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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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34/51

魔王様のハーレム騒動 後編

シュン――空気を裂く鋭い音が走った。


反射的にカズトは身を投げ出す。だが、完全には避けきれなかった。

冷たい何かが腕をかすめ、次の瞬間、皮膚に焼けつくような違和感が走る。


「……っ!」


床に着地したカズトの背後で、乾いた余韻だけが残った。


「もうおしまいだよ」


静かな声だった。幼さを残したその声が、逆に異様な重みを帯びて部屋に落ちる。

暗がりの奥から、一人の少女が姿を現す。小柄な体、不釣り合いなほど冷え切った瞳。

彼女の指には、いつの間にか小さな吹き矢が握られていた。


「それにはね、大型の魔物ですら一歩も動けなくなる猛毒が塗ってあるんだ」


少女は楽しそうに、噛み砕くように言葉を並べる。


「ほんの少しでも、かすった時点で終わり。もう助からないよ」


カズトの腕から、じわりと血が滲む。

同時に、指先から感覚が薄れていくのがはっきりと分かった。力を込めようとしても、筋肉が応えない。


――毒か。


理解した瞬間、少女の笑い声が弾けた。


「くす……あははっ」


勝利を確信した、無邪気で残酷な笑い。

その声が、逃げ場のない部屋の中で何度も反響する。


カズトは歯を食いしばり、膝が崩れ落ちるのを必死にこらえた。

時間は、確実に彼女の味方だった。


「はいはい、そこまで」


張りつめていた空気を、場違いなほど落ち着いた声が切り裂いた。

いつの間にか――本当に、気配すら感じさせずに――エルがそこに立っていた。


次の瞬間だった。


「っ!?」


暗殺者の少女が声を上げる暇もなく、背後から影が重なる。

アリーナの腕がしなやかに絡みつき、関節を極め、そのまま床へと押さえ込んだ。

乾いた音とともに、吹き矢が少女の手から転がり落ちる。


「離せっ……!」


少女の抵抗は短く、無力だった。

アリーナは無言のまま、完全に動きを封じる。


その光景を横目に、カズトは大きく息を吐いた。

緊張がほどけたせいか、膝に力が入らない。


「……エルか……」


かすれた声で笑い、壁に手をつく。


「いままで、ありがとな。できれば……シーラの手助けを……」


言葉を紡ぐたび、意識が遠のく――はずだった。

猛毒を受けた以上、もう時間がない。そう思っていた。


だが。


「いつまでやってるの」


呆れきった声が、真上から降ってくる。


「……いや、だって……猛毒……」


必死に絞り出した言い訳に、エルは肩をすくめた。


「そんなの、あなたに効くわけないでしょ?」


エルはため息まじりに続ける。


「私が今まで、どれだけ状態異常薬を使ってきたと思ってるのよ。毒、麻痺、呪い、混乱……実験台にされた回数、覚えてる?」


「へっ……あ……」


言われて、カズトはようやく気づく。

腕を見下ろす。確かに傷はある。だが――


苦しくない。

息も乱れていない。

身体は、普通に動く。


先ほどまで感じていた痺れも、いつの間にか消えていた。


「……ああ、そういうことか」


知らないうちに積み重ねられた“慣れ”。

夜のひと時……「マンネリはつまらないでしょ?」というエルの容赦ない言葉により、色々と付き合わされた日々。中には状態異常薬を使ったプレイなども数多くあったのだ。それらの《《お遊び》》の果てに、状態異常への耐性が、身体に染みついていた……らしい。


「まったく……人騒がせなんだから」


エルは呆れながらも、どこか満足そうに微笑った。


床では、アリーナに押さえつけられた暗殺者の少女が、信じられないものを見る目でカズトを睨んでいた。

勝利を確信していたはずの笑い声は、もうどこにもなかった。



「それで……この娘が?」


カズトがそう言って視線を向けると、ソファーに座っていた少女が立ち上がる。

そして、一切の怯えも見せず、きちんと背筋を伸ばして頭を下げる。


「ルミナスと申します。魔王様」


澄んだ声だった。幼い喉から発せられたとは思えないほど、落ち着き払った響き。


顔を上げたその姿を見て、カズトは一瞬、言葉を失う。


――幼女だ。


見た目はどう見ても九歳前後。

小柄な体に、華奢な手足。だが、その体つきは不自然なほど無駄がなく、均整が取れている。

唯一不自然なのは、その胸。既に“完成”へ向かっているのが分かる。なのに、まだ”成長途中”なのだ。……将来が末恐ろしいとはこのことを言うのだろう。


そのほかに気を引いたのは、その目だ。

年相応の無邪気さはそこになく、代わりにあるのは状況を即座に測り、最善手を探る冷静さ。

視線が、無意識のうちに部屋全体と人物配置をなぞっている。

いったいどのような育ち方をすればこのような視線を持つことが出来るのだろうか?


