ルミナス
物心ついた時、世界には私しかいなかった。
親の顔なんて知らない。声も、温度も、匂いも。
最初から存在しなかったものなど知るはずもなかった。
私は気づいた時にはスラム街で暮らしていた。
なぜそこにいるのか?どうしてそこにいるのか?そんなことはどうでもよかった。というより考えている暇などなかった。
瓦礫と泥と腐臭に満ちた路地で、誰もが自分の生に必死で、他人の死になど目もくれない。
生きるためなら、なんでもやった。
残飯を漁り、泥水をすすることさえ、ためらいはなかった。
恥という感覚は、腹が満たされて初めて生まれる贅沢だと、どれほどの者たちが知っているのだろう?
世界は冷たく、そして一貫していた。
弱いものは奪われ、倒れたものは踏み越えられる。
それが当たり前で、だから疑いもしなかった。
ある日、街中で、初めて『奴隷』という、最低の身分の人を目撃した。
誰もが、”奴隷”を哀れで惨めだと蔑む。
だけど、私は違った。
奴隷?いいじゃないか。少なくとも、飢えて死ぬなんてことはないんだろ?
この時の私は、奴隷の人たちを”羨ましい”という目で見ていたのだった。
五歳の時だった。
盗みが見つかり、路地裏で制裁を受けていた。
殴られて、蹴られて、視界が赤と黒に滲む中で、「ああ、ここで終わるんだ」と感じる。
それも、ま、いっか……そう思った瞬間――
一人の少女が、ボクの前に立った。
細い体で、大人たちを必死に止めていた。
震えているのに、逃げなかった。
その少女の声は、スラムには似合わないほど、まっすぐで、優しかった。
彼女は教会で、孤児院の手伝いをしている見習いだった。
その日から、私は孤児院で暮らすことになった。
最初は信じなかった。
屋根のある部屋も、温かい食事も、理由もなく差し出される優しさも。
いつか裏切られると、ずっと身構えていた。
経営者のシスターは、静かで、強い人だった。
見返りを求めず、ただ「ここにいていい」と言ってくれた。
そして、あの日私を救ってくれた見習いの少女は、毎日笑顔で話しかけてくれた。
その優しさは、刃物よりも厄介だった。
拒もうとするたび、心の奥に触れてくる。
気づけば、硬く閉ざしていた心は、少しずつ、音を立ててほどけていった。
世界は、冷たいだけじゃない。
そう思ってしまった時点で、もう戻れなかった。
それが――
ルミナスという存在が、生き方を変えた、最初の光だった。
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孤児院での生活は、穏やかだった。
朝は祈りの声で始まり、昼は笑い声が廊下を満たし、夜は小さな寝息が重なっていく。
かつてのスラム街とは、まるで別の世界だった。
成長するにつれて、私には少しずつ“見えてくるもの”が増えていった。
シスターの衣服はいつも同じで、繕った跡が増えていくこと。
食事の量が、季節や寄付の有無で微妙に変わること。
見習いのお姉さんが、夜遅くまで帳簿を見つめている背中。
――この場所は、決して裕福じゃない。
それでも二人は、そのことを孤児たちに悟らせない。
笑顔で接し、叱るときはきちんと叱り、抱きしめるときは迷いなく抱きしめる。
その優しさが、どれほど無理を重ねた上に成り立っているのか、
分かってしまったからこそ、胸が苦しくなった。
「孤児院のために、何かしたい」
そう思うようになるのは、自然なことだった。
働いて、お金を稼いで、少しでも役に立てたら。
そう願っても、現実は冷たかった。
まだ幼い私に、できる仕事なんてほとんどない。
力も、技術も、信用もない。
そんな時、外の世界――スラム街の空気が、ふと頭をよぎった。
あそこで生きていた“お姉さんたち”は、
「簡単にお金を得る方法がある」
そんな言葉で、私に声をかけてくれる。
それがどれほど危険で、どれほど自分を壊す道なのか、詳しく聞かなくても、直感的に分かってしまった。
踏み出せなかった。
怖かったし、何より――
シスターや、あのお姉さんが悲しむ顔が、はっきりと浮かんだ。
役に立ちたいのに、方法が分からない。
何もできない自分が、もどかしくて、悔しくて。
夜、布団の中で天井を見つめながら、何度も考えた。
どうすれば、この優しい場所を守れるのか。
