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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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癒しを求めて その4

「それで今日はどうするの?」

相も変わらず、カズトに引っ付いているルミナスが訊ねてくる。

「サラ姉も一応約束してくれたんでしょ?ハーレムに入るって。」

「そうなんだけどなぁ……。」

カズトは、隣で泣きじゃくるサラを困ったように見つめる……



使用人見習として、孤児の年長者たちを、この屋敷で働かせる=仕事を与える。

このことは、サラにとって、カズトの印象をかなり大きく引き上げた。

というのも、この世界の実情として、身寄りも後ろ盾もない少女たちが、まともな職に就くことが出来るのは、かなり稀なことなのだ。

男の子たちは、まだいい。

力仕事というのはどこにでも転がっているため、多少過酷だったり、劣悪な条件だったとしても、えり好みしなければ、生きていけるだけの稼ぎを得ることは可能だからだ。

しかし、少女達には力仕事は難しい。稀に、怪力のスキルなど、男の子顔負けの活躍が出来る能力を持つ者もいるが、それこそ稀な部類であり、大抵の場合は男がやるような仕事には向かない者ばかりだ。


そんな少女達でも、快く、好待遇で受け入れてくれる職場もある。

そこでは、無償で美しく磨かれ、若いほど価値があるとされる……そう、娼館である。

つまりは、なんの力も後ろ盾もない少女たちの行きつく先は、身体を売る、という事なのだ。

現に、この街にある娼館で働いている女の子の8割は、孤児だったりする。

サラは、そのことがどうしても許せない……それ以上に、ゆるせないと思いながらも、そのまま黙って見送るしかない、自分が許せなかった。


そんな折に起きた、代官の反乱。

当初は代官が優勢で、領主にとって代わるとまで噂されていたが、サラにとってはどうでもよかった。

上が変わっても、孤児たちの現況が変わるわけでもない。それより、この争いによって、親を失い孤児になる子供たちが増え、戦争に物資を持っていかれ、ただでさえ困難な食料補充がむつかしくなったことの方が問題だった。


やがて、戦争が終わり、この街は魔王に支配されることとなった。

それを知らされた時、サラの心は絶望に染まる。

戦争が終わったという知らせは、平和の到来ではなかった。

この街が魔王の支配下に置かれたという宣告、それは絶望の始まりだと、サラは思った。


サラは孤児院の古い礼拝堂で、一人、膝を抱えて座っていた。石壁はひび割れ、窓から差し込む夕暮れの光は弱々しい。胸の奥が、ゆっくりと、しかし確実に冷えていくのを感じていた。


――魔王が支配する街。

――力なき者は、踏みにじられる。


頭では分かっていた。分かっていたからこそ、考えてしまう。

この街で、いちばん力のない存在は誰なのかを。


「……あの子たちだ」


孤児院に身を寄せる子どもたちの顔が、次々と思い浮かぶ。泣き虫の子、背伸びして強がる子、夜になると不安で眠れなくなる子。

そして、それらを守るべき自分。


守れない。

剣も、魔法も、交渉力もない。

魔王に抗う術など、何一つ持っていない。


サラは唇を噛みしめた。

自分の無力さが、まるで罪のように胸にのしかかる。


「私は……何もできない……」


そのときだった。

孤児の一人、ルミナスが静かにそばに寄ってきた。

小柄な身体。けれど、その瞳には妙な決意の色が宿っていた。


「ねえ、サラ姉。私、魔王さまのところへ行く」


その言葉に、サラは思わず顔を上げた。


「……何を言ってるの?」


ルミナスは、怯えた様子を見せないように、少しだけ胸を張った。


「魔王さま、ハーレムを募集してるんだって。だから、応募するの。私が気に入られたら……この孤児院を、みんなを、助けてもらえるかもしれないでしょ?」


世界が、音を失ったように感じられた。


ダメだ。

そんな簡単な話じゃない。

それに――


「そんな……あなたを差し出して助かるなんて……」


言葉は喉の奥で絡まり、結局、声にならなかった。

サラはただ、強く首を振ることしかできなかった。


ルミナスは、その様子をじっと見つめていた。

サラの震える肩。握りしめられた拳。何も言えずに、ただ耐えるその姿。


――大丈夫だよ、お姉ちゃん。今度は私が助ける番。


ルミナスは理解していた。

サラがどれほど自分たちを想っているか。

そして、その想いに見合う力を持てないことを、どれほど嘆いているかを。

だけど、それは違う。サラのおかげで、自分がどれだけ救われたのか、サラは分かっていない。

(サラ姉は、ずっと一人で苦しんでる)