「……九歳、だっけか」


カズトの呟きに、ルミナスは小さく頷く。


「はい。年齢は九です」


否定も、言い訳もない。

それが“事実”であり、“問題ではない”とでも言うような態度だった。


エルが横から補足する。


「この子、ただの幼女じゃないわよ。頭の回転が異常にいいし、索敵と分析系のスキルも持ってる……そして他にも……ね?」


その言葉通り、ルミナスの能力は尋常ではなかった。

ハーレム募集という名目で集められた少女たち――そのほとんどが、身分や目的を偽った暗殺者であること。

しかも、複数の勢力が入り混じっていることまで見抜いていた。


そのことに関し、独断で動くことはせず、最短で最適解を出せる人物――それが、表立って仕切っていたシーラではなく、横で傍観者然としていたエルだと見ぬいて、さりげなく接触し、知らせたのだ。


「判断基準は?」


カズトが問うと、ルミナスは一拍置いて答える。


「殺気の出し方、身体の使い方、スキル構成です。一般人を装っていても、積み上げた“癖”は消えません」


淡々と語る内容が、あまりにも重い。


「……それで、お前の目的は?」


問いかけに、ルミナスは再び深く頭を下げた。


「許されるなら魔王様と契約を。私がハーレムに入る代わりにお願いを聞いていただけたら、と。」


幼い外見とは裏腹に、その言葉には一切の迷いがなかった。

生き延びるために刃を取り、考え、選び続けてきた者の覚悟。


カズトは、ため息とも笑いともつかない息を漏らす。


「……とんでもないのが来たな。詳しく、話を聞こうか?」


ルミナスは、わずかに口元を緩めた。

それは、ようやく“正しく評価された”ことを理解した、子供らしい――ほんの一瞬の表情だった。



「まず、ハーレム入りを希望というが……さすがに「ロリコン」の汚名を被る気はないぞ?」

カズトの言葉に、ルミナスはにこっと微笑む。

「でもぉ、私のおっぱい、じっと見てたでしょぅ……《《おにぃちゃん》》♪」

小悪魔っぽい笑みを浮かべるルミナス。

「そ・れ・にぃ・……ヒカルゲンジケイカク、ですかぁ?”男の夢”なんですよねぇ?私ちょうどいいと思ませんかぁ?」

「ど・ど・ど・どこでそれを……」

一瞬考えてしまったことを、即座に言い当てられ、カズトは動揺する。

「私ぃ…おにぃちゃんの望むこと……なんでもできる……よ?」

カズトの腕をとり、その幼女とは思えないふくよかなふくらみに引き寄せながら、上目遣いで見てくるルミナス。

明らかに計算づくだとわかっていても抗えないその魅力……


……ん?計算??

ふと、カズトの思考の片隅が冷静になる。


―――なぜ、初対面の女の子が、「おにぃちゃん」などと馴れ馴れしく呼ぶ?寸前まで「魔王様」といっていたじゃないか?

―――俺が「おにぃちゃん」と呼ばれるのに弱いことを知っている?

―――それになりより、ヒカルゲンジケイカク……「光源氏計画」のことを、《《異世界人が》》知っているわけないだろ?


―――となると、ルミナスも……転生者?


「くすくす、違いますよぉ。」

《《俺の考えを読んだように》》、ルミナスが笑う。

「あ、そろそろ気づきましたかぁ?」

ルミナスの悪戯めいた視線を受けながら、カズトは言葉を紡ぎだす。

「人の心を読むスキル……。」

「くすくす……まぁ、正解にしておきますね。どうですか?私はお役に立てると思いませんか?……お買い得だと思うのですけどぉ?」

そう言いながら、さらに身を寄せてくるルミナス。


すでに答えは出ていたのだった。


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