どうすれば、自分は“ただ守られるだけの存在”でなくなれるのか。
答えは、まだ見えなかった。
けれどその悩みこそが、ルミナスが“誰かのために生きよう”とし始めた証だった。
◇
「そんな時だったよ。争いが起きて、街が滅茶苦茶になって……。でも、落ち着いたら配給があって……それがいつもより多くてね。なんでだろうって思ったの。仏なら、あれだけの騒ぎで、街中が滅茶苦茶になっていたら、孤児院なんてだれも見向きもしない。それどころか、あの騒ぎで、孤児が増えて、お姉さんなんか、その身を売るとまで言いだしてたのに……。」
その時のことを思い出したのか、ルミナスが涙ぐむ。
「だから私は色々調べたの。そうしたらすべては新たな支配者「魔王様」の意向だっていうじゃない。さらにはハーレムを募集しているって。どうせ身体を売るなら、見知らぬ大勢の男を相手にするより、絶対権力者一人を相手にする方がいいでしょ?それに私には、《《この力》》があるし、これを駆使すれば、少なくとも悪いようにはならないと思っていたしね。」
そう、割と強かな考えをしてたことを明かすルミナス。
笑ってはいるが、その瞳には真剣な光が宿っている。
「だからね、私の”お願い”は、孤児院を守ってくれること。裕福な暮らしなんて贅沢は言わない。でもシスターやお姉さんが無理しなくても食べていけるだけの最低限の保証が欲しい。そのためなら私は何でもするから。」
ルミナスがそう訴えてくる。
「あのなぁ、女の子が”何でもする”なんて口に出さない方が……」
「わかってるよ。もちろん、おにいちゃんが考えているようなことも含めて”何でも”するんだよ」
そう悪戯っぽく笑いながら言うルミナス。だけどその目は笑っていない……それだけ真剣だという事だ。
「ふむ……だが断る!」
カズトがそう一言いうと、周りがざわめく。
あのエルでさえ、非難の視線を向けてくるのだから余程だ。
「それは別として、その孤児院のお姉さんのおっぱいは大きいか?」
「あ……うん。エル様ほどじゃないけど、おにぃちゃん好みだとは思うよ♪」
ルミナスがすべてを理解した、というように笑顔になる。
―――はぁ、心を読むスキルというのは厄介だな。
「マイ。この屋敷のメイドを増員だ。教会に手が空いている娘たちがいるらしいから、そこから攫ってこい。素人だけど、ミィが教えれば何とでもなるだろ?あー、そうなると住む場所も必要だなぁ。屋敷の離れが空いていたよな?」
マイはすぐにその意味することを理解すると、くすくすと笑いながら、「任せてください、マイロード」といって出ていく。
「それから、シーラ。どうやら、この町中に教会という名の廃墟があるらしい。そんな邪魔なものはさっそく取り壊して、別の建物を建設せよ。……そうだなぁ、この屋敷の人手も必要になるし”託児所”なんかがいいな。教会がなくなればシスターも暇になるだろうし、手伝わせればいい。」
「はいはい、「魔王様」は大変ですねぇ。」
シーラもくすくすと笑いながら、手配のために部屋を出ていった。
そして、一人だけ理解していないアリーナが首をかしげている。
「えっと、どう言うこと?」
そんなアリーナに、エルが呆れた声で説明をする。
「つまりね、簡単に言うと、マイに言ったことは「孤児院の年長者をこの屋敷の住み込みで雇う。」ってことで、シーラに言ったことは「孤児院を建て直して街の予算で運営しろ」ってことよ。」
「なるほど、さすがご主人様。」
アリーナが手放しでほめる。
そんな様子を見ながら、ルミナスがぎぎゅっと空きついてくる。
「ありがと……魔王様。私、ルミナス、生涯かけて、身も心もささげることを誓います……だから、よろしくね……おにぃちゃん♪」
「あー、その……まぁ、そういうことだ。」
―――ルミナス相手なら、ロリコンの称号も受け入れざるを得ない。
カズトが、何度目かの敗北を認めた瞬間だった。
―――しかし、エル、シーラに続いてルミナスにまで負けを喫するなんて……最近ではアリーナにも勝てる気がしない……
俺のハーレム、何かが間違っている……そう思うカズトだった。
ロリです。
異世界なら、合法非合法関係ないよね?
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