癒しを求めて その3
(おい、コッチの声、分かるか?)
(えっ、あっ、……旦那ですかぃ?)
(にゃ?声が聞こえるにゃ?)
オルトロスとヘルキャットは首を振りながら、周りを見回した後、カズトと視線が合う。
(どうやら意思は通じるみたいだな。時間がないから単刀直入に問う。お前ら、なんでここにいるんだ?)
(それは……)
オルトロスは、静かにあの日を思い返していた。
街が魔物たちに蹂躙され、石畳が砕け、悲鳴と怒号が渦を巻いていた頃。
自分もまた、その中にいた。二つの頭を持つ魔物として前線に立たされ、剣と魔法の嵐を浴び、深い傷を負った。片方の脚は言うことをきかず、二つの喉から漏れる唸り声も、もはや威嚇にはならなかった。
路地裏に転がり込み、瓦礫と血にまみれて動けなくなった時――
見下ろしてきたのは、怯えきった顔の少女だった。
逃げてもおかしくなかった。
叫んでも、石を投げても、不思議ではなかった。
だが少女は逃げなかった。
小さな手を震わせながら、それでも近づき、破れた布を裂いて傷口に当てた。
「……動かないで」
声は泣きそうで、それでも必死だった。
ポーションでも回復魔法でもない、ただの応急処置。それでも、オルトロスの二つの頭は同時に理解した――自分は、敵としてではなく、“傷ついた存在”として見られているのだと。
その時、胸の奥に何かが生まれた。
戦いが終わり、魔物たちが退いた後も、オルトロスは立ち去らなかった。
傷が癒えたあとも、少女の後を少し離れて歩き、夜になれば背を丸めて番をした。
眠る少女のそばで、二つの頭は交互に周囲を警戒し、二倍の注意で危険を遠ざけた。
自分は魔物だ。
街に災いをもたらす存在だと、誰もが言う。
それでも――
あの時、血に染まった路地裏で、手当てをしてくれた温もりだけは、決して偽りではなかった。
だから傍にいる。
だから守る。
それが、オルトロスにできる唯一の恩返しだった。
(……というわけで。出来れば旦那にも、ここにいる許可を頂けたらと思うんですわ。)
オルトロスはそういって語り終える。
(私の場合は……)
ヘルキャットにとって、街が蹂躙されていようが、炎と悲鳴が渦巻いていようが、正直どうでもよかった。
ただ退屈だったのだ。
「何か面白いことはにゃいかにゃぁ?」
そんな軽い気持ちで、他の魔物たちの後ろをふらふらとついて来ただけに過ぎない。
瓦礫の隙間で、泣き声がした。
傷だらけの少女たちが身を寄せ合い、血と埃にまみれながら震えている。
ヘルキャットはちらりと視線を向けただけで、すぐに興味を失った。弱いものが蹂躙される――よくある光景だ。
尻尾を揺らし、踵を返そうとした、その瞬間だった。
別の魔物が、少女たちの存在に気づいた。
濁った視線が獲物を捉え、涎を垂らしながら歩み寄る。
年かさの少女が、一歩前に出た。
震える腕を広げ、幼い少女を背に庇う。その背中は小さく、あまりにも無力だった。
――ああ、無駄にゃのに。
ヘルキャットはそう思った。
力の差は歴然。どんな覚悟を見せようと、未来は変わらない。
それなのに。
「……にゃんで?」
その疑問が、胸の奥に小さく引っかかった。
なぜ逃げない?
なぜ守ろうとする?
どうせ喰われるだけなのに。
その“わからなさ”が、ほんの少しだけ、退屈を押しのけた。
気づけば、ヘルキャットは動いていた。
魔物と少女たちの間に、するりと割り込む。
背中で、少女たちの息遣いを感じながら、牙を剥いた。
相手は格上だった。
一撃一撃が重く、炎も爪も容赦なく襲ってくる。
何度も吹き飛ばされ、体は裂け、血が地面に落ちる。
――それでも、引かなかった。
なぜか、少女たちのことを考えると、力が湧いた。
面白いから?
