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魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


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演習 6

血煙と咆哮が渦巻く戦場で、鉄と肉がぶつかり合う音が連なった。

先頭を走る重装歩兵が盾を前に押し出し、衝突の瞬間、魔物の牙と爪を受け止める。その背後から、長槍が林のように突き出され、黒い体躯を貫いては引き抜かれた。


「間を詰めろ! 後退するな!」

指揮官の怒号が響くたび、隊列はさらに密になり、波のように前へ前へと押し寄せる。


傭兵たちは隙を逃さない。盾の陰から躍り出て、斧が唸り、剣が閃いた。冒険者たちはそれぞれの技を解き放つ。火球が弧を描いて炸裂し、氷の刃が地面を走って魔物の脚を凍らせる。呻き声と共に倒れ伏す影が、次々と地に沈んでいった。


しかし、魔物の群れも黙ってはいない。後方から押し寄せる巨体が前列を押し潰そうとし、異形の咆哮が恐怖を煽る。東門の石壁が震え、砂埃が舞い上がった。


その時――

「今だ、門を開けろ!」

合図と共に、城門上の滑車が軋み、重厚な扉がわずかに開く。内側から冒険者たちが雪崩れ込み、戦線に新しい力が注ぎ込まれた。


勢いは止まらない。

人の波は刃となり、ついに魔物の陣形を切り裂く。東門前の地面は、勝敗を告げるかのように、血と魔力の残滓で赤黒く染まり始めていた。



戦局は有利だ。もはや勝利は誰の眼にも疑う余地はない。

勝利の歓声が喉元までせり上がった、その瞬間だった。


どぉぉぉんっ!!!

