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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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続・魔王様のハーレム騒動 ~リーシア~

「じゃぁ、順番に話を聞いて行こうか?」

カズトがそういうと、最初に話し出したのはリーシア。

年上なだけあって、他の子にはない落ち着きを見せている。


「私には、幼馴染の婚約者がいました……」


その言葉は、あまりにも静かで、だからこそ重く胸に落ちた。

リーシアは視線を伏せ、指先をきつく組み合わせる。震えを押し殺すように。


彼とは物心つく頃から共に育ち、気づけば互いの隣にいるのが当たり前になっていたという。婚約も済み、結婚式の日取りさえ、ささやかながら決まりかけていた。未来は、疑う余地もなくそこにあるはずだった。


――前代官のハルゲルが、彼女に目をつけるまでは。


権力と欲望を当然のように振りかざし、リーシアを自分のものにしようとした男。

だがリーシアは屈しなかった。婚約者がいる、その一点だけでなく、何より彼女の誇りが、それを許さなかった。


その直後だった。

理由も曖昧なまま、婚約者に徴兵の命が下ったのは。


近くの街で起きた戦いは苛烈を極め、彼は帰らなかった。

戦死――そう告げられたとき、リーシアの中で、世界が音を立てて崩れ落ちた。


だが、悲嘆に沈む彼女に、現実は容赦なく追い打ちをかける。


彼の死後になって次々と「罪」の証拠が現れた。

横領、裏取引、身に覚えのない悪行の数々。

そして、それに付随する莫大な借金。

なぜかそのすべてが、彼とリーシアの名義で処理されていた。


泣き崩れる彼女の前に現れたのは、ハルゲルだった。


「借金の肩代わりをしてやる。条件は簡単だ。俺の愛人になれ」


それは救いの顔をした、二度目の絶望だった。

拒めば破滅、受け入れれば尊厳の死。どちらを選んでも、彼女に光はなかった。


しかし――運命は皮肉だ。

今回の戦争でハルゲルは敗れ、失脚した。彼の企みも、言葉も、責任も、すべてが曖昧なまま霧散した。


残ったのは、婚約者のいない現実と、返済のあてなどない借金だけ。


リーシアは顔を上げる。

涙はもう流れない。ただ、深い傷のような静けさが、彼女の瞳に宿っていた。


「……私にはもう、何も残っていないのです」


その声は弱々しく、それでいて、折れてはいなかった。

失うものをすべて失った者だけが持つ、かろうじて残った強さが、そこにあった。


すべてを失った日々の中で、リーシアはただ生き延びるためだけに息をしていた。

未来を思い描くことも、希望に縋ることも、もうできなかった。


そんな折――


『魔王様が、ハーレムを募集している。』


そんな告知を聞いた。

最初は荒唐無稽な話だと思った。

だが得られた情報は妙に具体的で、しかも公的に告知されている。

魔王は圧倒的な力を持ち、理不尽な存在だと言われているが、このシャガートの街に対しては穏健で、平等な政策を敷いている……不幸を断ち切り、忠誠を誓った者の問題をすべて「解決した」という。


――借金。

――奪われた人生。

――権力によって踏みにじられた尊厳。


それらすべてを、魔王様なら覆せるのではないか。


胸の奥に、消えかけていた感情が、かすかに灯る。

それは希望というにはあまりに冷たく、決意というにはあまりに悲しかった。


「……魔王様であれば」


誰に向けるでもなく、リーシアは呟いた。


もし代価が自分自身なのだとしたら。

その身を差し出すことを求められるのだとしたら。


――構わない。


愛する人はもういない。

守るべき家も、誇りも、未来も奪われた。


残っているのは、この身一つだけ。


それすらも価値があるのなら、喜んで捧げよう。

すべてを失った自分が、誰かの役に立てるのなら、それでいい。


そう思ったとき、リーシアの心は、不思議なほど静かだった。

恐怖も、ためらいもあったはずなのに、それ以上に「もう失うものはない」という事実が、彼女を前へ押し出していた。


こうして彼女は、魔王の募集に応じた。

救いを求めたのではない。


自分という存在を、最後に使い切るために。


それが、リーシアがこの場に立っている理由だった。



「だから、魔王様が、何も残っていない私でも、求めてくださるのならば、すべてをささげても構わない、と思ったのです。」

そう言って話を締めくくるリーシア。


……重い、重すぎるっ!

