立案を担っているのは、第二皇子アスナル。


「……俺を、試しているのか?」


武を誇り、誇り高き第三皇子として、前線を預かる己を軽んじているのではないか。

あるいは、派閥争いの一環として、じわじわと首を絞めに来ているのではないか。


理屈よりも先に、感情が沸騰する。


兵の命が懸かっている。

寒さと敵意の中で戦う部下たちを思えば、怒りを抑える理由などなかった。


ゲイルは、拳を叩きつける。


「ふざけるな……!」


その怒りは、明確な敵を求め始めていた。


一方、王宮。


レオニールは書類の山を前に、静かに眉をひそめていた。

補給報告に記された「誤差」の文字が、何度も目に入る。


一度なら不運。

二度なら管理不足。

三度続けば、看過できない。


「……これは、さすがにおかしいな」


彼に疑心暗鬼はない。

弟たちを信頼しているからこそ、問題は「能力」ではなく「何か別の要因」だと考えていた。


だからこそ、彼はアスナルを呼び出す。


問い詰めるためではない。

共に原因を探し、正すために。


「計画そのものに、どこか無理があったのか?」


その言葉には、責める色はなかった。

むしろ、兄としての気遣いすら含まれていた。


だが――

問題は、レオニール本人ではなかった。


アスナルは、すでに原因を突き止めていた。


補給を請け負っている商会。

それは、レオニールが古くからひいきにしている商会だった。

他にも、レオニールを取り巻く、貴族たちの息がかかった商会が絡んでいる。


不正ではない・・・・・・とは言い切れない。

内部の管理が甘く、帳簿と実務が噛み合っていないのをいいことに私腹を肥やしている者がいる・・・・・・だが、決定的な証拠がなく、アスナルの権限では注意喚起を促す以上の事が出来ない。

その歪みが、北方への補給にしわ寄せとして現れている。


――兄上に伝えれば、あの商会は切られるだろう。他の紹介にもメスを入れることができるかもしれない。


それが正しい判断だと、頭ではわかっている。

だが、それは同時に、レオニールの「人を見る目」に傷をつけることでもあった。

逆に、言いがかりだと決めつけられ、アスナルが糾弾される恐れもある。


アスナルは、言葉を選び続けていた。

どうすれば、兄の面子を保ちつつ、問題を解決できるか。


しかし、呼び出された先で待っていたのは、冷静な協議の場ではなかった。


レオニールの取り巻きたち。

彼らは、机上の書類だけを見て、嘲る。


「また計画ミスですか、第二皇子殿下」

「頭脳明晰と聞いていましたが、現場は別、ということですかな」

「北方の荒くれ者に、数字の繊細さは不要なのでしょう」


笑い声。

含みのある視線。


アスナルは、黙っていた。

兄の立場を思い、歯を食いしばって。


だが、その沈黙を「弱さ」と勘違いした者たちが、さらに言葉を重ねる。

その雑言が、母の事に絡んだ時、アスナルの中で、ぷつり、と何かが切れた。


「……いい加減にしてください」


低い声。

しかし、そこには氷のような怒りが込められていた。


「原因は、計画ではありません。あなた方が選んだ商会です」


空気が凍りつく。


アスナルの瞳は、兄ではなく、取り巻きたちを射抜いていた。

それは初めて見せる、明確な敵意だった。


「あなた方の下衆な考えが、私腹を肥やそうとする愚かな行動が、北方の兵たちを苦しめているのです。そして、それらを見抜けない兄上に一番の責任があります。」


アスナルは、それだけ言うと、踵を返してレオニールの執務室を出ていく。


兄を信じているからこそ。

兄を守ろうとしたからこそ。


その誠実さが踏みにじられた瞬間、彼の理性は限界を迎えていた。


こうして、小さな補給ミスは、ゲイルの怒りを煽り、レオニールの善意をすり抜け、アスナルの忍耐を破壊した。


皇子の誰一人として、悪意はなく、私欲で動いたことはなかった。

全ては側近たちの派閥争いが招いたことだ。

それでも、歯車は確実に、軋み始めていた。



「……その騒ぎが大きくなり、身の危険を感じた第四皇子アナベルさまは、我が国に亡命してきた、という経緯です。」

「亡命ではなく、「友好国である我が国に来訪し、幼き皇子の見聞を広める」であろう?」

表向きは、と、宰相の言葉に被せるように王は言う。

どう言葉を取り繕おうが、守るべき民を見捨てて逃げ出してきたことに変わりはない。

幼き皇子は、周りの者の言う事に従い、流されているだけだろうが・・・・・・。


グランベルク王ハインリッヒは、幼き皇子の事などどうでもよかった。

しかし、帝国相手となれば、対応を一つ間違えるだけで、国を焼くことになるかもしれない。それだけに厄介ごとが増えたと、頭をか開ける。


「如何なされます?余裕はないと追い返しますか?」

宰相の言葉にハインリッヒは首を横に振る。

「それは悪手だろう。下手な事を言えば、内乱で弱っていると、とられかねない。」

とはいえ、そのまま第四皇子を手元に置いておけば、帝国の状況次第では弱みにもなりかねない。が、かと言って、逆に切り札として、有利な状況になる可能性もあるため、放り出すことも出来ない。

ハインリッヒはしばし考えたのち、結論を出す。


「パンニャ領へ送ろうか。あそこにはアナベル殿の姉でもある勇者姫がおる筈だからな。」


まるで「面倒ごとは押し付けてしまえ」といわんばかりの声だった。


各国の様子……というか今後の事件へのプロローグですかね?

各国、というからには、他の国もあるわけで……




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