だからこそ、少しでも支えになりたかった。

大人が背負い込んだ絶望を、子どもが引き受けることになるとしても。


「大丈夫だよ、サラ姉」


ルミナスは、精一杯の笑顔を浮かべた。


「私、怖くない。それに……サラ姉が何もできないなんて、思ってない。今まで守ってくれた分、今度は私が、サラ姉の力になる番だから」


サラは、何も言えなかった。

引き留める資格も、代わりに行く力もない。


ただ、去っていく小さな背中を見送りながら、

自分の無力さに、再び心を引き裂かれるのだった。



そんなことがあって数日後、孤児院の在り様が変わった。

とりあえず、一人で色々と出来るようになった子供たち……いわゆる年長組と呼ばれる7~8歳以上の子供たちは、みんな魔王様のお屋敷で、住み込みで働くこととなった。

裏庭の離れで、宿舎が与えられ、子供たちは2~3人で一部屋、望めば個室も与えられる。

住む場所だけではない。衣類も清潔なものが与えられ、毎日身を清めることも出来る。

お屋敷で働くのだから、衣服を含め、常に清潔にしておく必要があるのは当たり前のこととはいえ、これだけでも今までの生活からすれば、極上すぎる扱いだ。


広いお屋敷を、まだ幼い子らが手掛けていくというのは、大変重労働ではある。しかし、代償として与えられる衣食住に加え、少ないながらもお給金がもらえる。さらには将来に対する不安も払しょくしたとなれば、恩義を感じるには十分すぎるほどだ。

ただ、サラには一抹の不安があった。

この好待遇が、ルミナスの犠牲の上に成り立っているという事……


サラがカズトを始めてみた時、「本当に魔王様?」と思ったものだった。

どう見ても、ただの少年にしか見えなかった。

だけど、周りにいる女性たちは、間違っても「ただの」とは思えない。

明らかに中位以上であると思われる魔族に、勇者姫、領主のご令嬢が、カズトの周りを取り巻いている。あの中にルミナスが放り込まれたと思うと……


しかし、その後ルミナスと一緒にいるカズトの姿を見て、自分の心配が杞憂だったことを知る。

はたから見れば、仲のいい兄妹に見える二人。

ルミナスを見る魔王カズトの眼は優しい。カズトを見るルミナスの眼には思慕が見え隠れしている。・・・・・・なにより幸せそうだ。

結果論かもしれないが、これでよかったのだ、と、サラはようやく肩の荷が下りた気がした。なのに……


「お断りします」

サラはカズトの申し出に反射的に応える。

……なんで、私が魔王様のハーレムに入らなきゃならないのよっ!

それにルミナスまで一緒になって……。


「だから、まともに言っても駄目だって言ってるじゃないですか。」

「いや、だって……。」

「サラ姉は素直じゃないから、正面から言っても面倒なだけで、こじれるんですよ。」

……あのね、ルミナス。全部聞こえてるのよ?

「だから、ここは絡め手で……」

「絡め手って言われてもなぁ。」

「ほら、言う事を聞かなかったら、孤児の子供たちがどうなるか?っていうとか……。」

……ちょっと、ルミナス?

「いや、孤児の子って、お前の友達だろ?」

……そうそう、もっと言ってあげてよっ。」

「うーん、一緒に暮らしてましたからそれなりに情はありますが、目的のためには利用するのもやぶさかではないと……。」

「だめだろっ!誰だよっ、ルミナスをこんな風に育てたのはっ!」

……ご、ごめんなさいっ、私かもしれないですぅっ!

「じゃぁ、孤児の女の子を一人づつ毒牙にかけていきますか?ほら、らみぃなんかどうです?彼女は12歳ですし、同年齢で身体を売ってる子もいますから、問題ないですよ?」

「うーん、しかし、おっぱいがちょっと……。」

「これからですよ。それにサラ姉とそんなに大差ないですし。」


「ありますっ!私はもっとありますよっ!」

耐え切れずにサラが叫ぶ。

今までの会話は、すべてサラの目の前でなされていたことだ。

あえて聞こえない振りをしていたのだが、さすがに、ルミナスの一言には、我慢ならなかった。

「えぇ、サラ姉のおっぱい私より小さいでしょ?」

「まだ、ルミナスよりおっきいですっ!」

「へぇ、じゃぁ、サラ姉、おにぃちゃんに確認してもらう?」

「いいわよっ……って、えぇぇっ!」

「大丈夫、大丈夫、おにぃちゃんは優しいから。」

「えぇ、ちょ、ちょっと……いやぁぁぁぁぁぁ……」

ルミナスに引きずられていくサラ。

それを、使用人見習の元孤児たちとカズトは黙って見送るのだった。



結局、サラは、名前だけの幽霊ハーレム員です。


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