癒しを求めて その1
「なんで分かってくれないんだよぉ。」
「なんで分かってもらえると思ってるんです?」
カズトのボヤきに、ルミナスが呆れたように応える。
左隣ではリズが、ルミナスに同調するようにコクコクと頷いている。
執務室で、巫女や聖女の素晴らしさを語るカズトだったが、キレたシーラに「うるさいっ!」と追い出されたのだ。
「大体、おにぃちゃんは、女心というものが分かってないです。」
「ん、そうなのか?」
「そうです。ようやく、その……仲良しになれるときに、他の女の話題を出されたら、誰だって怒りますよ。」
「いや、だってさ…」
その発端は、カズトの「ハーレム要員を増やす」という宣言だったのだが――その言葉が場の空気を微妙に揺らしたのだが、話は思わぬ方向へ転がっていった。
あれこれと話し合う中で、エルはふと自分のこれまでを振り返り、ばつが悪そうに視線を逸らした。自分が独占欲のままに相手を振り回し、結果として他の子たちに距離を感じさせていたこと、その結果が、カズトのアホな発言だと、ようやく自覚したのだ。
「……やりすぎてた。反省してる。これからは、ほどほどにする」
そう口にしたエルの言葉は、軽いながらも確かな約束として皆に受け取られた。
その瞬間、カズトの表情がぱっと明るくなる。
(じゃあこれからは――)
アリーナやシーラの姿が頭に浮かび、ありもしない未来の光景が、雪だるま式に膨らんでいく。にやけそうになる口元を必死に抑えつつも、妄想は止まらない。
――そこまでは、まだ良かった。
だが調子に乗ったカズトが、再び例の単語を口にした瞬間、空気が凍りついた。
「聖女」と「巫女」。
それを聞いたシーラのこめかみに、わかりやすく青筋が浮かぶ。
「……いい加減にしなさい」
低く押し殺した声の次の瞬間、感情は一気に爆発した。
「頭を冷やしてこいっ! ばかぁっ!!」
乾いた音とともに背中を押され、カズトは為す術もなく外へ放り出される。扉が勢いよく閉まる音が、彼の現実をはっきりと告げていた。
廊下に一人取り残されたカズトは、一人呟く。
(……なんでだよぉっ!)
中から聞こえる小さな溜息と、エルの「自業自得だね」という声を背に、カズトはしばらく壁に額を預けたまま、静かに反省するのだった。
「……そうか。口であれこれ言う前に、自分で見つけてこい、という訳だな。」
「はぁ、おにぃちゃんは、なにも分かってないですねぇ。」
そう、呆れた声を出す、ルミナスの言葉を、カズトは、聞いていなかった。
「うーん、聖女といえば教会だよなぁ。……っていうか、この街に教会なんてあったっけ?」
そうルミナスに聞こうとして……、ルミナスが教会の孤児院にいたことを思い出す。
同時に教会の処遇について、アレコレ指示したことも。
「そう言えば、教会取り壊したんだったか。」
カズトのつぶやきにルミナスはコクンと頷く。
因みに、この会話をしている間に、リズは臭いにつられて食堂に行ってしまい、今はルミナスと二人きりだ。
「そう言えば、年頃のシスター見習いがいるって話だったな。」
ここに至って、カズトはシスターのアテがあることを思い出す。
見習いでも、シスターはシスターだ。聖女とまではいわないが、孤児たちの面倒を見ているぐらいだ。きっと優しくて十分癒してくれるだろう。
カズトの妄想が膨らんでいくが、そこに待ったをかけるルミナス。
「おにぃちゃん、悪いことは言いませんから、サラ姉はやめておいた方がいいです。」
「ん、サラちゃんっていうのか?可愛いのか?おっぱいは大きいのか?」
「サラ姉は可愛いですよ?でもおっぱいは私より小さいです。」
つい真面目に答えてしまうルミナス。
「な、なんだと……。」
ルミナスは9歳という年齢からしてみれば大きい方だ。しかし、身体が小さいこともあって、余計に大きく見えるのだが、サイズだけで見れば、15~6歳の少女の平均にやや満たないと思われる。
もっともルミナスは、まだ成長期に片足を踏み入れただけという事を鑑みれば、彼女の5年後、10年後は末恐ろしいものがある。
っと、話が逸れたが、要は、今のルミナスより小さいという事は、推定年齢16~7のサラという少女のおっぱいは、やや小さめという事になる。
「フム……しかし、おっぱいに貴賤はないのだよっ!それに孤児の面倒を見ているぐらいだ。きっと優しくて、性格もいいのだろう!そう、女の子は内面とおっぱいなんだよ!」