気まぐれ?
理由は自分でもよくわからない。
ただ、ここで退いたら、さっき抱いた疑問の答えを、一生知らない気がした。
吠え、爪を振るい、炎を吐く。
限界を超えた一撃で、ついに相手の魔物は怯み、唸り声を残して去っていった。
勝利だったのかどうかも曖昧なまま、ヘルキャットはその場に崩れ落ちた。
視界が暗くなり、意識が途切れる。
次に目を覚ましたとき、周囲には少女たちがいた。
泣きながら、必死に傷を押さえ、何かを話しかけている。
その光景をぼんやりと眺めながら、ヘルキャットは思う。
――悪くない。
退屈しのぎのつもりでついて来た先で、こんな気分になるとは思わなかった。
それが何なのか、まだ名前は知らない。
だが少なくとも、嫌な気分ではなかった。
(だから、この気持ちがにゃんにゃのか?分かるまでは、ここに居たいんだにゃぁ。)
「はぁ……。」
カズトはため息を吐く。
この街に魔物がいたからと言って何も問題はない。
なんといっても収めているのが魔王だからだ……なんちゃって魔王だけど。
問題なのは……街の人々の中では、いまだ魔物に対する恐怖があるってことぐらいか……。
「大丈夫ですよ、おにぃちゃん。しばらくはこのお屋敷から出ることもないですし、「魔王様の部下」という事にしておけば、街の人々とのトラブルも減ると思うよ?」
「まぁ、そうか……それより……。」
「なんですか?」
「ルミナス、お前本当に9歳か?長命種の血が混じっていて、本当はもっと年よ……ぶぐっ!」
ルミナスの拳が顔にめり込む。拳が小さい分、一点に力が集中していて、割とマジで痛い。
「おにぃちゃんは失礼です!レディに年の話はギルティですよ。後、私は正真正銘9歳ですからっ!」
―――9歳なのに大人顔負けに頭が回る。つまりそれでなければ生きてこれなかったという証でもある。
カズトは、ルミナスの頭を撫でる。
「なんですか、もぅ。」
「いや、可愛いなぁって。」
「もぅ……そういえば何でも許してもらえると思ったら大間違いですよ……まぁ、今回は許しますけど……。」
「ありがとうな。もし年齢詐称してるなら、今すぐエッチできるかと思って……。」
ゲシっ!
ルミナスの容赦ない蹴りが、カズトの腹をえぐる。
護身術をアリーナから習うって聞いていたけど……まだ習い始めたばかりだろ?なのにこの威力……。
カズトはその場に蹲る。外れていたが、彼女が狙っていたのは、明らかに下腹部の急所だ。この威力で蹴られていたら……、そう考えるだけで、カズトは身体の力が抜けていくのだった。
「そういうところですっ!おにぃちゃんはデリカシーが足らないのですよ。だからお姉ちゃんたちを怒らせてエッチが出来ないんですっ!いいですか、大体女の子というのはですねぇ……。」
使用人見習の少女たちが見守る中、ルミナスによるお説教は、小一時間に渡り続けられたのだった。
因みに、オルトロスとヘルキャットは、無事、少女たちの護衛兼ペットという事で屋敷内に滞在することを許された。
オルトロスは「オル」、ヘルキャットは「ニャァ」と名付けられ、少女たちを陰ひなたなく見守ることになった。
尚、後日、街中に、オルトロス率いる野犬部隊と、ヘルキャット率いる野良猫部隊が結成され、さらなる厳戒な警備体制が確立されていくのだが、それはまた別のお話。
PVも相変わらずなのに、なぜか日間でランクインしましたと言っても連載で192位。ファンタジー全体で292位とギリギリなんですけどね。
まぁ、Top10にでも入らなければ、目に留まることはないのだろうけど……
それでも感謝ですっ!!
後は、皆の目にとまるように画策を……
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