魔王様のハーレム騒動 前編
室内に一瞬の静寂が落ちた。
「ウソ……でしょ?」
エルは目の前の光景を前に、言葉を失っていた。
簡素な部屋の中にずらりと並ぶ名前の書かれた用紙、その数――三十。
カズトが冗談半分(本人はかなり本気)で告知したはずの「ハーレム募集」に、まさかこれほどの人数が集まるなど、誰が想像しただろうか。
「ふっ、これが俺の魅力だ」
腕を組み、口元に自信満々の笑みを浮かべるカズト。
その態度が、エルの神経をさらに逆なでした。
「何かの間違いよぉっ!」
エルの叫びが室内に響き渡り、壁に反射して返ってくる。
頭を抱え、信じられないとばかりに何度も首を振る彼女の横で、カズトはどこ吹く風といった様子だ。
「とりあえず、内庭に集まってもらっているけど……どうします?」
シーラが困惑を隠しきれない様子で尋ねてくる。
彼女としても、まさかあんな告知にこんなに人が集まるとは思ってもいなかったのだ。
「そうだな。まずは俺が声を掛けよう。その後は面接だな……ウヒヒ……。」
カズトは鼻の下を伸ばして下品な笑い声をあげる。
「キモっ!」
エルの罵声も気にならない。
ハーレムだぁ、ハーレムだよおっ!
カズトの頭の中はこの後の桃色妄想でいっぱいだった。
◇
バルコニーから内庭を見下ろすと、呼びかけに応じて集まった女たちの姿が広がっていた。この国では十五をもって一人前とされるため、列の大半を占めているのは、すでに成人の年齢に達した十五から十八ほどの少女たちである。
緊張と不安の中、わずかに見え隠れする期待をないまぜにした眼差しが、石畳の上に揺れていた。
だが、その顔ぶれは決して一様ではない。
人波の中には、二十代半ばに差しかかったであろう妙齢の女性もおり、年輪を重ねた落ち着きが周囲と一線を画している。また一方で、まだ十にも満たぬ幼い子どもの姿も見受けられる。
二十代のお姉さんはともかくとして、なぜ子供、というか幼女が?と、カズトは困惑するものの、彼女らに聞こえるように拡声の魔道具を使って声をかけることにする。
「ようこそ、魔王城へ!我は君たちを歓迎する!」
その芝居がかった宣言が終わるや否や、エルは一拍置いてから――
「ぷっ……!」
必死にこらえようとしたらしいが、口元がひくりと震えた次の瞬間、堰を切ったように笑いが漏れ出した。
「ま、魔王城だって……っ、あははっ!」
肩を小刻みに揺らし、片手で口を押さえながらも、笑いは止まらない。ただの立派な屋敷――せいぜい少し古風なだけの建物を前にして、あまりにも堂々と「魔王城」などと言い放ったのが、完全にエルのツボに入ったらしい。
カズトは気にも留めず、続けて少女たちへ語りだす。
「恐れることはない。我が主だ。故に我が許す、好きに寛ぐがよい」
その一言が放たれた瞬間、エルはとうとう耐えきれず、膝に手をついて前屈みになった。
「だ、だめ……っ、その言い方……! 主って……あははは!」
カズトが重々しく腕を組み、顎を引いて威厳を演出するたびに、エルの笑いは加速していく。
「我が城」「我が配下」「我が領域」――一語一語が、まるで狙い澄ましたかのようにエルの笑いの急所を正確に撃ち抜いていた。
「もう……真面目な顔で言うから余計に……っ!」
涙目になりながらそう言っても、次のカズトの台詞を聞いた途端、また「ぷっ」と吹き出す。
どうやらこの“自称魔王”の語り口は、しばらくエルの腹筋を容赦なく攻め続けることになりそうだった。
――――――もう、いいよ。
笑い転げるエルを放置して、俺は少女たちに告げる。
まずは、脱げ!と。
カズトが淡々と告げた一言は、内庭の空気を一瞬で凍りつかせた。
「えっ!?」
真っ先に声を上げたのはシーラだった。驚きが怒りに変わるまで、ほとんど間はなかった。
「な、何バカなこと言ってるのよ!」