「おにぃちゃん……。」
流石のルミナスも、冷たい視線でカズトを見る。
「はぁ…………サラ姉はね、優しいよ。笑顔も柔らかいし、誰にでも平等に声をかける。でもね……腹黒いんだよ?」
ルミナスは、カズトの妄想に水を差すように告げる。
「えっと、あれはね、サラ姉が、食料調達のために、冒険者さん達と探索に行った時の事なんだけど……」
ルミナスはそう切り出して、少し困ったように笑った。
***
その日の狩りは上々だった。
獲物は想定以上、分配も公平。冒険者たちは満足そうに頷いていたし、サラもいつも通り、にこやかに礼を言っていた。
――表向きは。
サラは自分の取り分を袋に詰めながら、ふと視線を落とした。
孤児院の子供たちの顔を、頭の中で数えているような、ほんの一瞬の間。
「……十分、ですよね」
独り言みたいに、誰に向けるでもなく呟いたその声は、とても小さかった。
近くにいた冒険者の一人が、首をかしげる。
「ん? 何か言った?」
「あ、ううん。何でもないの」
サラは慌てて笑った。でも、その笑顔はどこか無理をしていて、視線は獲物の袋から離れない。
少し歩いた後、今度は別の冒険者が声をかけてきた。
「さっきから元気ないな。疲れたか?」
「そんなこと……ない、ですけど」
一拍、間が空く。
「ただ……孤児院の子、最近増えちゃって。あの子たち、よく食べるでしょう?」
言い切らない。
責めない。
お願いもしない。
「今の取り分でも、工夫すれば……きっと何とか」
そう言いながら、サラはぎゅっと袋を抱きしめた。
「私、回復と支援しかできないから。狩りもできないし、交渉も得意じゃないし……」
そこで、また言葉を切る。
「だから……今日は、私の分は食べないで、全部あの子たちに持っていこうかなって」
それを聞いた冒険者たちは、顔を見合わせた。
「いや、それは……」
「子供たちに全部? サラが食べなきゃ倒れるだろ」
「大丈夫よ。慣れてるから」
そう言って笑うサラの顔は、あまりにも健気だった。
――結果。
その夜、冒険者たちは妙に落ち着かなかった。
翌朝、誰かが言い出した。
「……なあ、今日の予定、半日空いてるよな」
「もう一狩り行くか」
「サラ、回復頼めるか?」
サラは、少し驚いたように目を丸くしてから、
「え? いいの……? 無理しなくて?」
そう言いつつ、断らなかった。
翌日の追加の狩りで、獲物はさらに増えた。
分配の時、冒険者の一人が言う。
「孤児院の分、多めに持ってけ。サラがいなきゃ、俺たちもっと怪我してたしな」
そう言いながら、多めに渡すリーダー。
それは、今回の収穫のほぼ7割ほどだった。多めというには多すぎるほどの量に、サラは冒険者たちの気遣いに涙ぐみ、心から感謝して頭を下げる。
「……ありがとう。本当に」
目を潤ませて礼を言うサラを、冒険者たちは気恥ずかしそうに見送った。
***
「ね?」
そこまで話して、ルミナスは肩をすくめる。
「サラ姉、自分から『もっとちょうだい』なんて一言も言ってないんだよ? でもさ」
焚き火をつつきながら、続ける。
「必要な情報を、必要な順番で、必要な温度で出す。相手が『放っておけない』って思うように」
「孤児院も救われたし、冒険者さん達も納得してる。誰も損してない」
一拍置いて、ルミナスは小さく笑った。
「でも――結果を想定してやってるんだから、やっぱり腹黒いよね」
「いいっ!」
ルミナスの話を聞いて、カズトは涙を流していた。
「感動したっ!よし、サラには「聖女」の称号を与えよう!」
「ちょ、ちょっと待って、おにいちゃん!大体称号を与えるなんてこと勝手に出来ないでしょうっ!」
「いいんだよっ!俺が決めたっ!女神が許さなくても俺が許すっ!」
「そんな無茶苦茶なぁッ!」
ルミナスの叫びが響く。
その時どこからともなく声が響いた。
『面白いですね。その願い、聞き遂げましょう』
「えっ、誰?」
ルミナスの誰何の声に応えるものは誰もいない。その代わり、前方から悲鳴のような声が聞こえてきた。
『魔王様の腹黒聖女』
そんな称号を、いきなりつけられた、サラの叫び声だった。
腹黒聖女様爆誕!
しかし惜しいっ!求めているのは清楚系ピュアな聖女様なのです
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