なんなのこれっ!俺にどうしろとっ!

余りにも重いリーシアの話にカズトがパニックを起こしかける。 

ただ、流石のカズトでも、ここで「いやぁ、おっぱいが見たかっただけだから、もうお引き取り下さっていいですよー」などとは言えないという事だけは理解していた。


(おにぃちゃん、落ち着いて)

頭の中に、ルミナスの声が響く

(え?ルミナスか?どうなってるの?)

(私の力の応用だよ。短時間なら、こうして内緒話が出来るんだよ。)

(なるほど、便利だな。)

(うん。でね、一応補足だけど、あのお姉ちゃん嘘はついてないよ。だけど、すべてを諦めきっている感じ。だから、ここでお兄ちゃんが「帰れ」って言ったら大人しく帰ると思う……ただ……)

ルミナスが口ごもる。

うん、言われなくてもわかる。

世界のすべてに絶望しきった人が、最後の望みを絶たれたら、いきつくところは決まっている。そして、それは非常に後味が悪いものだという事も……。


「リーシア。事情は分かった」


カズトは、低く、しかしよく通る声を意識しながらそう告げる。


「そのうえで、俺様のモノになろうという心がけは立派だ」


リーシアは思わず息を呑む。

評価されるとは思っていなかった。ただ利用され、値踏みされるだけだと覚悟していた、本当のことを話せば放り出されるかもしれないとさえ思っていたからだ。


だが――次の言葉が、彼女の心を強く揺さぶった。


「しかし、そこに『愛』はあるのか?」


その問いかけに、リーシアははっきりと驚いた表情を浮かべた。

目を見開き、言葉を失い、唇がかすかに震える。


―――あまりにも唐突だったか?

でも、俺を好きだと思ってくれる女の子じゃないとなぁ。義務的にエッチに応じてもらっても萎える気がするし……っていうか、それ以前にエッチさせてもらえないんですけどっ!

そう考えれば、義務的でもエッチできるならいいかもしれない、などという考えが頭によぎる……と同時に、隣のルミナスがカズトの脇腹をつねる。

(おにぃちゃんのばぁか。)

ついでに念話で文句まで言う……うん、ほんと便利ですねぇ、その能力。



愛。

魔王カズトから告げられたその言葉は、リーシアにとってあまりにも久しく、あまりにも遠いものだった。


胸の奥に、幼馴染と過ごした日々が一瞬だけ蘇る。

温かな記憶と同時に、鋭い痛みが走り、リーシアは視線を伏せた。


「……分かりません」


正直な声だった。

最初はそれしか出てこなかった。


「正直に申し上げます。今の私には、愛を語る資格などないと思っています」


失ったものが多すぎて、心はひび割れたまま。

誰かを想う余裕も、信じる自信もない。


けれど――


リーシアはゆっくりと顔を上げ、カズトを真っ直ぐに見つめた。

その瞳には、先ほどまでになかった、微かな光が宿っている。


「ですが……」


一度、言葉を区切り、深く息を吸う。


「もし、魔王様が私を必要とし、この身を受け入れてくださるのなら……」


指先を胸の前で重ね、震えを抑えながら、はっきりと告げた。


「愛せるように、努力いたします」


それは情熱的な愛の告白ではなかった。

けれど、自ら逃げ道を断った、誠実な覚悟の言葉だった。


「最初から愛があるとは言えません。でも、与えられた居場所の中で、魔王様を知り、理解し……」


そして、小さく、しかし確かな声で続ける。


「いつかそれが『愛』と呼べるものになるよう、私は自分の心から逃げません」


リーシアは深く頭を下げた。

カズトに差し出されたのは身体だけではない。砕けたままの心ごと、差し出すという決意。


玉座の間に、静寂が落ちる。

その沈黙は、彼女の答えの重さを、確かに物語っていた。

お姉さん登場



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