眉を吊り上げ、一歩前に出るその様子は、完全に臨戦態勢だ。
お嬢様育ちなだけに、反応の仕方も常識的だった。
その隣でエルは、額に手を当てて深いため息をつく。
「……時と場所を考えなさい。いきなり脱がせるなんて、ロマンのかけらもないわよ」
……エロサキュバスとは思えない言い草に、カズトは少し頭を抑える。
呆れた声色には、カズトの発言そのものよりも“言い方”への失望が滲んでいる。
内庭では、どうしていいかわからず一気にざわつく中、マイが収拾を図っている。
「それが……ご主人様のご命令です。従えないというのであればおかえりください。」
一瞬の迷いもためらいもなくそう告げる姿に、数人の少女たちが踵を返し屋敷の庭を去っていく。残った少女たちは、躊躇いながらも、ゆっくりと一枚ずつ衣類を脱ぎ始める者もあらわれる。
その様子を見たシーラが「いますぐ止めさせなさい」と憤るが、それを意外にもアリーナが止める。
「でも、理屈としては間違ってないと思うわよ?」
「理屈!?」とシーラが噛みつく。
「ほら、武装を隠しているかもしれないし。これからカズトとじかに顔を合わせるんでしょ?相手の武装解除と安全確認は基本でしょ?」
その言葉が聞こえたのか、内庭の少女たちは顔を見合わせ、困惑を深める。
疑われていることへの戸惑いと、状況の異様さへの不安が入り混じり、誰もが動けずにいた。
一方、部屋の中――事情を聞いていたメンバーもまた混乱の渦中にあったが、ただ一人、騒然とする内外を前に、カズトだけが真顔のまま腕を組む。
「……過剰反応だ。」
アリーナの言う通り、武装解除なんだよ。
「俺はただ、おっぱが見たいだけだっ!」
「「「………」」」
室内が静まり返る。
……あ、本音と建て前間違えた。
しかし、すべては後の祭りだった。
・
・
・
「じゃぁ、順番に入れてくれ。」
応接用のソファーとベッドだけが置かれている、《《専用の面接室》》に坐した俺は、マイにそう告げる。
隣の部屋では、あの騒ぎの中でも残ったハーレム入りを望む少女たちが23人待機している。
これから彼女たちとの面接を行うのだ。
彼女たちはこの面接室に入り、衣服を全部脱いでからソファーに座ることになっている。
女の子を脱がす必要性がない、と主張するシーラに対し、安全確認の面からやむなし、と考えるアリーナと、そもそも、ハーレム要員の募集なんだから、身体を見せてもらうのは当たり前だと主張するカズト。
最終的にはシーラが折れ、面接室の中では全裸、という事で落ち着いたのだ。
そして一人目が入ってくる。
ストロベリーブロンドというのだろうか?赤みがかった金髪が緩くウェーブがかかり、歩くたびにふわりと揺れる。
彼女は扉を閉めるとゆっくりと、一枚ずつ衣類を脱いでいく。計算なのだろうか?その様子が一々色っぽさを演出しているようにも見える。
恥ずかしいのか、顔を伏せ、後ろを向く少女。
そのまま胸当てを外すため、少しかがんで後ろ手で留め金を外そうとする。
その様子を見ているカズト。
――――――見えそうで見えない、だとっ!
後ろ向きで少しかがむことで、ミニスカートのが見えそうで見えない状況を作り出している。
さらには、胸当ての留め具がなかなか外れないのか、少女が身じろぎするたびにスカートが翻り、さらなるちらリズムを煽る。
カズトは気にしてないふりをしながら、視線はスカートに注がれていた。
―――クソッっ!、あと少しなのに……
カズトは見えそうで見えない焦らしに堪えかねて身を少し屈める。
もう少し視線が低ければ見えると思ったからだ。
シュンっ!
その瞬間、先ほどまで、カズトの頭があった場所を何かが通り抜ける……。
時が止まった気がした……。
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