大地そのものが殴りつけられたかのような衝撃が走り、東門前の兵たちは思わず足を止める。城壁の石が軋み、遠くで悲鳴が重なった。


「な、何だ……?」

ざわめきが広がる中、息を切らした伝令が人波を掻き分けて駆け込んでくる。その顔は血の気を失い、声は震えていた。


「ほ、報告! 北門が――北門が破られました!」


その一言で、空気が凍りつく。

確信していたはずの勝利は、音を立てて崩れ去った。


「馬鹿な……北門には勇者姫が――」

誰かの呟きは、魔物の咆哮にかき消される。遠く北の方角から、異様に低く、腹の底に響く唸り声が波のように押し寄せてきた。


逃げ始めていた魔物たちが、ぴたりと動きを止める。

そして――まるで合図を受けたかのように、ゆっくりと振り返った。


「……囮、だったのか」

指揮官の歯が、ぎり、と鳴る。


東門で押し返されることを前提に、主力は北門へ。

今この瞬間、街の内側へと、魔物の本隊が雪崩れ込んでいるかもしれない。


「全隊、気を引き締めろ!」

指揮官は剣を高く掲げ、叫んだ。

「戦いは終わっていない! ここで崩れれば、街は終わりだ!」


勝利の兆しは、絶望へと反転した。

シャガートの街を賭けた戦いは、今まさに第二幕へと突入しようとしていた。



夜空を裂くような戦場の喧騒を見下ろし、エルは静かに息を吐いた。

炎と血、恐怖と希望が入り混じる地上は、もはや流れが決まっている。


「勝負あったわね」


その声には、感慨も哀れみもない。ただ事実を告げる冷静さだけがあった。

北門が破られ、街の内部へ侵入した時点で、防衛側の敗北は避けられない。どれほど勇敢でも、どれほど奮戦しても、戦は全体の流れに逆らえない。


隣を飛ぶシリルが、地上を一瞥してからエルを見る。

「……街の人間は、まだ抵抗を続けてるみたいだけど」


「ええ。でも、もう“戦争”じゃないわ。これは掃討戦」

エルは淡々と言い切り、視線を北門の奥――混乱に包まれた市街地へと向けた。


「シリル、あなたはリラのところへ」

彼女は指示を飛ばす。

「戦闘終了を告げてきて。すでに時間は過ぎてるわ」


「了解」

シリルは一度だけ頷くと、翼を打ち、鋭く高度を下げていく。勝利できたと安堵しているであろうリラの姿が、彼女の脳裏に浮かんだ。


エルはその背を見送ることなく、進路を変えた。

「私はシーラのもとへ向かうわ」


中央の館にある指揮室――最も混乱し、最も重要な場所。

そこにはきっと、指揮を執り、最後まで抗おうとする者がいる。そして、その中心にいるのがシーラだ。


雲を切り裂くように、エルの身体が加速する。

下方では、街の灯りが一つ、また一つと消えていく。


「役割は、もう終わり」

そう呟いたエルの瞳には、戦場全体を支配する者の冷たい光が宿っていた。


シャガートの街をめぐる戦いは、終局へ。

残るのは――誰が生き残り、誰がその終わりを受け入れるか、ただそれだけだった。



「戦いは終わりよ。」


音もなく現れたエルの声に、部屋の空気が一変した。

剣に手を掛ける者、魔力を練り始める者。室内にいた護衛や参謀たちは、一斉に警戒を強め、半歩ずつエルを囲む。


だが――

「……終わり、ですか」


かすれた声でそう呟いたシーラは、張りつめていた糸が切れたように、膝から崩れ落ちた。重責と緊張に耐え続けてきた身体は、もはや立っていることすら許されなかった。


「何を座り込んでいるの」

エルは冷ややかに、しかし強い声音で言い放つ。

「あなたはこの街の支配者でしょう。戦いが終わったからといって、役目まで終わったわけじゃない」


その言葉に、シーラの肩がびくりと震える。


「街は傷だらけ。人も、心もね」

エルは一歩近づき、視線を合わせる。

「ここからが本当の戦いよ。立ちなさい、シーラ」


ゆっくりと、シーラは歯を食いしばり、床に手をついて立ち上がった。

その目には、まだ涙が残っている。それでも――逃げない意志が宿っていた。


「……皆さん」

シーラは室内の者たちに向き直る。

「負傷者の救護を最優先に。倒壊の危険がある建物は封鎖し、避難所を確保してください。すでに魔物の脅威は去りました。だから……街の復興を始めます。今すぐです」


一瞬の沈黙の後、

「はっ!」

と力強い返事が重なり、彼らは次々と部屋を出ていった。


扉が閉まり、静寂が戻る。

エルとシーラ、二人きり。


「……ありがとうございます」

小さく頭を下げるシーラに、エルは答えなかった。ただ、その表情は先ほどよりもわずかに柔らいでいる。


その時、控えめなノックの音がした。

「シーラ様……」


扉が開き、メイが姿を現す。

その腕には、ぐったりと意識を失ったアリーナが抱えられていた。血に汚れた衣服と、浅くも確かな呼吸。


「アリーナ様をお連れしました……北門での活躍は見事というほかありません」

メイはアリーナが見事に役目を果たしたことを伝える。


シーラは息を呑み、駆け寄ろうとするが、それをエルが止める。

そして静かな声で、しかしはっきりと告げた。


「生きているわ。治療も済んでいる。丸一日メイを相手にしてたんだもの……今はゆっくりと寝かせてあげなさい」


その言葉に、張り詰めていた空気が、わずかに緩む。


戦いは終わった。

街中に入り込んでいた魔物たちも、東門を取り囲んでいた魔物たちも、周りを警戒するように動いていた魔物たちも、かき消すかのように、姿を消していた。

兵士も傭兵も冒険者たちも、釈然としない思いを抱えながらも、生き延びて、街を守れたことに歓喜の声を上げる。

恐怖で怯えていた街の人々も、徐々にではあるが、助かった喜びを表している。

そう、終わったのだ。苦しく恐ろしい戦いは終わりを告げた。


だが――これは終わりではなく始まりなのだ。

この部屋から、シャガートの街の“その後”が、静かに始まろうとしていた。

シャガートの街をめぐる戦いもようやく終了です。

主人公がほとんど出てきていませんでしたが、その分、次回からは主人公のゲスな様子が書かれる……といいな。



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